
中国で、広州発の“空飛ぶ車”が世界で初めて認可され、商用化が現実味を帯びてきている。果たしてその実態は?中国在住ライターが現地からレポートする。
空飛ぶ車を商用化できた「亿航智能(イーハン)」はどんな会社?
「空飛ぶ車」は、Electric Take-Off and Landing aircraftの頭文字をとりeVTOL(イーブイトール)、日本語訳すると電動垂直離着陸機といわれている。
ヘリコプターと異なり、騒音が小さく、低高度の飛行が可能となる。実用化されれば、空の交通手段となったり、物流を担ったりすることができるようになる。
日本では、新興である2018年設立のスカイドライブが開発をリードしている。2025年の大阪関西万博で、スカイドライブ含む丸紅、JAL、ANAが空飛ぶ車の商用飛行を目指していたが、安全審査の遅れで、会期中には間に合わず、一般客を乗せる飛行は実施しないこととなってしまった。その代わり、デモ飛行、機体展示が行われる予定だ。
一方、中国では、亿航智能(yi4hang2zhi4neng2、イーハン)が、2023年10月に2人乗りのeVTOL「EH216-S」で商業運行に必要な型式証明を取得し、2024年4月に量産許可を取得した。
亿航智能は、2014年に広州市黄埔区に設立された、eVTOLを含むエアモビリティカンパニー。eVTOLによる自動運転タクシーや物流、ドローンショーを手掛けている。
2019年11月にNASDAQにティッカー「EH」として上場し、一時100ドルを超えたが、現在21.63ドル(3月12日終値)である。空飛ぶ車をやっと実用化までこぎつけ、赤字が続いているものの、3月12日に発表された2024年の通期決算発表では、売上高は4.56億元の約94億円で2023年度比の約2.9倍となった。
2024年のeVTOLの納入量は216機と、2023年度の52機から大幅に増加した。既に、eVTOL「EH216-S」は、中国民航空局が発行する型式証明書、生産ライセンス、標準耐空証明書を取得していることから、大規模な商用化目前となっている。2025年の売上高予想は9億元の約185億円となっており、計画通りとなればさらに2024年の2倍の売上高になることになる。
パイロット席なしの自動運転飛行
亿航智能のeVTOL「EH216-S」は、パイロットなしの自動運転飛行で、乗客がちょうど2人乗ることができる。
電気駆動であるため、環境にやさしく、音が静かで、低空飛行に適している。
また、亿航智能は、新たに、安全性が高いリチウム固体電池を搭載したeVTOLの試験飛行も成功している。これが実用化されれば、現在1度の充電で航続時間が25分程度であるのが90%増加し、48分超の飛行が可能となる予定だ。
亿航智能は、中国では、上海、武漢などの都市、タイ、メキシコなどの海外、日本では大分市でデモ飛行を行っている。ただ、実際にeVTOLを納入するだけでは、実用化することができない。そのため、各都市の国有企業や民間企業が、その運用、管理を担っていくことになるが、筆者の住む広州市では、新興の2012年設立の「合利智能(HIT)」がそれを担っている。
2024年9月、合利智能は、低空飛行のデモンストレーションを行った。合利智能の本社のある、天徳広場から海心沙までと、車で10分程度の距離である。
今年の1月末には、同じく天徳広場から、中国で有名なあるコメンテーターがeVTOL機に試乗した。10分ほどの試乗であり、広州タワー周辺の川沿いを飛んだ。
実際に商用化に向けて期段階として、離着陸場や低空通信制説の整備を建設し、ルートも検討している。
ここから加速!低空飛行経済圏の構築
中国では、eVTOLが商用として、貨物輸送、タクシー、観光、公共サービス(人命救助、路線調査、都市管理)の低空飛行経済圏の構築ができると想定されている。
タクシーは、広州、深圳、香港、マカオの間を30分程度で運航できるようになる予定で、パイロットを要しない自動運転であるため、日本で開発されているパイロットが運転するeVTOLと比べて、比較的安い費用で商用化が実現できると考えられる。
また、観光目的の遊覧飛行も実現予定である。広州のランドマークである広州タワーを中心として、その周りや川沿いを遊覧飛行するルートを観光客に提供する予定だ。
今後近いうちに、上記のようなeVTOL用の駅が増え、観光、急ぎの移動目的の利用が見込めそうだ。中国の動きに追いつけ追い越せで、日本開発チームを先を急ぐだろう。
※2025年3月時点の【1元=20.5円】で換算
(参考)
日経新聞 2023年9月25日「大阪万博、空飛ぶクルマの商用飛行見送りへ 審査に時間」
日経新聞 2023年11月6日「空飛ぶ車、離陸近づく 新興30社が軽量化・航続距離競う」
亿航智能微信公式アカウント
合利智能 微信公式アカウント
文/大堀貴子