大人になるにつれ、ほしいものは努力や時間をかければ大体手に入るとわかってきた。だがしかし、それだけでは手に入らないものもある。その一つが「おもちゃのカンヅメ」だ。
森永製菓株式会社が販売しているチョコレート菓子「チョコボール」のキャンペーンで、かならずもらえる「おもちゃのカンヅメ」。箱についた“くちばし”と呼ばれる取り出し口に、“金”のエンゼルがあれば1枚、“銀”のエンゼルなら5枚集め、郵送で応募できるというものである。
きっと、知らない人はいないと言っても差し支えないだろう。なぜなら、発売当初から58年間、その方法は一切変わらないのだから。
中身は社長も知らない
多くの人の夢“金”のエンゼル。ハガキに貼って郵送する応募方法も、58年前から貫く
「おもちゃのカンヅメ」は、「チョコボール」が発売された1967年から58年続くキャンペーンだ。
第56代おもちゃのカンヅメ「キョロクレーン缶」
2025年2月には、第56代目「おもちゃのカンヅメ」が、“クレーンゲーム”になって登場。その企画・開発を担当する、森永製菓株式会社 菓子マーケティング部チョコボール担当・中野詩菜さんにお話を聞いた。
現在、おもちゃのカンヅメを担当する中野詩菜さん
「発売から58年間続く『おもちゃのカンヅメ』キャンペーンは、『チョコボール』の価値そのものだと考えています。だからこそ、方法はずっと変わっていません。今も昔も、いちばん大切にし続けていることは、開けるワクワク感です。
中身は、当てた人のみぞ知る秘密なのも、ワクワク感のため。弊社の社長ですら内容を知りません。また、社内でも考案するのは代々のチョコボール担当者のみというこだわりを徹底して、一人で考えているんですよ。
私が携わった56代目は、クエックエックエッ~♪でおなじみの『チョコボールのうた』を聴きながら、クレーンゲームを楽しむことができます。そして、クレーンゲームで獲得を狙うのは秘密のおもちゃです」(以下「」内、全て中野詩菜さん)
子ども心を忘れない大人層「キダルト」も取り込む
新たな「おもちゃのカンヅメ」を考案する際には、時代背景に注目。何が喜ばれるか、さまざまなものを参考にしているという。その中で近年では、子ども心を忘れない大人層「キダルト」(キッズとアダルトから成る造語)の存在感も大きくなっているそうだ。
「少子化のいま、キダルトは玩具市場を下支えしているとも言われる注目の存在です。だからこそ、“大人も遊べる”“大人も買いたくなる”商品であることは外せないポイントですね」
1999年の“過去缶”(写真左)と“未来缶”(写真右)
過去のおもちゃのカンヅメでいえば、1999年には、ミレニアムの盛り上がりから“過去缶”“未来缶”。謎解き人気から、謎を解かないと開けられない“開かずのカンヅメ”。2022年には、プログラミング教育を反映して“プログラミングで歌うキョロちゃん缶”。2024年には、前年のカプセルトイブームを受けて“キョロガチャ缶”が企画された。
「どれも、子どもにも大人にも楽しんでいただけるものだと思います。ちなみに“キョロガチャ缶”では、カプセルトイの何が出てくるかわからないワクワク感が、中身が非公開のおもちゃのカンヅメと親和性が高かったようです。実際に“キョロガチャ缶”を手にしたユーザーがXに投稿したところ、53.4万件ものインプレッションがありました」
そして56代目は、キダルトにも大人気のクレーンゲーム型。これまた注目を集めそうである。
大人も楽しめる企画で魅力をリマインド
「復刻! きがえるキョロちゃん当たるキャンペーン」では、復刻版のストラップをプレゼント
「チョコボール」が仕掛けるワクワクは、「おもちゃのカンヅメ」だけではない。たとえば、「復刻! きがえるキョロちゃんあたるキャンペーン」などといった、当時子どもだった大人に向けた復刻キャンペーンも企画している。
「とんねるずさんが『チョコボールのうた』を歌った1987年のCMを火付けに、90年代~2000年代は、マスコットキャラクターの“キョロちゃん”がブームになりました。女子高生を中心にかわいいと話題になり、キョロちゃんのプリクラやグッズ、アニメなど、キョロちゃんを主役にしたマーケティングを展開していた時代です。
こうした復刻キャンペーンは、当時を知る30~50代の方に向けたもの。今一度、チョコボールを認識していただこうと、大人の方も楽しめる企画で存在をリマインドしています」
ベースにあるのは、確かな商品力
1967年に発売された「チョコボール」。箱の形状もキョロちゃんも、いまとさほど変わらない
「チョコボール」が老若男女に愛される大きな理由は、もう一つ。それは、大人が食べてもおいしいことだろう。筆者も仕事の合間につまむが、くちばしからコロコロと一粒ずつ出しながら頬張るチョコボールの、あの頃と変わらない味ったら!
いや、むしろ、味わいはパワーアップしているような?
箱の上部にある“くちばし”を開けて取り出す。子どもの頃から幾度と繰り返した行為
中野さんによると、近頃では筆者のような大人の小腹満たしに、コンビニエンスストア中心に売れているそうだ。
「仕事の合間や夕食までの時間などに、食べすぎなくてちょうどいい量で小腹満たしができるといった、大人の方からの需要があります」。確かに。28gという量は、多すぎず少なすぎず。実にちょうどいい。
ちなみに、“子どもも楽しめるものを”という想いで開発された当時から、チョコボールの作りはほぼ同じ、とも。
直径1cmほどのチョコボール。コーティングされた表面のチョコレートは手につきづらく、スマホを触る機会の多い大人にも嬉しい
「チョコボールが生まれたのは、板チョコレートが主流の時代です。当時は、まだチョコレートが子どもにとって気軽に買えるお菓子ではありませんでした。当時から今と同じような形状で、中にピーナッツが入った、優しく香ばしい味わいです。おいしさのためにピーナッツがちょっと大きくなるなどの変化はありますが、大きくは変わらないですね」
つねに商品力の強化、とりわけおいしさのブラッシュアップは大切にしていると続ける。
おなじみのフレーバー3種。おもちゃのカンヅメが当たるのは「チョコボール」のみ
現在、『チョコボール』は『ピーナッツ』味のほかに、『いちご』味、『キャラメル』味、そして季節限定の味の4種類。さらに、関連商品も多数ある。
「先日、2種類のフレーバーで『グミチョコボール』を発売しました。これは、昨今の菓子市場でのグミ人気を受けて開発したものです。いま、グミを食べる大人の方も増えています。新たなおいしさで、こうした方々にも再度チョコボールの魅力をお届けできたらと考えています」
“子どもも大人も楽しめる”ロングセラーだからこそのチャンス
いまや「チョコボール」の認知は、8割を超えているそうだ。だからこそ、「お客様に思い出すきっかけさえ与えられれば、安心して手にとっていただきやすい商品だと思う」と中野さんは自負する。
「ただ、58年間続く商品だからこそ、昔のものと思われている側面もあります。だからこそ、季節限定フレーバーや関連商品で商品を活性化したり、キョロちゃんの活躍の場を広げたりと、時流に合わせて挑戦することも大事だと考えています。
おもちゃのカンヅメ、キョロちゃん、そしておいしさ。この3つの要素が三位一体となって、常に今の「チョコボール」を知ってもらうきっかけづくりを発信していきたいです」
老若男女の夢が詰まっているともいえる「おもちゃのカンヅメ」。その向こうには、ロングセラーに甘んじず、常に楽しさとおいしさを追求する姿があった。今後にも注目だ。
残念ながらエンゼル不在!
取材協力/森永製菓株式会社
取材・文/ニイミユカ