2025年1月9日、内閣府は「国民生活に関する世論調査」を発表した。質問の中に「日頃の生活の中で、悩みや不安を感じているか」という問いがある。それに対して「はい」と回答した人は78.2%にも達していた。8割近くの人が不安や悩みを抱える不透明な時代に支持されているのは、Youtubeでも人気を博す現役の住職でもある大愚元勝さん。新刊『愚恋に説法 恋の病に効く30の処方箋』も話題の大愚さん。「恋愛ができる人は仕事もできる」という大愚さんに、1回目ではいい恋愛やパートナーシップのために大切なことを、ここではウェルビーイングな人生を送るための、自分の育て方について伺った。
「国民生活に関する世論調査」
話題の恋愛指南本「愚恋に説法」の大愚和尚に聞く、恋愛も結婚も〝無理ゲー〟な時代を生き抜くコツ
2025年1月9日、内閣府は「国民生活に関する世論調査」を発表した。これは1957(昭和32)年から、年に1回行われ、国民の生活満足度、収入、食生活など世相を反...
ブッダが教える「絶対NG」な10の行動
――生きるということは、常に考え、行動することだと1回目で解説いただきました。経験は人によりもたらされます。いいい人と出会い、人生の好循環に入るために、やってはいけない10のことがあると言います。
大愚元勝さん(以下・大愚):2600年前にブッダは、人としてやってはいけない10の行動のチェックシートを作っています。それは「十重禁戒(じゅうじゅうきんかい)」というものです。下記に仏教用語と現代語訳を紹介します。
まず、あなたがこういう人物にならないこと。そして、こういう人物と付き合わないことで、ウェルビーイングな人生は実現するはずです。
(1) 不殺生(ふせっしょう)―命に対する思いやりがない、無意味にサイコパスな人。
(2) 不偸盗(ふちゅうとう) ―モノ、金、時間を許可なく取るスーパールーズマン。
(3) 不邪淫(ふじゃいん)―快楽だけのセックスを貪る快楽至上主義者。
(4) 不妄語(ふもうご)―心にもないことを言う嘘つき。
(5) 不酤酒(ふこしゅ)―酒やドラッグなど中毒性のあるものに耽り、はっちゃける人。
(6) 不説過(ふせっか)―人の過ちをいつまでも許さない執念深い人。
(7) 不自讚毀他(ふじさんきた)―自慢、自賛の気持ちが強く、マウント取りまくる人。
(8) 不慳法財(ふけんほうざい)―モノ、金、知識を出し惜しみするドケチ。
(9) 不瞋恚(ふしんに)―怒りつづけ、恨みを持ち続けるブチギレ大魔神。
(10) 不謗三宝(不ぼうさんぽう)―仏法僧をけなし、敬わない俺様キャラ。
十重禁戒と言っても、自分のことは分かりにくいもの。では周囲の人はどうでしょうか。破りまくっている人は、けっこう身近にいると思います。例えば、結婚の話をすると不機嫌になる恋人や、出世をちらつかせながら何もしない上司は、貴重な時間を奪う「不偸盗」です。「昔はこうだったよね」など、過去の失敗話をする親や先生は「不説過」です。お世辞ばかり言って心がない後輩は「不妄語」ですし、自分の自慢を繰り返すママ友は「不自讚毀他」です。
十重禁戒を参考に、相手を冷静に見つめていると、それはあなたが自らを顧みる手掛かりになります。あなた自信が十重禁戒を犯さなくなるでしょう。それがあなたの人間力を高め、いい人といい経験を引き寄せる下地をつくります。
その上で気をつけたいのは、自分の感情を律する…いや、「殴り倒して」生きることです。ブッダも「自分の感情ほど信じられないものはない」と説いています。恋をしたり、何かに夢中になったりすると、暴れ馬のように感情が暴走することがあります。そこをコントロールして生きることで、人生の好循環が始まるのです。
SNSは嫉妬の増幅装置と心得よ
――感情を律することは難しいです。特にSNSを見ていると、同級生の暮らしぶり、ライバルの仕事の様子、別れた恋人の生活などに見入って、落ち込む人も多いです。
大愚さん:別れた恋人のアカウントを見つけて「子どもがいる」「若いパートナーと結婚している」「高級リゾートホテルに泊まっている」などと、憤懣やる方ない嫉妬心をたぎらせている人は多いです。
投稿から相手の情報を得るたびに妄想が膨らみ、歪んだ好意や後悔の念が膨張しその感情があなたを傷つけるようなことが起こります。それが進むと怒りや嫉妬、すなわち仏教用語の「慢」(他人と比較して心が高ぶる状態)が溢れ出てきます。
その結果、時間がそこに取られてしまい、集中力も奪われ、すべきこともできず、感情の奴隷になります。相手のSNSに誹謗中傷のコメントをしてしまえば、自分の一生が台無しになる可能性も孕んでいるのです。
つまりSNSは感情の増幅装置なのです。気になる相手がいても、それはあえて見ずに、仕事や趣味、勉強など自分のすべきことに集中する。そこから道は開けていきます。
――仏教の教えは、現代を生き抜く知恵に溢れています。新刊『愚恋に説法 恋の病に効く30の処方箋』にも「忍辱(にんにく)」(じっと耐える修行)、「薫習(くんじゅう)」(そばにいる人の影響を受けること)など、多くの仏教用語を交えて、悩みの解決に向けて導いています。
大愚さん:ブッダは別名「医者の王」と呼ばれ、現代の精神科医や心理学者のような心の病の専門家でした。ブッダの人生は、病、老い、死など人間のあらゆる苦しみを乗り越える方法を見出し、人々に説いてまわって約80年の一生を終えたのです。
この教えを自分の生活に取り入れるには、『ダンマパダ』という本を携帯するといいでしょう。多くの出版社から文庫版が刊行されています。本には感情のコントロール法、執着との付き合い方、自制の必要性、賢人と愚者の違いなどを平易な言葉で書いてあり、迷ったときに、パッと開くと、そこに欲しい言葉が見つかることも。それはあなたの心を揺さぶり、行動指針になることもあるでしょう。
私のYouTube『大愚和尚の一問一答』でもダンマパダについて紹介していますので、チェックしてみてください。
いずれにせよ、人生を有意義にするには、仏教の「身口意の三業(しんくいのさんごう)」が重要です。これは、思いを口に出し行動することで、運命を変えていくことをいいます。「運命」はあなたの「人格」で決まる。「人格」は「習慣」からできている。「習慣」はあなたの「無意識の三業」から元になっているという教えです。
習慣、人格、運命をいい方向に変えるには、善いことを意識し、口に言葉を変え、行動に移して、無意識の三業を変えればいいのです。修行はいつからでも始められます。人生をよく生きるために、ブッダの教えを取り入れて人としての魅力を開花させてください。きっといい状態で、毎日を過ごせるはずです。
――善く生きようとすることは、まずは自信を持つこと。心に「自灯明」(自分の基準を持ち、自分を頼りに生きていくこと)を持ち、執着を手放して生きる。自分を俯瞰し、律しながら生きていれば、やがて慈しみの気持ちが育まれ、それは自分に還ってくる。この循環の中で生きることが、ウエルビーイングだと言える。
『愚恋に説法 恋の病に効く30の処方箋』1760円(小学館)
出会い、片思い、失恋、不倫、執着心、セックス…30人の恋愛の不安や悩みに、豊富な人生相談経験を持つ大愚和尚がブッダの教えとともに進むべき道を示す。恋の苦しい状況を脱するための「蜘蛛の糸」が見つかる一冊。
大愚元勝(たいぐ げんしょう)
佛心宗大叢山福厳寺住職。慈光グループ会長。僧名「大愚」は、大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意。駒澤大学、曹洞宗大本山総持寺を経て、愛知学院大学大学院にて文学修士を取得。僧侶、事業家、セラピスト、空手家と4つの顔を持ち、「僧にあらず俗にあらず」を体現する。YouTubeチャンネルの登録者数は71万人、企業研修や講演も多く手がける。
取材・文/前川亜紀