プナンに学ぶ私たちがスマホから受ける影響
奥野先生:プナンは私たちの鏡でもあります。ここで注意するべきは、大きな力を持つようになったプラットフォームの存在です。
──検索、SNS、動画にEC、さらにはAIと、私たちはスマホを通して、さまざまなプラットフォームを利用しています。おかげで生活や仕事は便利で快適になりました。
奥野先生:問題は、その意思決定に私たちが参加しているわけではないことです。
例えばSNSは、ユーザーが自発的にコンテンツを生成するので、民主的、自律的に運営されるように見えます。しかし、それがどのように評価され拡散していくのか、アルゴリズムには運営側の意志が働いており、ユーザーからは見えません。
一人一台スマホを持つようになり、プラットフォームはぼう大なデータを収集できるようになりました。私たちとの間には、決定的な情報の差があって、データを掌握するプラットフォームが、自分たちの価値観で世界を設計していく。これって、プナンと現地政府・企業の間で起こっていることと、よく似ていますよね。私たちもスマホを通して、相当な支配を受けていることが、よりわかりやすいプナンとの対比で理解できます。
──日本の社会で、スマホを手放すのは難しいけれど、どの部分の支配を受け入れ、どの部分は拒絶するか、選択はできます。プラットフォームが暴走する可能性もあるから、監視も必要です。
それに、プナンの事例をヒントに、今よりもっと平等な仕組みを、自分たちが構想できるかもしれない。いち社会人として、燃えてきます。
奥野先生:プナンが今後どのように、スマホと資本主義を受け入れていくのかはわかりません。彼ら独自のやり方だってあるはずです。プナンの今後の生き方が、私たちのとても良い手がかりになります。
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自分で自分のことを理解するのは難しいもの。プナンという他者の姿を通して、私たちが置かれた状況を客観的に見ることができた。
テクノロジーが社会に与える影響はさまざま語られるなかでも、人類学の視点は古くて新しい。今後も人類学から、暮らしと社会を見つめるヒントをお届けしたい。
取材・文/小越建典