ついに聞き比べが実現!
さて3月も終わりに近い頃、待望のeBay盤が届いた。レコードは結構汚れていたので、クリーナーで綺麗にする。さあ、第三形態、第二形態、第一形態の順で聴き比べてみよう。リビングで聴く常識的な音量、僕のシステムではボリューム46で聴く。第三形態、悪くはない。何せ今までこれでいいと聴いてきた音だ。ところが第二形態を聴くと、音が前に出てきて輪郭がはっきりする。特にベース音が豊かになりよく響く。あまり経験したことがない不思議な印象だが、A面序盤のゆったりしたパートがもっとゆったり聴こえる。曲調が変わりアップテンポでエネルギッシュになる3曲目「RHAYADER GOES TO TOWN」は、より力強く華やぐ。第二形態を5と評価するなら、第三形態は4くらいの差がある。
では注目(注耳)の第一形態だ。アルバム冒頭の静音部、チリがすごいが声も楽器もクッキリ聴こえる。演奏が本格的に始まると、音に厚みがありよく伸びてスケール感が出る。素晴らしい音と思うもノイズ頻発、音の歪む箇所もあり聴き苦しい。さらに針飛びが発生。仕方なく手動で針を進めると、その先はいよいよ歪む。聴き苦しいどころか、聴くに耐えない。
これは参った。あまりにも状態が悪すぎる。出品者のコンディション評価はVG/EXだった。前がジャケット、後が盤の状態への評価だ(ただし出品者の自己評価なので厳密なものではない)。VGとはVery Goodの略で訳すと“とても良い”だが、僕の経験上、この世界では“悪い”を意味すると思われる。EXはExcellentで“素晴らしい”だが、この世界では“良い”程度。ちなみにEX+は“かなり良い”、EX-は“そこそこ良い” 、VG+は“悪くはない”と解釈している。このネットで見たeBay盤のジャケット画像はまさにVG=“悪い”状態だったが、実物も見事に劣化していて出品者の評価通りだ。
しかしEX評価のレコードは、汚れている、ラベルにはスピンドル痕が目立つ、深い傷がいくつかある。ネットの画像ではわからなかったが、実物はかくものバッド・コンディションで、僕が出品者ならせいぜいVG。いや、音を聴いていればG(=Good“ひどい”)で、こんなハズレ盤をつかんだのはマト1を買い出して初めてだ。
さて我慢して聴いてA面終了、B面にする。ノイズと歪みはA面ほどではないが、最後の曲の最後で針飛び発生。それでも、B面の方マシだ。一般にB面はA面より再生回数が少ないからだろう。それにしても、どう扱えばこうまでの状態になるのか?。
こんなレコードながら、多少は聴くことができるノイズも歪みもない再生音は恐ろしいほどにフレッシュ、鮮度がいい。第二形態を5としたが、こちらは6くらい。もし良好盤で聴いたら7と評するかもしれない。そのくらいのポテンシャルを感じる。
真保氏が『初盤道』で数字が増えるにつれて音質の鮮度が落ちていくと書いているが、“鮮度”はレコードの音の良さを伝える言葉として最適だと思う。と言っても大半の方は、“鮮度”と文字に書かれてもピンと来ないだろう。僕だってこの道に入っていなかったら、“鮮度”など抽象的な表現だ、と納得しない。
しかしながら『スノーグース』であれ、『聖なる館』であれ、『危機』であれ、マト1(厳密にはいろいろあるが、この場ではこう呼ぶ)とそうでないレコードを聴き比べれば、ほとんどの人がマト1の音の方がいいと判断するはずだ。ロックを聴かない人でもわかるくらい、明らかな差がある。そしてその違いを“鮮度がいい”と表現されると、聴いた人は“そういうことか”と腑に落ちると思う。最も古いプレス(マト1)が最も“鮮度がいい”、この摩訶不思議な現実をどうかご体験いただきたい。
こうした一連の体験で、『スノーグース』UKマト1第一形態状態良好盤が欲しくて欲しくてたまらなくなった。eBay他ネットで探し、リアルでは中古レコード店を歩き回る。いつ見つかるか気の長い話になりそうだが、時間がたっぷりある前期高齢者ならではの新たな楽しみ誕生だ。
PS 2ヶ月に一度、マト1のレコードを聴く会「レコードの達人」を開催しています。最新回は4月19日(土曜日)13時半から、東京・大岡山のライブハウス「グッドストックトーキョー」にて。内容はCD時代に発売されたアルバムのレコードとCDの聴き比べが中心で、使用再生機器はアナログプレーヤーがLINNの1000万円級システム、CDプレーヤーがエソテリックの800万円級システムという超高級機です。アルバムはクイーン『メイド・イン・ヘブン』、カヴァーデイル&ペイジ『カヴァーデイル&ペイジ』、エリック・クラプトンの新作『Meanwhile』他を予定しています。超高級再生機&ライブハウスならではの大音量が好評のイベント、来場のご予約はこちらからどうぞ。
文/斎藤好一