
70年の歴史を持つNTTのテレホンサービス「177 天気予報サービス」が、2025年3月31日で終了する。
インターネット世代なら「あぁ、そんなサービスもあったな」程度の認識かもしれない。それも当然のことで、天気予報ならスマホを見ればいい。
ただ、これが50歳以上となると、知っているどころか、「177」についての思い出はひとつやふたつではないはずだ。かくいう筆者も、子どもの頃は遠足や運動会が近くなると、「177」へ毎日電話をかけていた記憶がある。
「177 天気予報サービス」のはじまり
「177 天気予報サービス」とは、固定電話や携帯電話から「177」にダイヤルするだけで、その地域の最新の天気予報を音声で聞けるサービス。
かつて、天気予報は軍事機密とされていた時期もあった。戦後すぐの1945年8月22日、ラジオ放送で公表が再開。その後、新聞やラジオで天気を知ることができるようになったものの、それだけでは台風被害などの減少になかなか寄与しなかった。
そこで、1946年2月、中央気象台予報課が「天気相談所」を開設。世の中の天気への関心が高まるにつれ、「天気相談所」には問い合わせが殺到するようになった。そこで気象台は関東電気通信局と協力して、テープレコーダーと電話を直結するシステムを始めることにしたのである。
1954年9月、東京で商用試験がはじまり、11月には名古屋・大阪、12月には京都・神戸へと拡大。1955年1月1日に正式スタートした。
当初、地域ごとに異なる電話番号が設定されていたが、出張者などから「統一してほしい」との声が寄せられ、1964年に全国共通番号「177」が誕生したという。
「177」のしくみ
サービスが始まったころは、日本気象協会の担当者が気象台が出す予報をベースに概況文や予報を書き、気象台予報官のチェックを受けて、それを読み上げたものを録音していたのだそう。「177」ではこうして録音した音声を繰り返し流していて、情報の更新は1日5回。私が頻繁に利用していたのはちょうどこの頃で、記憶の中の「177」は、緊張感とわずかな地元訛りが感じられ、親しみやすい印象だった。
その後、1998年ごろから天気予報部分の「晴れ」や「雨」などの部分は自動で、フレーズや単語ごとのアナウンサーの音声ファイルを組み合わせてテキストを生成し、NTT東日本/西日本側の装置で音声合成をするようになった。
ただ、天気概況(天気予報に対しての解説)部分は日本気象協会の担当者が毎回手動で音片を選択してテキストを作成。作った後は実際に「177」に電話をかけ、天気予報や天気概況に誤りがないかなど確認をしていたらしい。
そして、2019年からは日本気象協会が気象庁からの情報を「177」用のテキストとして自動生成し、音声ファイル化。とても自然で聞きやすい声へと進化していった。
現在のサービス提供の仕組み NTT東日本のWEBサイトより
なぜ「私」がいるところがわかるのか?
ところで、固定電話から「177」にかけるだけで、どのように電話している地域を特定していたのか。実は筆者は子どものころからこれが不思議でしかたなかった。
NTT東日本によると、「発信いただいた地域の交換設備により特定し、該当する地域の気象情報を提供しております」とのこと。固定電話なら、一度地域の交換設備を通るので、電話がかけられた地域を特定できるというわけだ。
ちなみに、固定電話がある地域以外の天気予報が聞きたいなら聞きたい地域の市外局番の次に「177」を押せばいい。
また、スマホから天気予報を聞きたいなら、市外局番を「177」の前につけることで自分の地域の予報が流れる。
サービス終了の理由
「177 天気予報サービス」は、当初、関東電気通信局が提供し、その後、電電公社、現在のNTT東日本・西日本へと引き継がれてきた。
最も利用者が多かったのは、インターネットが普及する前、固定電話が主流だった時代とみられる。記録は残っていないものの、NTT東日本によると「1988年頃には年間3億件以上の利用があったのでは」と推測されている。
現在残っているデータでは、2008年の年間利用件数は5,300万件。2015年には1,850万件、2023年には556万件まで減少した。
やはり、インターネットを介して見られる天気予報が普及したことで利用者が激減。設備維持が難しくなったことが、終了の決定打となったようだ。
スマホ全盛の今、「わざわざ市外局番をつけて177に電話する」という習慣はほとんどなくなりつつある。然るべき時代の変化ともいえるだろう。
ちなみに、サービス終了後しばらくは、「177」へダイヤルした場合、サービス終了の旨のガイダンスが流れるという。この時、そのガイダンスが流れている間は通話料金が発生するとのことだ。
最後の「177」は感謝を込めて
70年も続いた「177 天気予報サービス」。決められた時間の中で、1日何度も天気予報を読み上げ、録音するといった作業はとても大変だっただろうし、その裏にはきっと多くのトラブルもあっただろう。予報が変われば即座に対応し、時には機材トラブルや天候急変にも向き合いながら、正確な情報を届けようとする。想像以上に根気と責任を要する仕事だったに違いない。
それでも、電話越しに聞こえる〝声〟には、どこか温かさがあった。画面を見るのではなく、耳を澄ませて天気を知る──そんな時代の名残が、またひとつ消えていくのは少し寂しい気持ちにもなる。
長い間、毎日の空模様を伝えてくれた「177」。3月31日、最後の「177」に耳を傾けながら、その歴史を静かに見送ろうと思う。
取材・文/内山郁恵