
社会の課題を解決するために、世の中にはさまざまな新しい事業が生まれている。特にウェルビーイング分野では、スタートアップと大手企業や事業担当者が提携し、新たな価値を生み出している。
目的やマネタイズ問題 ウェルビーイング事業で陥りやすい悩みをナレッジシェア
ウェルビーイング起業家と企業、そしてメディアをフラットな立場でつなげるイベント『Well-being Startup Hub』が、東京・品川区のCreation Camp TENNOZ(寺田倉庫)で開催された。同イベントは、スタートアップと大企業双方の課題の一助となるために、“企業×ウェルビーイング起業家×メディア”をつなげ、学びや一般認知の機会を提供するもの。ウェルビーイング市場の急拡大に伴い女性起業家の活躍の場が広がっていることから、特に女性起業家スタートアップと企業の連携を推進し、女性の更なる社会活躍を目指している。
Creation Camp TENNOZ(寺田倉庫)で開催された第1回『Well-being Startup Hub』
イベントを運営するのは、カンボジアと日本で複数の起業経験があり、微生物活性資材を用いた環境改善やSDGs投資などに貢献するプロジェクトを推進しているRBCコンサルタント株式会社のマツイダイスケ氏と、女性の頭髪からライフスタイルを変えていくヘアテック『Faview』を手がける株式会社ViewBEのCEO・鈴木葉留奈氏、そして女性向け商品のオフラインからデジタルまでの戦略や多角的PR支援を行う株式会社BlimeのCEO・上米良優季氏の3人。
『Well-being Startup Hub』を運営するマツイダイスケ氏、上米良優季氏、鈴木葉留奈氏(左から)
鈴木氏は、「スタートアップでウェルビーイングの事業をしている中で、さまざまな企業さまからウェルビーイングに関して質問をいただきます」と語り、「ウェルビーイング業界は流行っていてトレンドでもありますが、『結局何をしたいのか?』『どうやったらマネタイズできるのか?』『継続できるのか?』という点で、本当にいろいろなお悩みを聞きます」と明かした。「皆さんそれぞれでナレッジシェアしていただくことによって、新しい何かが生まれるのではないかと思い、 今回は“フラット”というキーワードで、3社で運営を企画しました」と語った。
会場には「家事をもっとシンプルに」という想いで創業したBetter Daysや、自宅で簡単に乳がんリスクをチェックすることができるセルフケアキットを手がけるDearS、広島の牡蠣養殖で大量に廃棄される筏(いかだ)や放置竹林の竹を資源化し防草材として活用するTEGOなど、ウェルビーイング事業に取り組む企業が参加した。
乳がんリスクをチェックするセルフケアキットを手がけるDearS
大手企業と組むことで「自社では絶対にかなえられないようなスピード感」が出せる
この日は「企業とスタートアップ新規事業提携の課題と成果」というテーマで、一般の女性向けにもサービスを展開する鈴木氏と株式会社ウィメンズ漢方の代表取締役・住吉忍氏、株式会社eminessの代表取締役社長・小松佐保氏がディスカッションを行った。
ディスカッションに参加した住吉忍氏、小松佐保氏、鈴木氏(左から)
住吉氏は、臨床漢方カウンセリング協会の理事を務め、全国の不妊治療や婦人科クリニックの漢方外来を担当。企業と提携し、女性の健康課題に関わる事業を推進している。スタートアップが大手企業と組むことに関して、自身もメリットは感じているという。「病院の中でいろいろお話をしていると、病気にはなっていない“未病”の段階で、女性にヘルスケアの興味を持っていただくにはハードルがあります。調子が悪いけれど病院には行きたくない人もたくさんいますし、その場しのぎで市販薬を使いながら我慢を重ねる方もいます」と現場を通して感じる業界の課題を語り、「病気の自覚がなかったところの人たちに関しても、資本や商品がある大手企業さまと一緒にアプローチすることでスタートできたかなと思います」と語った。
一方、「大手企業さんとの事業協創を進める中では、スピード感が異なることも多く、収益構造なども含めて『自分が』『我々が』という発想だけでは、継続していくことが難しくなってくる」と語り、「そこは乗り越えないといけないところだなと感じます」と語った。
小松氏は「変化し続ける女性の心と身体に『食』で寄り添う」をコンセプトに、女性の身体にうれしい食材を使ったプラントベーススイーツを届ける『MOON TREATS』を展開している。
初期は、自社ECでの販売のみであったが、現在はナチュラルローソンをはじめとした店舗でもスイーツを販売している。
大手企業との協働について、「大手企業さまのリソースを活用して、多くのお客様にアプローチできたり、一等地の店舗で販売できたりすることはありがたいこと」と語った。
ナチュラルローソンには、創業から約2年経ったタイミングで卸すことに。
「ナチュラルローソンさんが、フェムケア×食という切り口で商品を探している中でMOON TREATSに関心を持っていただきました。」
当時広報もいなかったので、PR timesやSNSで情報発信するなどの“1人でできうる範囲”の広報活動をしていたという。「小さな行動を積み重ねた結果、インフルエンサーさんやメディアが取り上げてくださるようになり、ナチュラルローソンさんに見つけていただいたのだと思います。お金をかけずとも、いろいろな形でPR活動はできるので、ベンチャーは伝えたいメッセージの切り口をあらゆる形でつくり、どんどん発信することが大事だと思います」と語った。
また大手企業と組む上で気を付けている点については、「さまざまなリクエストをいただくのですが、要望に応えているだけだと、“MOON TREATSらしくない商品”になってしまうため、常に『MOON TREATSらしさとは?』『この商品を発売した時に、本当にMOON TREATSのお客さまが喜んでくださるのか?』ということを考えながら、商品開発やーケティングを行っています」と明かした。過去にも実際に、ブランドのカラーに合わない大手メーカーからの依頼を断ったという。
『Faview』を手がける主催の鈴木氏は、ヘアテック領域でサービスを展開。オンラインでAIを活用し頭皮と髪のチェックや生活改善アドバイスを行う。利用者は専門家によるカウンセリングで自身の頭皮や髪の現状を把握でき、それぞれに合うケア方法やアイテムなどを提案してもらえる。化粧品企業とパートナーシップを組み、利用者が“より良い状態”になれるためのアイテムや食品を揃えている。また、一般女性向けのビジネスのほかに商品やコンテンツの監修、ヘアチェックシステムの連携で企業向けのビジネスも展開している。
鈴木氏もスタートアップ企業が大手と連携するメリットについて、「大企業さんのブランド力を使わせていただいている。ヘアチェックという文化はまだ一般的ではありません。大手企業さんと一緒にすることによって、私たちだけでPRするよりも圧倒的に早くPRすることができる。一方で私たちは企業様のお客様に “ヘアチェック”という文化を経験していただくことができます。私たちはAIを使っているので、そのデータを企業さまのマーケティングに活用いただいています」と語った。一方で、「大企業さんで同じものを作ろうと思ったらやっぱり資本力もあるため、すぐにできてしまうと思われると連携ができません。『私たちでないとできないものを』という気持ちで、ニッチさとスピード感で自社のコアコンピタンスをつくっています。」と明かした。
VCがいないスタートアップイベントだから「フラットな立場」でつながる
鈴木氏はウェルビーイング分野での新規事業について、「ウェルビーイング業界は、CAGR(※Compound Annual Growth Rate/年平均成長率)の勢いが良く、グローバルでも伸びています」と語る。
「どのように心地よい精神と共に暮らしていけるかを、皆さん一人一人も考えてらっしゃいますし、企業もお客さまや、抱えている従業員の皆さんに価値を提供したいという思いがあります。ただ、私自身も迷いながら試行錯誤しながら進んでいますが、マネタイズの課題や、ウェルビーイングという分野が広いため、『どこの分野でやるか』という迷いも出てきやすいです」と、ウェルビーイング事業で陥りやすい課題も説明。「フェムテック、ヘルステック、フードテック、スリープテックなどのメンタルヘルスなど、たくさん分野がありますが、アメリカ市場では全てウェルビーイングに統合され、心身のデータを介したビジネスに向かっている印象です。『定義領域が広い“ウェルビーイング”だからこそさまざまな企業が一緒にできること』が本当にたくさんあると感じているので、企業協働することで相乗効果を出していけると思います。『ウェルビーイング』という言葉が当たり前の世の中ができればいいなと思っています」と語った。
トークセッション後は、イベントに集まったスタートアップや新規事業担当者などが交流を行い、つながりを深めていった。運営に携わった鈴木氏は、「今回のイベントに関しては、いつも利用しているコワーキングスペースで、大企業さんやスタートアップの方々が同じ課題を持って、『ウェルビーイングって興味あるけど何をしたらいいの』『マネタイズをどうしたらいいの』と相談しあっていたのを見て、企業同士がつながりさえすれば、その辺りを一気に解決できるかなと思って企画しました」と開催のきっかけを明かした。
また、これまでに企業や起業家が集まるイベントに参加してきた鈴木氏は、「今回は私がスタートアップ、事業会社が2社の計3社で合同開催し、スポンサーさまは事業会社さんたち。ウェルビーイング新規事業がテーマという特殊な部分もありますが、VC(ベンチャーキャピタル)さんが運営やスポンサーに1人もいないスタートアップイベントというのは、実はすごく珍しいです。事業を生み出す方々だけが集まる場で、学びや一般認知の機会を提供できる場になったと思います」と語った。
「家事をもっとシンプルに」というBetter Daysが販売する自動ミルクメーカー『milkmagic』
ウェルビーイング分野の起業家や企業内の新規事業が増えてきている今、スタートアップと大手企業や事業担当者をつなげていく場は、ますます必要になってくるだろう。この化学反応が、新たな課題解決の道を生み出すかもしれない。
取材・文/コティマム