いのちを感じさせる仕掛け
これは「いのちの量り」です。例えば、ハチミツをのせると5gと数値が出ます。これは1匹のハチが一生で集められる蜜の量です。ティースプーンの半分くらいの量。ハチの命は1か月しかないといわれますが、そのうち2週間の間に東京からロサンゼルスくらいの距離を飛んで蜜を集めて死んでいく。それを人間が毎朝たっぷりいただいている。そこにも命の営みがあることを感じてほしいのです。
コーナーではハチミツのほか、牛乳やコーヒー、水などもはかることができる
スーパーマーケットですから、レジもあります。ここを通っていくと映る自分の顔が牛や豚、野菜などに変わります。私たちは食べていただいたものの命でできていると感じてもらうためです。
DIMEチームの結果は鶏とタコ(この後たこ焼きを食べました)
世界の将来を変えうる提言
そして「未来のフロア」。
ここには鮨コーナーがあります。人が鮨を握っているでしょう、銀座の老舗鮨店『すきやばし次郎』の小野二郎さんです。今年100歳になる二郎さんがあたかもそこで握っているかのように投影されます。
二郎さんが握っているネタが陸上養殖の魚だったり、アニサキスフリーの魚だったりするのです。自然環境の変化によって、今まで豊富に揚がっていた魚介が獲れなくなってきている。従来、天然物が最上という価値観がありましたが、これからの時代、養殖技術によって育てられた魚介類も重要になってきます。
バーチャル二郎さんの握ったネタが前のタブレット画面に現れる仕掛け
面白い試みもあります。
ソニーといえば録音・録画のエキスパート企業というイメージですが、いま“録食”という試みをしています。これは例えば、おばあちゃんが味わい深い家庭料理をつくる様を記録して、それを永遠に残せるというもの。有名なレストランのシェフが“録食”したデータもあります。私が個人的に熱愛していた弘前の料理人がつくるナポリタンも、亡くなられる前に“録食”しています。
食を生み出す過程を記録することで、料理という行為がもつ温もりを感じられ、料理が何のためにあるのかを考えさせられます。ただ便利になるための道具ではなく、心を動かすものとして、この“録食”は価値あるものとなるのではないでしょうか。
そして最後は、新しいものではなく、古いものを展示しています。「EARTH FOODS 25」。昆布や鰹節、しょうゆ・味噌のほか、餅やあんこ、かんぴょう、こんにゃくなど、日本の食の知恵や技術がつまった食材や食品など25種を厳選したものです。
ここではリアルな食材や食品が美術館の作品のように展示されています。日本の食を何も知らない海外の人でも、興味を抱いてくれるようなパッケージにしているのです。
日本人が当たり前だと思っている伝統的な食材や食品も、世界の人にとっては何か発見があったり、転用や活用ができたりするのではないか。食文化を共有すると、日本以外の別の国でも新たな価値になるのではと思えるのです。食の知恵が各国にあるはずです。
25年後にサプライズが起きるプレゼント企画も!?
梅干しは「EARTH FOODS 25」のひとつです。梅干しは保存食として価値があり、日の丸弁当に代表されるように日本の象徴ともいえます。じつは今回、“万博漬け”という梅干しをつくる予定です。来場した方に引換券をお渡しし、25年後の2050年にプレゼントします。10歳で万博に来場した子が、35歳になって当時を思い起こしながら梅干しを味わう。これは、時を超えて命を意識することになります。
25年後の梅干し交換場所は・・・まだ明かされておらずお楽しみだ
本当のリアルな『EARTH MART』はパビリオンの外にあります。このパビリオンで何かしら気づいたり学んだりしていただき、これからの未来の日常につなげてほしいですね。
なんと、万博の開催中だけでなく、25年後に“万博漬け”の梅干しを貰える未来の楽しみが待っているというのだから驚きだ。
薫堂さんの粋な演出が随所に光る、空想のスーパーマーケット『EARTH MART』。会期中に足を運んで、食の未来に想いを馳せてもらいたい。
取材・文/インディ藤田 撮影/佐藤信次