
「フィジェットトイ」というワードをよく耳や目にするようになった。触り続けると落ち着きが得られる玩具のことを指す。
これといってゲーム性があるわけではないが、触っていると「むにゅむにゅ」だったり「プチプチ」「カチャカチャ」だったり、クセになる楽しさを感じられる。そうして次第にイライラや緊張が和らぎ、不安や心配事を一時的に忘れられる・・・。
ではいったい、フェジットトイにはどのようなものがあるのか。創業昭和29年、京都で71年にわたって庶民に愛されている「熊本玩具」に売れ筋商品を訊いてみた。
ストレス社会に求められるフィジェットトイ
「フィジェットトイという言葉は、ここ2、3年で一般的に広がったと感じます。大人のお客さんがお見えになり、『フィジェットトイはありませんか?』とよく訊かれるようになりました」
そう語るのは熊本玩具の小売部マネージャー、西岡梢さん。フィジェットトイの「フィジェット」とは、ストレスを解消するために手や身体を動かす行為を意味する。
むしりとられる税金、それに反して上がらない所得、そんな時代に多くの人がイライラを募らせ、ストレスがたまっているのだろう。ここ2、3年でフィジェットトイという言葉が巷間に普及したのは、庶民の喘ぎが背景にあるのかもしれない。
仕事のシーンで言えば、鬱憤がたまったとき、いつまでも終わらないデスクワークで集中力が途切れたとき、あくびが出そうになる長い会議の途中。触ったり握ったりしているだけで心がリラックスモードに入りムカムカが解消されるという。夫婦・恋人・友人間の無用なケンカも減らせるだろう。人間関係を円滑に運ぶ、小さな救世主である。
リバイバルブームの兆しを見せる「ハンドスピナー」
西岡さんにまず案内していただいたのが、ハンドスピナーのコーナー。
「ハンドスピナーは約10年前にブームになりました。最近はブームを知っている親御さんがお子さんに買ってあげるケースが増えるなど、再び人気となっています」(西岡さん)
もう親子2代でハンドスピナーの時代なのだ。
ハンドスピナーはもともと1993年にフロリダ州で誕生したもの。アメリカでは「FidgetSpinner」(フィジェットスピナー)と呼ばれている。ボールペアリングを中心に外部が回る単純な構造で、一度回すと数分間、回転し続けるのが特徴だ。
ハンドスピナーは筋力の低下を引き起こす重症筋無力症を患う娘を持つお母さんが、娘と一緒に遊べる玩具として考案された。そして、これの特許が切れたことをきっかけに商品化され、アメリカをはじめ世界中でブームとなった。
リバイバルブーム中のハンドスピナーではあるが、当時と同じものがそのまま流行っているわけではない。令和版はメタリック調で、デザインもさまざま。異世界転生や召喚アニメの武器を思わせる意匠になっている。くるくる回していると、このまま自分が別世界へ転移する気がして面白い。
キラキラメタリックスピナー(三洋堂) 店頭小売価格 120円
「あと、とても軽くなりました。以前のハンドスピナーはずしりと重かったのですが。軽くなったことで、指先に乗せて遊ぶこともできるようになっています」
以前よりも軽くなったのも、自転車など商品の軽量化に価値が高まった現代を反映しているのだろう。
プチプチ触感がクセになるプッシュポップ玩具
西岡さんが二つ目に推薦してくれたのが、ファンシーな絵柄の『わんちゃんぷちぷに』。フィジェットトイのなかでは「プッシュポップ」や「ポップイット」などと呼ばれるジャンルの商品にあたる。犬の肉球をイメージさせる突起が9か所にあり、押すと「ぷちっ、ぷにっ」と音がする。
指でプッシュしたときに跳ね返ってくる強い反発感と、軽快なサウンドが心地いい
言わば「触るASMR」だ。この快感を別のものにたとえるならば、包装に使う気泡緩衝材をつい指で「ぷちぷち」と潰してしまう、あれに近い。
「この商品は今、女の子にとても人気があるんですよ。学校で話題なのだそうです。4種類のわんちゃんがいて、コンプリートしている子もいます」
女子に人気とのことだが成人が持っていても違和感がないデザインだ。日頃「ぷちっ」とキレそうになったら、とっさにこれでぷちぷにやれば脳内の過剰な怒りエネルギーを放出し、すっきり解消できる。ちなみにひっくり返すと裏は金属球を転がして遊べる迷路になっており、フィジェットトイでは珍しくゲーム性がある。