
クラフトビールといえば、その名の通り職人気質のビールが思い浮かぶだろう。ところがこの4月、NECの生成AIとコエドブルルワリーのビール職人の協同開発によるビールが誕生した。生成AIがレシピを提案したという。どんなビール?
5年で劇的な進化を遂げたAI
NECとコエドブルワリー(埼玉県川越市)が協同開発したビール「人生醸造craft」第2弾が、4月1日に発売された。
NEC 生成AI事業開発統括部長の千葉雄樹さん(左)と、コエドブルワリー代表取締役の朝霧重治さん。
「人生醸造craft」は若手世代が先輩や上司世代と話のきっかけが掴みにくい、コミュニケーションが図りにくいといった声がきっかけで生まれた。ビールがコミュニケーションツールになればと、20代~50代、それぞれに合わせたビールが開発された。
実は、2020年に第1弾が発売されている。その時は小学館の情報誌(CanCam、Oggi、Domani、Precious、DIME、BE-PAL、女性セブン、週刊ポスト)の過去40年分のデータをNECのAIに学習させ、そのビッグデータからAIが各世代のキャラクターを分析した。それを元にコエドブルワリーのビール職人がレシピを考案して醸造した。
それから5年。AIとの協働はどのように進化しただろうか。
今回の協働相手は、NECの生成AI「cotomi」(コトミ)。20代~50代のキャラクターをインターネット上のビッグデータから分析して各世代のペルソナを作成。社内と世界中のオープンデータからレシピ情報を収集して検索。それぞれに合うビールのレシピを作成するまでを担った。
「cotomi」の特長は、細かい指示を要さず、曖昧な指示に対しても対応できることだと、NEC 生成AI事業開発統括部長の千葉雄樹さんは話す。実際、今回の「人生醸造craft」造りで「cotomi」に出した指示は次の通り。
「20代をイメージした新しいクラフトビールのレシピを検索して教えて。」
30代、40代、50代も同じように指示した。その結果、たとえば20代のビールでは、次のような内容を回答。
生成AI「cotomi」が提案した20代のビールレシピ。レシピだけでなく説明文、このレシピが導き出された理由も。
「cootmi」はビールのネーミング、原料の麦の比率やホップの品種まで含めたレシピ、各年代のイメージとの関係性までを回答した。コエドブルワリーの職人は、その提案を叩き台にしながらチャット画面で「cotomi」と協議。ビール職人の知見を加えてブラッシュアップしていった。
今回、「人生醸造craft」第2弾計画を持ちかけたのはコエドブルワリー側だった。朝霧重治社長は、「AIとビール職人、一見、対極にあるように思われますが、人間とAIは対立するものではなく、一緒に考えていく環境ができるんじゃないか。そう思ってNECさんに声がけしました。実際に協働してみて、醸造スキルのある仲間がひとり増えたような気がします」と手応えを語った。
醸造を担当した渡邉賢さんは、「AIから提案されたレシピは原料の品種まで入っていて驚きました。AIと協議しながらレシピを完成させていくのですが、どこで完成とするのか、それを見極めるのは私たちです」と話す。最終的にはビール職人が決める。
世代別ビールをチャートで説明するコエドブルワリーの朝霧社長。自社で調べた限り「AIとビール職人が協働でビールを醸造したのは、たぶん世界で初めて」と話す。
新ビール製造工数40%削減! できた時間で人間は何をする?
AIとの協働による成果として、通常の新ビール開発にかかる工数の約40%が削減できた。
「新ビールを開発する際、レシピや原料についての予備的な調査にかなり時間を費やします。ここをAIがやってくれたことで、スタートがとても早くなりました」(朝霧社長)
一方、NECは「人生醸造craft」第2弾の共同開発を踏まえ、今後さらにクリエイティブな領域にAI活用の場が広げられるだろうと話す。
「すでにAIは企画書の作成などクリエイティブな作業もこなしていますが、今回のビール造りのような、職人さんの手が直接入るものづくりをサポートする機会は、なかなかありませんでした。今後は、ものづくりの領域でもサポート、あるいは信頼できるバディとして活躍の場を広げていけるのではないかと考えています」(NEC千葉雄樹さん)
AIがリサーチしてアイデアを出し、提案の叩き台まで作ることで、人に時間的な余裕ができる。アイデアが生まれやい環境ができる……そんな将来が垣間見えそうな「人生醸造craft」第2弾。多世代でビールを飲みながら、AIとの協働についての意見や期待を聞いてみるのも楽しそうだ。
NECの生成AI「cotomi」とコエドブルワリーのビール職人の共作「人生醸造craft」第2弾は次の通り。
「人生醸造craft20代」はフレッシュなピンク色が特徴。スタイルもビール界ではフレッシュなHazy IPA。桃の甘酸っぱさとジューシーな味わいが若さを感じさせる。アルコール度数は4.0%と低めだ。ピンク色はハイビスカスの花から抽出。
「人生醸造craft30代」はミントとグレープフルーツのフレーバーが爽やかに溶け合いながらもIBUは30と、ちょっと苦めなSession IPA。ビールには珍しい青色は、スピルリナという青緑の藻から抽出。人工着色料に頼らないところがコエドブルワリーらしい。
*IBU:ビールの苦味を表す国際苦味単位。日本の大手メーカ産ラガービールは20前後が多い。
「人生醸造craft40代」はHefe Weizen(へーフェ・ヴァイツェン)という小麦を使った南ドイツのビールスタイル。やや白濁したイエローに、バナナのような香りとスパイシーな香り。やさしい甘さと奥深さを感じさせるビール。
「人生醸造craft50代」は深い赤と、芳醇なモルトとカラメル香の重厚感あるスタイルBelgian Red Aleが人生の円熟味を感じさせる。アルコール度数は6.5%と高めで、ゆっくりグラスを傾けるのが似合う。
<発売情報>
コエドブルワリー公式オンラインで4月1日から販売。6月5日から順次出荷予定。
4本セット1,980円。
取材・文/佐藤恵菜