
「人は血管とともに老いる」といわれる。年齢を重ねれば老化する血管だが、年齢より若く健康な血管を保てている人もいる。そのヒントは数値との向き合い方にありそうだ。
ナビタスクリニック川崎院長
谷本 哲也さん
内科医。九州大学医学部卒。国立がんセンター中央病院などを経て現職。著書に『知ってはいけない薬のカラクリ』(小社刊)などがある。
病気の有無とは違う健康の〝バロメーター〟
がん検診は病気のある・なしを調べ、異変があれば誰もがすぐに対処すべきだ。しかし、生活習慣病の数値の結果は「一律に治療が必要なわけではなく、結果を活用する視点が大事」だと言うのは、内科医の谷本哲也医師だ。
「基準値を少しオーバーしたくらいですぐに投薬治療を、と焦るのは早計です。おすすめは、3回(3年)くらいの変化を見ること。自分の体質をつかみ、生活習慣の改善に役立てましょう。これらの数値を放置すると動脈硬化に繋がるのは事実で、その先には心臓や脳の重大な病気を起こす可能性もあります。数値は身体からの健康状態を伝えるメッセージと考えリスクを予想していきましょう」
数値が伝えてくるメッセージとは何か、確認していこう。
心臓の「死ぬ病気」とは?
狭心症
心臓を取り巻く血管や冠動脈が狭くなり、血液が流れにくくなってしまっている状態。その結果、酸素や栄養素が充分届かなくなってくると、胸の痛みや動悸、息苦しさといった症状が現れる。
心筋梗塞
心臓に酸素と栄養分を運ぶ冠動脈が詰まった状態。詰まることで血液が流れなくなり、心臓を動かしている筋肉が死んでしまう。突然胸の痛みや圧迫感、息苦しさなどが現れる。
脳の「死ぬ病気」とは?
脳梗塞
脳の血管が詰まることで、血液の流れが途絶え、脳の神経細胞が死んでしまう病気。脳梗塞になると、片方の手足の麻痺や痺れ、ろれつが回らないなどの症状が生じる。
くも膜下出血
脳動脈瘤という血管の膨らみがある日突然破裂することで起こる。激しい頭痛や意識障害、嘔吐などが代表的な症状。動脈瘤とは動脈の壁が弱くなった時にできるこぶ。
心臓から血液を運ぶ血管を動脈、血液が戻ってくる血管を静脈という。約30秒で全身をめぐり血液は心臓に戻ってくる。全身の血管を繋ぎ合わせると、全長9万kmほど。地球のおよそ2周半分の長さだ。
血圧を下げるには「減塩」より「運動」がおすすめ
人は誰しも、加齢とともに血圧がある程度は上昇する。
「肥満や運動不足、過度の飲酒やストレスなどが血圧上昇を加速させます。圧が強くなるということは、それだけ血管に負荷をかけてしまう」
下げるには、減塩や運動がおすすめだ。
「短期的には減塩で下がる人もいますが、そうではない人もいる。やはり長期的には運動習慣が重要。血管が広がるなどの効果により、血圧が下がります」
薬は一時的に数値を下げているだけで治しているわけではない。生活習慣の改善が必須なのだ。
検査時に血圧が高いなら家でもう一度測るべし
日本人のおよそ3人に1人が高血圧だといわれる。数値が高いと、いよいよ自分もか……と思う人もいるだろう。しかし、検査での数値はあてにならないケースが意外と多いという。「血圧は、一日の中でも大きく変動します、気候の影響や季節でも変動するもの。ストレスの影響も受けますし、前日の過ごし方や水分過多、寝不足の影響でも血圧は上がる。つまり、1回の検査で正しく測れている人は意外と少ないことを知っておきましょう」
血圧の3年間の変化を確認してみよう!
基準値前後だとしても〝じわじわと数値が上昇〟〝肥満傾向〟〝睡眠不足〟なら、睡眠時無呼吸症候群を疑おう。「睡眠時無呼吸症候群だと、呼吸が苦しく熟睡ができない。その結果、睡眠不足に陥り、血圧が上昇します。ほか、毎年高血圧気味の人が、急降下して正常値になっていたら、心房細動を起こしている可能性が。ずっと横ばいだったのに急な変化があれば要注意です」
白衣高血圧とは?
自宅などでは135/85mmHg以下でも、病院の診察室などで測定した血圧が140/90mmHg以上を示すケースのこと。血圧が高いことで受診をする患者の中で約20%いるという。「緊張などの影響で、自律神経の乱れが起こり、一時的に高血圧になります。一過性のものなので服薬は不要です」
二次性高血圧とは?
高血圧の背景に別の病気があるケースのこと。「原発性アルドステロン症など、血圧を上げてしまう病気がいくつかあります。病気を治さないと血圧は下がらず、降圧剤は効きません。高血圧全体の約10%は二次性高血圧だといわれ、若い人の高血圧の原因が二次性だったということは少なくない」
【Q】最近よく目にする、血圧つきスマートウオッチってどう??
【A】自分の数値の変化をとらえる意味では◎
「毎日着用することで、一日の中での血圧変動の傾向を確認するという意味では活用できると思います。自分の情報を蓄積することは、健康管理をするうえで重要。ただ、治療に伴い正確な血圧を測るならば、上腕式の医療用血圧計で測ることを推奨します」