
動画投稿アプリで広まった、退職に関する動画を投稿するクイット・トック。多様な働き方を示していると話題の一方で、クイット・トックにはリスクもある点に注意が必要だ。
目次
多くの人が利用するSNSアプリ「ティック・トック(TikTok)」上で、退職に関する動画を投稿する「クイット・トック(Quit-Tok)」が話題となっている。主に退職の理由や職場環境に対する不満をリアルに伝える動画が多い。
海外で広がりを見せているクイット・トックだが、一方で注意すべき点もある。本記事では、クイット・トックの概要や注目される理由、そしてクイット・トックを行う際に考慮すべきリスクについて解説する。
クイット・トックとは
クイット・トックとは、どのような意味を持つ言葉なのだろうか。ここでは用語の意味やクイット・トックが生まれた背景を解説する。
■クイット・トックの意味
はじめに、クイット・トック(Quit-Tok)とはティック・トック(TikTok)上で退職に関する動画を投稿する行為を指す。
ティック・トックとは、ショート動画を配信・投稿できるSNSプラットフォームの一つだ。気軽に日常の出来事を発信できることから、特に若者の間で人気を集めている。このティック・トックで退職の決断理由や、退職前後の様子を撮影したショート動画をシェアする動きが広がっている。
■クイット・トックの語源
クイット・トックは英語で「辞める」などの意味を持つ「Quit(クイット)」と、動画投稿アプリ「ティック・トック」を組み合わせた造語だ。退職に関する投稿がティック・トック動画として拡散されたのをきっかけに広まったことから、この名前が定着した。つまり、クイット・トックは文字通り「ティック・トックで退職を発表する」という意味になる。
■クイット・トックの動画の内容
クイット・トックには、さまざまな動画の内容が含まれる。代表的なものとして以下のような動画が投稿されている。
- 退職を申し出る様子を記録した動画
- 退職理由を語る動画
- 最終出勤日の会社での様子を記録した動画
- 職場の不満や問題点を暴露する動画
- 退職後の生活を紹介する動画
お世話になった会社へ感謝を伝えたり、仲間との楽しい思い出を残したりする目的で、退職に関する動画を投稿する人もいる。このような動画は退職を人生の転機ととらえ、投稿を見た人も投稿者の新しい門出を祝福する、前向きな投稿だ。
しかし、クイット・トックの大半の動画は、会社の不満や問題点を暴露するもの。このような内容は話題性があり、視聴者からのコメントやシェアを通じて急速に拡散されやすい。
クイット・トックが海外でバズっている理由
クイット・トックがアメリカをはじめ、多くの国で注目を集めている背景には、複数の社会的要因があると考えられる。
■SNSの影響力と拡散力の高まり
クイット・トックが広まった要因として、まずSNSの影響力の拡大があげられる。ティック・トックやXなどのSNSは、誰でも簡単に、短時間で多数に情報を届けることができる便利なツールだ。
共感を呼ぶコンテンツがおすすめされるアルゴリズムのため、多くの人が関心を持つ退職をテーマにしたクイット・トックのコンテンツは、急速に拡散される傾向がある。フォロワー数が少ない一般ユーザーの投稿が数百万回視聴されることも珍しくない。
また、ティック・トックやインスタグラムなどのSNSは、短い動画で効果的にメッセージを伝えられることから、視聴者の興味を引く特徴もある。
これまでブログやSNS上で、文字を媒体に共有されていた会社の不満や退職時のエピソードが、動画の形で視覚的に伝えられるようになった。この時代による変化も、クイット・トックのトレンドを生み出した要因といえるだろう。
■労働環境の多様化
リモートワークやフリーランス、副業の一般化により従来の終身雇用の概念が薄れつつあることも、クイット・トックが広まった背景にある。会社に頼らない新しい働き方が注目される中で、退職をポジティブに捉える動きが広がった。
クイット・トックは多様な働き方を受け入れつつある社会の変化を反映しており、新しいキャリアの可能性を示す手段ともいえる。また、コロナ禍で労働環境の問題が明らかになったことも、労働者の会社への帰属意識の低下、そして権利意識の高まりにつながっている。
■若者の働き方に対する意識の変化
近年、特に若い世代の間では「仕事のために生きる」のではなく「自分の価値観に合った仕事を選ぶべき」という考えが強まっている。
企業の文化や労働条件に不満を感じた場合、我慢するのではなく退職する選択を取る人が増え、より良い労働環境を求めて行動する姿勢が支持されるようになった。
転職や退職を公開する行為への抵抗感も薄れ、クイット・トックは「自分らしい選択」を肯定するコンテンツとしても人気を集めている。クイット・トックの流行は、このような価値観の変化の象徴といえるだろう。
クイット・トックをする際の注意点
クイット・トックは話題性があるものの、退職に関する動画の投稿には慎重になるべき理由がいくつかある。
■次の転職先に悪影響を与える可能性がある
昨今は、ほとんどの人が当たり前のようにSNSを利用している。就職や転職活動において、企業の採用担当者が応募者のSNSをチェックすることも珍しいことではなくなった。
SNS上で前職を批判する内容や不適切な退職方法を肯定する動画を公開していると、「会社の情報をSNSに公開するかもしれない」などのマイナスな印象を与える。その結果、他の応募者よりも不利になり、採用結果に影響を及ぼす可能性がある。SNSで発信をする際は、このようなリスクを認識し、感情的な投稿は避けるべきだろう。
■デジタルタトゥーとして残る
一度インターネット上に公開された情報は、完全に削除することが難しい。発信後に投稿を削除しても、デジタルタトゥーとして半永久的に残り続ける可能性がある。また、顔出しをしていなくても、アカウントの情報などから個人を特定することは容易だ。
クイット・トック動画を投稿した時点では問題ないと思える内容でも、将来的に自分のキャリアに悪影響を与えうる点に注意しよう。
■退職先とトラブルに発展するリスクがある
在籍中はもちろんのこと、退職後であっても職場の内部情報や同僚、上司の映像を無断で公開することは、プライバシーの侵害やNDA(機密保持契約)違反になる可能性がある。必要な許可を得ていない投稿は最悪の場合、法的な問題に発展するリスクもある点に留意しよう。
また、投稿したクイット・トック動画が会社への批判を含む内容の場合、退職した職場との関係が悪化するだけでなく、円満な退職が難しくなる場合も考えられる。
SNSの拡散力を活かした、退職に関するトレンドであるクイット・トック。自身の体験を赤裸々に語る動画は若者を中心に共感を集め、働き方の多様化を象徴する動きとして注目されている。クイット・トックは現代の労働観や価値観の変化を反映したトレンド現象といえるだろう。
一方で、クイット・トックで投稿する動画の内容には慎重さが求められる。動画を通じて退職を公表することで共感を得たり、自分の選択に自信を持ったりする効果があるが、将来のキャリアへの影響やトラブルに発展するリスクも存在する。
クイット・トックを行う際は、転職活動や今後のキャリアに悪影響を及ぼさないよう配慮が必要だ。リスクを十分に理解した上で、自分の感情を表現する自由と将来への影響のバランスを取りながら、クイット・トックを活用しよう。
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/編集部