
AIが早産児の完全静脈栄養を改善
新生児集中治療室で治療を受けている早産児のうち、消化器系の発達が不十分で腸管で栄養を適切に吸収できない児には、点滴で栄養を与えられることがある。これを、完全静脈栄養(TPN)という。
TPNの処方は医師が行うが、残念ながら、処方の適切性を判断するのは困難であり、間違いも起きやすい。こうした中、人工知能(AI)が、早産児の栄養管理を改善し、児が正常に成長し発達する可能性を高めるのに役立つことが、新たな研究で示唆された。米スタンフォード大学小児科准教授のNima Aghaeepour氏らによるこの研究結果は、「Nature Medicine」に3月25日掲載された。
新生児の約10%は、予定日より3週間以上前に早産で生まれる。研究グループによると、予定日より8週間以上早く生まれた場合、腸管から栄養を吸収する準備ができていないため、TPNが必要になることが多い。しかし、早産児が十分なカロリーを摂取しているかどうかを判断するための血液検査は存在しない上に、早産児は、必ずしも空腹時に泣いたり、満腹になると落ち着き、満足を示すわけでもない。そのため、TPNが適切に行われているかどうかの判断は難しい。Aghaeepour氏は、「世界中で、TPNは新生児集中治療室における医療ミスの最大の原因だ」と指摘する。
この問題を解決するためにAghaeepour氏らは、5,913人の早産児に対する7万9,790件のTPNの処方箋と、児の状態(治療やその効果など)に関する情報をリンクさせてAIアルゴリズムを訓練し、早産児に必要な栄養素とその量を予測することができるようにした。このアルゴリズムにより、無限のバリエーションを持ち得るTPN処方が15種類の標準的な処方に絞り込まれた。Aghaeepour氏は、「この15種類の処方は、医師、薬剤師、栄養士が推奨する内容とほぼ同じであることが判明した。しかし、AIによるこれらの処方を使えば、処方のスピードと安全性を大幅に向上できる可能性がある」と語る。
また、このAIアルゴリズムにより、早産児の医療データを用いて、15種類の処方のうちどれが必要なのかを予測できることも示された。さらに、児の成長や健康状態の変化に応じて、例えば「No.8の処方箋を5日続けた後、No.3を1週間、次いでNo.14を数日間」という具合に、毎日、推奨する処方箋を調整できることも確認された。
AIによるTPNの処方と実際の処方を比較するために、10人の新生児科医に、早産児の過去の臨床情報と、実際にその児が受けたTPN処方、およびAIが推奨したTPN処方を誰が作成したかを告げずに提示し、より良いと思う方を尋ねた。その結果、医師はAIが生成した処方の方を一貫して好ましく評価することが示された。
さらに、AIに過去の患者の電子カルテ情報を提示し、早産児が実際に受けたTPNがAIの推奨と大きく異なっていた事例について調べた。その結果、そのような児では、死亡率、敗血症、腸疾患のリスクが、AIの推奨と一致していた児よりも有意に高いことが判明した。最後に、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のリアルワールドデータ(3,417人の早産児に処方された6万3,273件のTPN)を用いて検討しても、AIアルゴリズムは同様の予測能を示すことが確認された。
このような有望な結果が得られたものの、研究グループは、AIアルゴリズムが何かを見落としていないかどうかを確認するために、AIの推奨事項を医師や薬剤師が確認する必要があると指摘している。共著者の1人である、米スタンフォード・メディシン・チルドレンズ・ヘルスのエグゼクティブ・ディレクター兼最高薬剤責任者であるShabnam Gaskari氏は、「AIによる推奨は、電子カルテに追加された情報に基づいているため、記録に不足があると推奨は正確ではなくなる。よって、最終的には臨床医が推奨内容を検討する必要がある」と説明している。
研究グループは次の段階として、通常の方法でTPNを受けた早産児と、AIが推奨するTPNを与えられた早産児を比較する臨床試験の実施を計画している。(HealthDay News 2025年3月27日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.nature.com/articles/s41591-025-03601-1
Press Release
https://med.stanford.edu/news/all-news/2025/03/prematurity-nutrition0.html
構成/DIME編集部
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