
パートナーから別れを切り出されたり、交際相手に電話やSMSを拒否されたりという“別れ話”は突然やってくるようにも思われるがはたしてそうなのか。最新の研究では別れの兆しはかなり前から芽生えており、別れ話が持ち上がった時点でもはや関係修復は不可能であるという――。
別れに到る関係悪化の2つの段階
日本の離婚件数は2002年(28万9836組)をピークに徐々に減少してきているが、厚生労働省の2023年の人口動態統計月報年計によると、2023年の離婚件数は18万3814件で、2022年の17万9096件から微増している。
また同居20年以上のいわゆる「熟年離婚」は年々増えてきており、2022年の「熟年離婚」件数が過去最高だったことが数字に表れている。
周囲を見渡しても離婚は珍しいものではなくなっているが、世のカップルはどのように別れているのだろうか。新たな研究によると“別れ話”は決して突然やって来るのではく、時間をかけてゆっくりと関係が悪化し、ある時点でもはや関係修復が不可能になり、その事態を迎えてはじめて別れ話が浮上してくるという。つまり別れ話が持ち上がった時点ですでに別れは決定しているのだ。
■カップル1万組以上の12年~21年にわたる関係性を追跡!
ドイツのヨハネス・グーテンベルク大学マインツ校とベルン大学の研究者が今年3月に「Journal of Personality and Social Psychology」で発表した研究では、破綻する関係はランダムに悪化するのではなく、驚くほど正確に予測できる特定の衰退をたどることを報告している。
研究者らはドイツ、オーストラリア、イギリス、オランダで実施された4つの国別調査で1万1295人の個人から得たデータを分析した。これら4カ国はすべていわゆる「WEIRD」であり、つまり西洋(Western)、教育(Educated)、工業化(Industrialized)、豊かさ(Rich)、民主主義(Democratic)の国であり、個人が自由に関係のステータスを選択できる国である。
研究では何千組ものカップルの12年から21年にわたる関係の満足度を追跡し、別れに至るまでの期間に満足度がどのように変化したかを調べた。そして最終的に別れたカップルと、一緒にいたままのカップルを比較した。
■「前終末期」に気づけば別れを防げる?
彼らの分析では、関係悪化の2つの段階が特定されたのだ。
●前終末期:この初期段階は数年間続くことがあり、満足度がゆっくりと徐々に低下するのが特徴である。
●終末期:「移行点」に達した後、満足度は急激に低下し、1~2年(7~28カ月)間続き破局を迎える。
つまり最初にパートナー間の関係性の不満がどちらかに感じられ、「前終末期」として数年から場合によっては数十年続いた後、それをさらに燻ぶらせた場合には「終末期」に突入して急激に関係性は悪化していくことになる。終末期に達したカップルの関係は必ず終わることになるという。
逆に言えば、前終末期の時点ではまだ関係修復が可能ということにもなる。
カップルの2人で過ごす時間と頻度はやはり関係の低迷や悪化を占ううえで重要な指標になると思われる。外食やレジャーなどを2人で楽しむことやセックスの回数が減ったことで「前終末期」が疑われてくるのだろうし、長期にわたってセックスレス状態であれば「終末期」に突入していたとしてもおかしくなさそうだ。
さらに興味深いことに、カップルがこれらの段階を同時に経験することは通常はないことも明らかになっている。別れ話を切り出した方は、すでに長い期間関係に不満を感じていて別れることを決めており、一方で切り出された方は驚くもののその後に急激に関係を悪化させることになるという。
“熟年離婚”に到る「終末期の衰退」とは?
パートナーからの別れ話が突然に思えたとしても、そのパートナーにとってはじゅうぶんに時間をかけて考え抜いた末の申し出であり、その萌芽はかなり以前にさかのぼるものであることになる。
終末期に突入して急激に関係が悪化する現象を研究者らは「終末期の衰退」と呼んでいる。これは、死の前に認知能力や幸福度が衰える様子を説明するために使われていた概念を借用したもので、恋愛関係も終わる前に同様の予測可能なパターンを辿るということだ。
20年以上も同居してきた熟年カップルが“熟年離婚”に到るのも、この「終末期の衰退」で説明がつきそうだ。傍から見ればこれまで一緒にだった年月を考えれば少しくらい夫婦喧嘩をしてもうまく収まりそうにも思えてくるが、当人たちは急激な関係性の悪化という「終末期の衰退」に襲われており、離婚せざるを得なくなっていることになる。カップルであった期間の長さは関係ないのだ。
この研究結果は現在交際中の人々にとっては警告と希望の両方を与えてくれるものだ。関係修復を望むのであれば前終末期の時点で対策を講じるべきであり、望まないのであればいつの日か移行点という“閾値”を越えて破局へと導かれることになる。
研究者らは、関係が不安定なカップルは、取り返しのつかない状況に陥る前に助けを求めるべきだと忠告している。こうした関係のパターンに気付くことは重要であり、関係が急速に悪化し始める前に、つまり関係が終末期になる前に対策を講じることが重要なのである。
そして関係性の悪化や疎遠な状態に気づいた場合、ひょっとするとパートナーが別れを考えているのではないかと疑ってみることも必要なのだろう。まだ終末期に入っていないのであれば、この時点での話し合いで関係が修復できる可能性があることになる。
今回の研究は自由恋愛が当たり前となっている社会を前提にしたものであり、文化的普遍性については制約があるが、おおむね日本の社会にも適用されるのではないだろうか。
もはや引き返せなくなる地点である“ポイント・オブ・ノーリターン”はパートナー間においても存在することを肝に銘じておきたいものである。
※研究論文
https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2Fpspp0000551
文/仲田しんじ
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