
道路の陥没は、地下設備の老朽化や破損が主な要因だが、それ以外にも原因が考えられる。この記事では、道路が陥没するメカニズムや、最近起こった道路陥没の事例をわかりやすく解説する。
目次
2025年1月、埼玉県八潮市で発生した大規模な道路陥没事故は記憶に新しい。
こうしたニュースをきっかけに、道路陥没の原因やメカニズムに関心を寄せる人は多いのではないだろうか。
本記事では、なぜ道路が陥没してしまうのか、理由を深掘りする。道路陥没の原因やメカニズムだけでなく、記事の後半では過去に発生した道路陥没の事例や、気になる疑問もまとめた。ぜひこの機会に、昨今問題となっている道路陥没への理解を深めよう。
道路陥没の発生状況と主な原因
道路陥没とは、主に地面の下にある地下設備の老朽化や破損から始まり、最終的に地面が落ち込んで穴が開いてしまう状態のこと。ここでは、道路陥没の発生状況と原因を詳しく解説する。
■全国の道路陥没状況
国土交通省が2022年12月12日に更新した資料「道路の陥没発生件数とその要因(令和4年度)」によると、令和4年度に全国の市町村で発生した道路陥没の件数は9,059件にも及ぶ。
同資料に記載されている、令和2年度の調査結果から道路陥没の発生件数を追ってみよう。令和2年度に全国の市町村で発生した道路陥没件数は7,909件、令和3年度は8,837件と続いており、発生件数はここ数年で増えていることがわかる。
(参考:国土交通省「道路の陥没発生件数とその要因(令和4年度)」)
■道路陥没の主な原因
先述した国土交通省の資料によると、全国で発生している道路陥没のうち、約半数は地下排水溝などの道路排水施設が要因とのこと。その次に多いのが、上下水道を含む地下や地上に設置された施設(道路占有物件)に起因するものだ。
特に排水溝や水路といった埋設管は、雨や雪に降られることで土砂の流出による影響を受けやすい。このように、地下設備がダメージを蓄積し続けたり、老朽化したりすることが、道路陥没の主な原因といえるだろう。
参考:国土交通省 道路の陥没発生件数とその要因(令和4年度)
■道路陥没が起こる根本的な原因
雨や雪などの自然現象は、当然ながら人間がコントロールできるものではない。地下設備がダメージを受けたり、老朽化したりするのは仕方のないことだ。
それよりも問題視すべきは、道路が陥没するまで設備の劣化を放置してしまっている現状である。技術者が揃い、インフラが整っていれば、道路の陥没はある程度対策できるのではないだろうか。このように考えると、根本的な原因もなんとなく見えてきそうだ。
道路陥没のメカニズムとは?
道路陥没の主な原因がわかったところで、具体的にどのような流れで道路が陥没していくのか、もう少し深掘りをしてみよう。ここでは、国土交通省が設立したネットワーク「下水道場」や、国土技術政策総合研究所の資料を参考に、道路陥没のメカニズムを解説する。
参考:国土交通省 Technology Revolution~道路陥没を防ぐ~
参考:国土技術政策総合研究所 4.下水道管路施設に起因する道路陥没のメカニズム
1.地中にある埋設管が破損する
地中には、水道管やガス管、下水管など、普段は目に見えないさまざまなインフラ設備が埋設されている。これらの埋設管が破損する要因は諸説あるが、老朽化のほか、管の継手や取り付け部の接合不良などが影響しているともいわれているようだ。
2.降雨などにより土砂や水が地中へ流入する
降雨などにより、土砂や水が地中へ流入したり、地下水位が上昇したりすることで地盤が不安定になる。地盤が不安定になると、埋設管などを支える地盤材料が管内に吸い込まれ、老朽箇所や接合不良の箇所が悪化する流れだ。
3.土砂の流出などに伴い地中に空洞が発生する
管内に流入した土砂や水が破損部から流出すると、埋設管とその周辺地盤は次第に不安定になっていく。このような流れが降雨などの度に繰り返され、管体への不均等な荷重や、管体のひび割れ、地中への空洞発生などを引き起こしてしまうのだ。
4.時間の経過により空洞が拡大・道路が陥没する
序盤にあった小さな破損や、接合不良は、大雨などの自然現象が繰り返されることで空洞などの不具合が拡大。このような状態を放置することで、やがて道路が陥没するというわけだ。
過去の道路陥没事故の事例と原因
ニュースに取り上げられるほどの大規模な道路陥没事故は、残念ながら度々発生している。ここでは、過去に起こった道路陥没事故の事例と原因を紹介しよう。
■埼玉県八潮市の道路陥没事故(2025年1月)
2025年1月28日午前10時頃、埼玉県八潮市の県道松戸草加線中央1丁目交差点にて道路が陥没。埼玉県の公式サイトによると、本件は下水管の破損に起因して発生したと考えられている。水路が閉塞したことから、汚水の流出を防ぐため、県はしばらく市民へ下水の使用を控えるよう要請した。
その後、人命救助優先のため、国の許可を得て汚水を川へ放流するが、現場には土砂崩落などの危険が多く潜んでいたことから、救助活動は難航した。
参考:埼玉県 中川流域下水道管に起因する道路陥没事故について
■東京都調布市の道路陥没事故(2020年10月)
2020年10月18日午後12時30分頃、東京都調布市東つつじヶ丘2丁目にて道路の陥没事故が発生。原因は地下深くで行われていたトンネル工事と考えられており、事故発生当日の午前9時30分頃には地面の沈下が確認されていた。
NEXCO東日本による現場調査の結果では、マシンで地下を掘り進める際に土砂を過剰に取り込んでしまったことや、地盤の緩みが主な要因とされている。
本件において、NEXCO東日本は道路陥没によって住宅や建物に生じた損害の補償を行っている。2020年の道路陥没以降、周辺エリアには地中の空洞や道路の陥没が相次いで見つかったものの、該当エリアの住宅との交渉が終了していないこともあり、2024年10月時点で地盤補修工事完了の目途は立っていないとのことだ。
参考:NEXCO東日本 東京外かく環状道路工事現場付近での地表面陥没事象等について
■福岡市博多駅前の道路陥没事故(2016年11月)
2016年11月8日午前5時15分頃、福岡市博多区博多駅前2丁目の交差点付近にて、大規模な道路陥没事故が発生。福岡市交通局によると、主な原因は地質や地下水位に起因し、地下で掘られていたトンネルの断面形状や安全確保の検討が不足していたことが、陥没を助長したのではないかとされている。
陥没現場は横幅約27m、縦幅約30m、深さ約15mと大規模なものだったが、幸いにも陥没箇所に巻き込まれるなどのけが人はいなかった。また、24時間体制で復旧作業が進められ、わずか1週間で通行再開にこぎ着けた点も当時注目を集めていたようだ。
参考:福岡市地下鉄 地下鉄七隈線延伸工事に伴う道路陥没事故について
道路陥没に関するQ&A
道路陥没について、気になる疑問と回答をいくつかまとめている。気になる項目があれば参考にしてほしい。
■道路が陥没したら責任や保証はどうなる?
国家賠償法第二条では、道路や河川、その他の営造物の設置や管理に瑕疵(安全性の欠如など)があり、他人に損害が生じた際は、国や公共団体が賠償責任を負うこととしている。加えて、他に損害の原因について責任を負うべき者がいる場合、国や公共団体は該当者に対して賠償を求めることが可能だ。
つまり、道路陥没の責任や保証は、その道路を管理するものが負うことになる。
■道路陥没の前兆はある?
事例として紹介した東京都調布市の道路陥没事故では、陥没の事象が起こる3時間前には地面の沈下が確認されていた。しかし、道路陥没は何の前兆もなく発生するケースも多い。
路面のひび割れ、歩いた際の感触の違和感などが道路陥没の前兆となる可能性もあるが、断定は難しいといえる。
■道路陥没の通報先は?
「#9910」で繋がる道路緊急ダイヤルや、国土交通省のLINE通報アプリを利用しよう。道路緊急ダイヤルは国が設置しているもので、道路の穴や路肩の崩壊、道路への落下物などといった、道路に関する異状の報告を24時間受け付けている。
LINEでは「国土交通省道路緊急ダイヤル(#9910)」という公式アカウントが同様の通報を受け付けており、より手軽に道路の異状を報告できる。
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/編集部