【AJの読み】味が変わる、味を感じられない「味覚障害」が及ぼす影響を実感
抗がん治療に伴う味覚障害を疑似体験するため、筆者も「味の変わるハンバーグ」「味の変わる生ハム」「味の変わるパスタ」を試食した。
「味の変わるハンバーグ」は、すべての味が薄くなり、何を食べても味がしない状態を再現。肉本来の味はかろうじて感じるが、スパイスなど肉を引き立てる味がないため、もそもそとただ肉を噛んでいるという感じ。実際の患者には、食感だけが口内に残り、砂や泥を食べている感覚になることもあるという。
「味の変わる生ハム」はスイーツかと思うほど甘みが強い。シロップのような甘さのため、ハムの風味が全く感じられない。何を食べても甘く感じるというような、抗がん剤の副作用で本来とは異なる味に変わってしまうという。
「味の変わるパスタ」はトマトソースに苦みがあり、食べた後も舌の上に苦みが残り、気分が悪くなるほど。がん治療による味覚障害で特に多いのが強烈な「苦み」だそうで、口の中がいつも苦く、金属の味がするという人もいる。
味の変わる3品を試食した後、落合シェフによるメニュー「新しい形のサラダカプレーゼ」「フルーツトマトのスパゲッティ」「牛ヒレ肉のロースト シャスールソース」の3品をいただく。
カプレーゼは生ハムの塩味をしっかりと感じ、トマト、チーズ、バルサミコソースの味の絡み合いも楽しい。スパゲッティはトマト本来の酸味と甘味、旨味がしっかりと感じられる。牛ヒレ肉のローストは、デミグラス風味のシャスールソースが肉の旨味をしっかり引き立て、ソースの味の大切さを実感する。
味がしっかりと感じることで、素材本来の味わいや風味、食感が楽しめるので、食事をしてもおいしさを感じられないのは人生の楽しみを半分無くしたようなもの。味覚が変わることが、QOLに大きな影響を及ぼすということを今回の疑似体験で実感した。
取材・文/阿部純子