2025年1月9日、内閣府は「国民生活に関する世論調査」を発表した。これは1957(昭和32)年から、年に1回行われ、国民の生活満足度、収入、食生活など世相を反映する調査でもある。その質問の中に「日頃の生活の中で、悩みや不安を感じているか」という問いがある。それに対して「はい」と回答した人は78.2%にも達していた。そんな不透明な時代に支持されているのは、Youtubeでも人気の現役の住職でもある大愚元勝さんだ。新刊『愚恋に説法 恋の病に効く30の処方箋』も話題の大愚さんに、よく生きるための秘訣を伺った。
「国民生活に関する世論調査」
恋愛も結婚も「無理ゲー」な時代を生きている
――将来に不安を抱えていると、愛し合い、助け合いながら生きるパートナーが欲しくなります。しかし、恋愛はとても難しく、結婚は遥か彼方にあると思っている人は多いです。
大愚元勝さん(以下・大愚):多くの方から人生相談を受けており、今、4500人ほどお待ちいただいていますが、相談の多くが恋愛や夫婦関係の問題です。恋愛は一般的な人間関係とは異なり、その人の心の奥、背景、抱えているものまで見せ合い、共有する関係です。
相手の気持ちを深く汲み取り、関係を調整するという、家族を超えた深いコミュニケーションを行います。お互いのライフスタイルで合わない部分や、互いの嫌なところを見つけたら、その存在を認めつつ、改善のために話し合いを重ねることも必要です。そのうちに、「所詮は他人。互いに気に食わないことがあっても、それを超えて関係を築いていこう」という覚悟も固まっていくでしょう。
それでも、うまくいかないことだらけというのが恋愛です。痛い目を見ながら学んでいくしか道はありません。パートナーとの関係に正解はありませんから、手探りで進めていくしかないのです。
――恋愛経験が豊富な人が、いいパートナーシップを築いている例が目立つのは、振ったり・振られたりの経験を経て心が育ち、寛容になっていることもあります。
大愚:恋愛は生きていく上で大事な学習だと思います。誰もが最初は初心者です。最初は不器用に始まり、失恋で傷つき、片思いや振られることに苦しみ、やがて次の恋愛をして、世界の広さを知る。その経験を重ねて、相手を尊重する心が生まれ、自分の感情を制御できるようになるのです。
しかし、今の時代、自分に合わない人がいれば、すぐブロックしたりミュートにしたりして、深い人間関係を遠ざけて生きる人が多い。これは恋愛とは真逆の思考です。結婚どころか恋愛さえも「無理ゲー」と思う人が増えているのは当然です。
また、好きな人に出会えたとしても、関係を調整する訓練ができていないまま恋愛をすると、執着心が暴走してストーカーのようになってしまったり、「思っていた人と違う」と蛙化現象(相手の言動で気持ちが冷めること)が起こってしまったりもするのです。
それどころか、もっと自分を愛してくれる人を求めて浮気に走ったり、自分を傷つけるような恋愛を繰り返したり。「一生恋愛をしないまま終わる」という方もいます。この恋の悩みは、新刊『愚恋に説法 恋の病に効く30の処方箋』で紹介していますので参考にしてみてください。
恋愛上手な人は、仕事もできる
――恋愛は相手を理解し、関係を調整する訓練にもなり、これは、「よく生きる」ことにもつながっています。ただ、相手がいることが前提。まず、一人でよく生きるために、大愚さんは「自灯明(じとうみょう)」を持つことが大切だと言います。
大愚:自灯明とは、2600年前に生きたブッダが最後に解いたお話です。一生かけて、人間の本質を追求し続けたブッダは、亡くなる前に、弟子たちを周りに集め、「自らを灯火(ともしび)とし、自らをよりどころとせよ、他を頼りとしてはならない」と言いました。つまり、自分の基準を持ち、自分を頼りに生きていくことを説いたのです。
人生でうまくいかないことがあった時は、現実を理解して受け入れる。そして、相手の行動が持つ意味を考え、自分のすべき行動を冷静に考えます。その上で今後どうするか、自灯明を頼りに考え行動するのです。
自灯明は最初こそ小さいですが、経験を重ねるほど育っていきます。この自灯明がある人は、恋愛のみならず、人生そのものが、豊かで満たされたものになっていきます。
――自灯明は、自分を信じる力を育てることでもあります。経験を重ねるほど、正しいことを見抜く力や道を拓いていく力が養われていく。この力があれば、恋愛に留まらず、その他の人間関係も良くなっていくと気づいている人は多いです。
大愚:恋愛が上手な人、いいパートナーシップが築ける人は、仕事ができる人が多いと感じます。また、自灯明がある人は、自分を信じており主体的に生きていける。多くの挑戦を繰り返し、経験も重ねられます。これにより、自分の中に胆力や知見が育っていき、悩みも少なくなっていくという好循環が起こります。
――自分の人生を主体的に生きるという教えは、2025年元旦、大愚さんが配信した、「主人公」という言葉と重なります。
大愚:主人公は、仏教用語で「本来の自分」「本来の自己」という意味があります。坐禅を組み、主人公と自問自答し、向き合いながら自分というものを見つけていきます。それを続けても、仏教の答えでは「本来の自己は無い」ことになるのです。
なぜならば、本来の自分というものは、自分で作るもので、もともとあるものではない。自分と思っているものは、今までの経験や他人からの影響で作られた自分なのです。これを言い換えれば、今後の生き方で、自分はいかようにも変わっていけるということでもあります。尊敬できる友人・善友と交友関係を持ち、自助努力を怠らず、精進していくと、人はどんどん変わっていきます。
――これから時代や価値観は大きく変化します。その時にどう動くかは自分次第。自灯明を持ち、主人公と向き合い、常に考え、行動する先に道は開いていく。後半では、現代社会に役立つブッダの教えについて、解説していきます。
『愚恋に説法 恋の病に効く30の処方箋』1760円(小学館)
出会い、片思い、失恋、不倫、執着心、セックス…30人の恋愛の不安や悩みに、豊富な人生相談経験を持つ大愚和尚がブッダの教えとともに進むべき道を示す。恋の苦しい状況を脱するための「蜘蛛の糸」が見つかる一冊。
大愚元勝(たいぐ げんしょう)
佛心宗大叢山福厳寺住職。慈光グループ会長。僧名「大愚」は、大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意。駒澤大学、曹洞宗大本山総持寺を経て、愛知学院大学大学院にて文学修士を取得。僧侶、事業家、セラピスト、空手家と4つの顔を持ち、「僧にあらず俗にあらず」を体現する。YouTubeチャンネルの登録者数は71万人、企業研修や講演も多く手がける。
取材・文/前川亜紀