
日本の道でも扱いやすいコンパクトクロスオーバーSUVが盛り上がっている。というのも、そのジャンルにホンダから「WR-V」が、スズキから「フロンクス」が発売され、どちらもインド生産の逆輸入車という扱いで、戦略的にリーズナブルな価格設定になっているからだ。ここではインド生産という共通項を持つその2台を徹底比較してみた。
ともにインド生産の逆輸入車 ホンダWR-Vとスズキ・フロンクスを徹底比較
まずは両車の価格だが、WR-Vが239.8万円~、フロンクスが254.1万円~(いずれも2025年3月中旬現在)となっている。諸費用コミコミでも300万円以下に収まるコスパのよさが際立つ2台というわけだ。軽自動車のターボ、4WDモデルで230万円オーバーの価格設定もめずらしくない時代に、これは嬉しいではないか。
扱いやすさのポイントとなるボディサイズはWR-Vが全長4325×全幅1790×全高1650mm。ホイールベース2650mm。同門のホンダ・ヴェゼルと全長、全幅はほぼ同じで、全高が60mm高く、ホイールベースは40mm長い。最小回転半径は5.2mと比較的小回り性に優れていると言える。
フロンクスは全長3995×全幅1765×全長1550mm。ホイールベース2520mm。堂々と見えるものの、実はWR-Vより一回りコンパクト。しかし、立体駐車場への入庫容易性では全高1550mmのフロンクスということになる。最小回転半径は軽自動車造りにたけたスズキだけに、195/60R16サイズのタイヤを履いていながら、コンパクトカーのスイフトと同じ4・8mと超優秀で小回り性(Uターンや駐車に有利)に優れている。
ワイルドなWR-V スタイリッシュなフロンクス
エクステリアデザインは好みの範疇だが、WR-Vはヴェゼルに比べ、よりワイルドなSUVテイストを持ち、直立したフロントグリルを始め、クロスカントリーモデル風のアクセントが効いている。フロンクスは「ダイナミッククーペスタイル」を謳い、「スタイリングを第一に開発し、楽しい走りも重視した」というだけに、スタイリッシュさで上回る印象を受ける人も多いのではないだろうか。上下にシャープな3連LEDライトを配したダイナミックなフロントビュー、横一直線にデザインされたリヤコンビランプなど、デザイン性に優れ、今っぽい。
パワートレーンはそれぞれに特徴がある。WR-Vは価格的な狙いもあって、1.5L NAエンジン+CVT(118ps、14.5kg-m)、駆動方式はFFのみとなる。WLTCモード燃費は16.4~16.2km/Lだ(グレードによる)。
フロンクスは1・5Lエンジン+モーター+6ATのマイルドハイブリッド(101ps、13.8kg-m(2WD)/99ps、13.7kg-m(4WD)にモーター3.1ps、6.1kg-m)を採用。しかも、駆動方式はFFとともにインド仕様にない4WDを日本仕様として設定。これはスズキ車のファンも多い日本の雪国のユーザーへの配慮と言っていいだろう。WLTCモード燃費は2WDが19.0km/L、4WDが17.8km/Lとなり、マイルドハイブリッドだけにWR-Vを2WD車同士で比較しても上回ることになる。
前後席の広さとゆとりではWR-Vが優位に立つ
では、両車の室内空間はどうか。身長172cmの筆者のドライビングポジション基準の実測数値は、WR-Vが前席頭上に210mm、後席頭上に160mm、膝周りに驚愕の240mm!!が確保されている。後席足元のゆとりはフロンクスより全長、全高、ホイールベースに余裕があるからだ。
フロンクスは前席頭上に180mm、後席頭上に105mm、膝周りに大人でも足元ゆったりの210mmというスペースだ。頭上方向でWR-Vに譲るのは、1550mmの全高、クーペスタイルのエクステリアデザインによるところと言っていい。ここは広さを取るか、エクステリアデザインと立体駐車場への入庫容易性を取るかの判断になるだろう。
ちなみに、ゆとりある後席に後席エアコン吹き出し口が完備されるのはWR-Vのみ。フロンクスはインド仕様にはあるのだが、現状、日本仕様にはない。この点はすでに日本の夏の暑さから、スズキに進言済み。後席エアコン吹き出し口の追加を望みたい。
ラゲッジルームはWR-Vの広さが際立つが後席格納時の段差が気になる
続いてラゲッジルームだ。クロスオーバータイプのクルマだけに、アウトドアなどにもうってつけで、その際の大きな荷物の積載性が気になるところ。TVCMでもスーパーマーケットで大量の買い物をした荷物を積みこんでいるシーンが印象的なWR-Vはフロア上だけで458L。開口部地上高730mm、段差130mm。フロア奥行き840mm、フロア幅1015~1340mm。最低天井高870mmという大容量だ。
一方、ラゲッジボードを備えるフロンクスはボードなしで290L、ボード使用時で210Lの容量。そして開口部地上高は810mm、段差はボードなし285mm、ボードあり140mm。フロア奥行き650mm、フロア幅1010~1320mm。天井高ボードなし820~840mm。ボードあり675~700mmというスペースになる。
つまり、ラゲッジルームの重い荷物の出し入れのしやすさでは開口部地上高がより低いWR-V、容量でもWR-Vが勝ることになる。もっとも、フロンクスのラゲッジルームでも日常からライトなアウトドアなどで使うには十分と言える。
ここで、「大きな荷物を積む機会が多く、前席のみ使用して後席を格納する使い方もしばしば」という人のために後席格納時の使い勝手を比較すると、WR-Vは後席格納部分に約130mmの大きめの段差ができるのが難点と言えば難点。車中泊をするにしても段差がウィークポイントになりうる。フロンクスは後席格納部分にやや角度は付くものの、フラットにアレンジができる。が、WR-Vでもアクセサリーのラゲッジボード(33000円/税込み。Honda純正用品ではなく各製造事業者の品質基準に適合した商品)。使うことでフラット化が可能になるので、覚えておいて欲しい。
標準装備の充実度ではフロンクスが圧倒する
両車は標準装備面でも違いがある。WR-Vが239.8万円~、フロンクスが254.1万円~と、車両本体価格ではWR-Vのほうが一段と安く感じられるが、フロンクスは9インチのフルセグTV付きドラレコ連動のスマホ&スズキコネクト連携メモリーナビゲーション、ヘッドアップディスプレイ、WR-Vにないブラインドスポットモニター、パドルシフト、電子パーキングブレーキ&オートブレーキホールド、それに伴う全車速追従機能・停止保持機能付きACC(WR-Vは旧式の約30km/hから作動するACC)、4WDの各種ドライブモードなどが標準装備されるのだ。その装備分を換算すれば、価格差はほぼないに等しいことになるかも知れない。
もっとも、両車ともにコネクティッド機能は充実し、オペレーターサービス、SOSコールなども用意されているから安心だ。
走行性能は両車穏やかさが身の上だがそれぞれに個性がある
さて、両車の走行性能だが、街乗りの低速域ではフロンクスの乗り心地が硬めに感じられる。フラットで快適な乗り心地になるのは中高速域だ。WR-Vは16インチタイヤ装着車(X)の場合、乗り心地はなかなか。動力性能はWR-Vの4気筒エンジンはホンダの4気筒としてはややザラつき感があり、動力性能、加速性能は純ガソリンNAエンジンだけにごくフツー。フロンクスは微力ながらもモーターのアシストがあり、スズキが得意とする軽量ボディの恩恵もあって(そのためフルドアは採用せず)、FFはキビキビ軽快、4WDは重量増が効いたよりしっとり上質な乗り味を披露。加速性能そのものは穏やかだが、スポーツモードにセットすればアクセルレスポンス、加速力は一気に高まる。
また、カーブや山道での安定感、低重心感覚ではさすがに車高の低いフロンクスが優位。一方、WR-Vは見晴らし視界の良さと引き換えに、カーブ、山道ではやや重心が高く感じられる。とはいえ、安定感、運転の安心感は両車ともに文句なしと言っていいだろう。
両車、コスパでは甲乙つけがたく価格を超えた満足度が得られる
高速走行の機会が多いというなら、フロンクスに標準装備されるACCの機能に注目だ。渋滞時にも嬉しい全車速追従機能・停⽌保持機能付きというだけでなく、高度なカーブ速度抑制機能や車線変更時補助機能まで備わっているからだ。
ということで、同じインド生産のコンパクトクロスオーバーSUVのWR-Vとフロンクスを比較してきたわけだが、リーズナブルな車両本体価格、室内、ラゲッジルームの広さで選ぶならWR-V。クーペライクなスタイリッシュさあるエクステリアデザイン、インテリア質感、マイルドハイブリッドによる燃費性能と低重心感覚と軽快感ある走行性能、4WDの選択肢、ACCの機能、価格差が実質的にグッと縮まる標準装備の充実度で選ぶならフロンクス・・・ということになりそうだ。いずれにしても、両車ともに200万円台で手に入るコスパ抜群のコンパクトクロスオーバーSUVであり、価格以上の満足度が得られることは間違いないだろう。WR-Vは2025年モデルとして商品改良され、インテリアの質感向上が図られ、Z、Z+グレードに特別仕様車のブラックスタイルを追加している。
文・写真/青山尚暉