
「ちゃんと説明したはずなのに、なぜか伝わらない」「思った通りに動いてくれない」。 部下や取引先とのやりとりでこんなモヤモヤを感じたことはないだろうか。実は、“伝わらない理由”の多くは、話し方ではなく「伝え方のズレ」にあるという。「結局、どうしたら伝わるのか?」の著者である、脳科学者の西剛志氏に「相手の心に届く伝え方」の3つのポイントについて話を聞いた。
1. 相手の“バイアス”を読む
まず意識したいのが「相手のバイアス=思考の癖」を知ること。人は自分の価値観に沿った情報を無意識に選び取る習性があるという。なかでもビジネスシーンで注目すべきは、次の2つ。
・安定バイアス:変化よりも安心感・確実性を優先する。現状維持が心地よいタイプ
・不安定バイアス:新しいもの・変化に価値を感じる。チャレンジ志向タイプ
たとえば、部下に業務を依頼する場合。
安定バイアスの強い相手には、「これまでのやり方をベースに」と伝えると安心感を与えることができる。逆に不安定バイアスの強い相手には、「今までにない新たな取り組み」といった刺激的な言葉を使うことで、相手がより安心感やモチベーションを持って受け入れられるという。ポイントは、“中身は同じでも、相手に合わせて言葉を変える”こと。
相手のバイアスを知るには、雑談にヒントがある。 「いつも同じランチにしてしまう」「急な変更は苦手」などの言葉があれば、安定バイアス寄り。 「新しい店を見つけるのが楽しい」「変化がないと飽きる」といった言動があれば、不安定バイアス寄りと見ることができる。
2. 「脳タイプ」で伝え方を変える
人には、どの感覚で情報を処理するのが得意かという“脳の使い方のタイプ”があるという。
・視覚タイプ:図や映像など「目からの情報」で理解するのが得意
・聴覚タイプ:会話や説明など「耳からの情報」で理解するのが得意
・体感タイプ:実際の体験や感情を通して理解するのが得意
自分や相手の脳タイプを知りたい場合、例えば「好きなレストラン」について説明してみよう。
以下のように脳タイプにより伝え方が異なる。
視覚タイプには「インテリアが洗練されていて、明るく広々してたよ」と“見た目”で。
聴覚タイプには「落ち着いた音楽が流れていて、スタッフの会話が楽しかった」と“音”で。
体感タイプには「コーヒーの香りに癒されて、ゆったり過ごせた」と“感覚”で。
ビジネスの現場でも、映像を見せて説明すると効果的な人もいれば、口頭で細かく話した方が理解しやすい人も。また、「まずやってみる」と体感で覚える方が早い人もいるだろう。こうした感覚の違いに目を向けるだけで、伝わり方が格段に変わるというから驚きだ。
3. 「価値観のズレ」に気づく。“ゴール重視”か“プロセス重視”か?
「どれだけ丁寧に説明しても、相手が納得してくれない」そんなときは、価値観の違いを見落としている可能性がある。特に注目したいのはこの2つの軸だ。
・ゴール重視タイプ:結果・スピード・効率を重視
・プロセス重視タイプ:取り組み方・納得感・自分のペースを重視
ゴール重視の相手にプロセスの魅力をいくら伝えても刺さらない、また逆も然りだ。相手の価値観を知るためのヒントは、実は相手の「手帳の使い方」にもあるという。手帳にびっしり予定を書き込んでいる人は、ゴール主義の可能性が高め。反対に、空白が多い手帳を使っている人は、プロセス重視の傾向があるという。
もちろんこれは一つの目安に過ぎないが、会話の中で相手の言動や行動パターンを観察してみると、意外と価値観が見えてくるものだという。
相手の“受け取り方”に合わせて、自分の“伝え方”を変える
伝えたいことがあるとき、私たちはつい「自分がどう話すか」に意識が向きがち。しかし本当に「伝わる」ために大切なことは、「相手がどう受け取るか」に合わせること。今回紹介した3つのポイントは、すべて“相手に寄り添う視点”から成り立っている。「話し方に自信がない」と感じる方も、まずは“相手を観察すること”から始めてみてはいかがだろう。相手を知り、言葉選びや伝え方を少し変えるだけで、あなたのメッセージは相手の心に届くようになるだろう。
【取材協力】
西剛志氏
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。
1975 年、宮崎県高千穂出身。東京工業大学大学院生命情報専攻卒。博士号を取得後、特許庁を経て、2008 年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。
30 代で対人関係やストレスが重なった影響もあり難病を宣告されるも、脳の研究を通して自身のストレスをなくすことに成功し、半年で病気が完治。この出来事をきっかけに、「うまくいく人と、うまくいかない人との違い」を本格的に研究するようになる。
現在は、世界的に成功している人たちのコミュニケーションや脳のしくみ、才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めてこれまで3万人以上に講演会を提供。テレビ朝日系『羽鳥慎一モーニングショー』や日テレ系『カズレーザーと学ぶ。』など各種メディア出演も多数。
著作は 20 万部のベストセラー『80 歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)をはじめ、『1万人の才能を引き出してきた脳科学者が教えるやりたいことの見つけ方』(PHP 研究所)、『脳科学的に正しい!子どもの非認知力を高める17の習慣』(あさ出版)、『結局、どうしたら伝わるのか?脳科学が導き出した本当に伝わるコツ』(アスコム)など、海外を含めて累計発行部数 42 万部を突破。
文 / Kikka