
世界における〝電子国家のお手本〟となっているのが、行政サービスを100%電子化したエストニアだ。各種手続きがオンラインで簡潔にすむ同国のシステムは、マイナンバーカードのさらなる普及のための参考になりそうだ。
エストニアでもおなじみのサウナにどっぷり入浴し、リフレッシュした心身でお出まし!
バルト三国の最北に位置するエストニアは、世界で最も進んだデジタル社会を持つICT(情報通信技術)大国として知られている。2002年には、15歳以上のすべての国民に、日本のマイナンバーカードに当たる「eIDカード」の提供を開始。現在では行政サービスの100%が電子化され、同サービスのオンライン利用率は、e‐Taxが98%以上、出生登録が85%、婚姻届が56%、離婚届が53%に達している。ここまで「eIDカード」の利用率が増えた理由について、エストニアのプレスブリーフィングに参加した、駐日エストニア共和国大使のマイト・マルティンソンさんは次のように話す。
「『eIDカード』も、スタート当初は利用率が伸び悩みました。利用できるサービスが少なかったからです。その後、対応するオンラインサービスが増えると利用率は上昇。申請や処理にかかる労力や時間が削減される有益性がエストニア全土に認知され、一気に浸透していきました」
現在では、公共交通機関の利用や銀行取引の本人確認、携帯電話契約など「eIDカード」と紐付けされたサービスは5000を超えた。「eIDカード」を持ち歩くことのないデジタルIDアプリも利用されているそうだ。ちなみにエストニアでは、ポイントの付与やキャッシュ還元といった特典はなく、持つことによる純粋な利便性が、国民に受け入れられたという。
運転免許証や『iPhone』との一体化が進むマイナンバーカード。さらなる利用シーンの拡大で、より必要不可欠なものになるはずだ。
今回のブリーフィングは都内のサウナで開催。エストニアではサウナが人々の関係を深める重要な場とのこと。写真右は駐日エストニア大使のマイト氏(右)と商務官のオリバー・アイト氏(左)。エストニア現地のサウナ(写真左)からもキーパーソンがオンラインで参加。
エストニアとは!?
北欧にあるエストニアは人口約136万人、国土は九州とほぼ同じ約4.5万平方メートルを有する。ヨーロッパの中でもトップクラスのICT専門家の集中度を誇り、エストニアのサービス輸出の30%がICT分野から生み出されている。
世界から注目集める主な電子化サービス
〈1〉世界初の電子住民プログラム「e-Residency」
パスポートとクレカがあれば〝電子住民〟になれて企業も設立可能! 10人に1人が事業者
〈2〉選挙の電子投票システム「i-Voting」
スマホで簡単に参加できることからネット投票率は50%超!
エストニアは、2005年から電子投票システム「i-Voting」を使った世界初のオンライン投票を実施。当初の利用者は有権者の1%程度だったものの、2023年には2人に1人がオンラインで投票を行なった。特に25歳~54歳の層では55%~66%がオンラインを利用している。日本に導入されれば若年層の投票率アップが見込めるかも。
そのほかにも海外で進んでいるデジタル政府総合ランキング2024
1位:シンガポール 2位:英国 3位:デンマーク 4位:米国
5位:韓国 6位:オランダ 7位:エストニア 8位:サウジアラビア
9位:ドイツ 10位:ニュージーランド
2024年調査では7年ぶりにシンガポールが首位に返り咲き。7位にはエストニアもランクインしている。日本は行政DXの遅れやAI導入のスピード不足から、トップ10から外れて11位という結果に。
※出典/早稲田大学総合研究機構電子政府・自治体研究所
取材・文/安藤政弘 撮影・編集/田尻健二郎