
スポーツ自転車のブーム終焉が鮮明になってきました。
主要パーツを手がけるシマノや、世界トップクラスのメーカーである台湾のジャイアント・マニュファクチャリングの業績に急ブレーキがかかっています。
自転車は環境負荷が低く、山林が多い日本においては最適な趣味の一つであるようにも見えます。一過性のブームで終えるには、失うものが多いのではないでしょうか?
ピーク時から売上が1000億円縮小したシマノ
シマノはスポーツ自転車向けのコンポーネントを手がける世界的なメーカーの一つ。コンポーネントとは、変速機やブレーキ、クランクなど自転車の主要なパーツです。
コンポーネントを手がけているのはシマノのほかにイタリアのカンパニョーロ、アメリカのスラムがあります。カンパニョーロがロードバイク、スラムがマウンテンバイクに強みを持っていますが、シマノはどちらのシェアも高いことで知られています。各ブランドの性能差については様々な意見があるものの、品質の高さや生産能力、技術力を併せ持った総合力の強さにおいては、他社の追随を許しません。
特に自転車文化が深く浸透しているヨーロッパで支持されており、シマノの主力エリアの一つです。しかし、市場の変調が業績を直撃しました。
シマノの2021年度におけるヨーロッパの自転車部品の売上高は2169億円で、前年度の1.5倍となりました。2022年度は更に1.3倍の増収となり、2885億円まで増加します。しかし、2023年度に1000億円以上縮小して1866億円となりました。2024年度はそこから400億円程度しぼんで1479億円まで下がります。
※決算説明資料より筆者作成
2022年度をピークに急速な下り坂を迎えたのは、自転車メーカーのジャイアントも同じでした。売上高は2022年度に前年度比12.5%増の920億台湾ドルとなったものの、2023年度は16.4%減の769億台湾ドルまで縮小しています。
2024年度は第3四半期累計期間の売上高が576億ドルで、前年同期間比7.1%の減少。2024年10月から12月までの四半期の売上高がようやく前年を上回り、下げ止まりました。
50万円台のミドルクラス自転車が80万円台に高騰
日本においてもブームが終焉した様子がわかります。
シマノの日本における自転車部品売上高は2022年度が124億円、2024年は78億円でした。この数字は過去10年を振り返って最も少ないものです。2025年度は更に減少を見込んでおり、60億円を予想しています。
自転車産業振興協会によると、2024年のマウンテンバイクの生産・輸入台数はおよそ5万7000台。2022年は17万4000台でした。ロードバイクなどのその他自転車は2024年度が181万9000台、2022年度が205万8000台。勢いを失っています。
コロナ禍で三密を回避する動きが広がり、自転車やキャンプ、オートバイなど外で行う余暇が人気になりました。しかし、コロナ収束とともに余暇活動が正常化。その揺り戻しが起こるなど、ブーム終焉には複合的な要因が絡んでいます。しかし、シマノの自転車部品の売上高は、2023年度の第1四半期においてすでに2桁の減収に見舞われていました。日本においてコロナが5類に移行したのが2023年5月であり、一足先にブーム終焉の兆候は見えていたのです。
このときシマノは急速なインフレが進行して完成車の販売に減速感が漂っていると説明しました。やはり、価格高騰が主要因となったのでしょう。実際、自転車の価格は庶民の手には届かないほどにまで上がっています。
ツール・ド・フランスでも活躍するアメリカの有名な自転車メーカー、スペシャライズドにターマックという旗艦モデルがあります。シマノのコンポーネント・アルテグラを搭載した2021年の完成車の価格は55万円。2024年は82万5000円でした。第7世代から第8世代へと進化はしているものの、ミドルクラスでありながらその価格高騰ぶりは顕著。250ccクラスの新車のオートバイを上回る価格で取り引きされているのです。
ジャイアントの初心者向けアルミ製ロードバイクであるコンテンド 2は、2019年に8万4000円で販売されていましたが、2024年は12万9800円。ビギナーにとっては10万円を超えると高いと感じるはずで、簡単に手を出せる趣味ではなくなっています。
自転車競技の経済効果は5億円以上
日本は国土の約7割が山間地であり、海にも囲まれています。スポーツ自転車を楽しむには最適な国です。
日本における自転車の聖地に瀬戸内しまなみ海道があります。ここでは「サイクリングしまなみ」という大会が定期的に行われていますが、2024年における総合的な経済効果は5.2億円と試算されています。事業費は3.6億円ほど。大きな経済効果を生んでいます。
スポーツ自転車を一過性のブームで終わらせてしまうのはあまりにもったいなく、自治体や政府は地域振興の一環として盛り上げるべきでしょう。
フランス政府は2023年から2027年の自転車利用振興計画を発表し、自転車レーンの拡充、自転車産業の育成などを柱に掲げました。ヨーロッパでは公共交通機関の代替手段としてスポーツ自転車を選択する人が多くいます。専用レーンの敷設に年間2億5000万ユーロを投じ、2027年までに8万キロ、2030年までには10万キロに増設する計画を立てました。
一方、日本は自転車専用レーンが十分に整っているとは言えません。
趣味であるスポーツ自転車の購入に補助金を出せるはずもなく、政府や自治体の力で価格高騰の影響を抑え込むのは難しいでしょう。しかし、自転車に乗る人に優しい環境づくりや、しまなみ海道のようなブランドづくりを行うことで普及を後押しすることは可能。スポーツ自転車は地域振興に繋がるポテンシャルを持っているはずです。
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文/不破聡