
新型コロナウイルスのパンデミック以降、特に健康課題として「免疫」が注目されている。免疫力は、健康を支える最も重要な予防・未病のベースと言われるが、そのための有効な手段の一つとなるのが、「自分の免疫力を知る」こと。今回はそのカギとなる「免疫力の数値化」の重要性について、唾液IgA研究の権威、神奈川歯科大学 槻木(つきのき)恵一教授に話を聞いた。
神奈川歯科大学 副学長 槻木恵一さん
(プロフィール)フラクトオリゴ糖の摂取による唾液中IgAの分泌量増加とともに、そのメカニズムとして腸管内で短鎖脂肪酸が重要な役割を果たすことを示す「腸-唾液腺相関」を発見。唾液の機能性研究を推進。著書に『ずっと健康でいたいなら唾液力をきたえなさい! 』(扶桑社ムック)などがある。
食生活によって唾液中の抗体が高まる!?腸活と唾液の深い関係性
――コロナ禍以降、「免疫」に関心を持つ人が増えています。そもそも免疫とはどういったものなのでしょうか?
簡単に言えば「病気から身体を守る力」の総称で、大きく分けて2つの働きがあります。まず身体中に病原菌やウイルスが入った際の第1次防衛ラインとなる免疫。これは唾液や腸など全身の粘膜の表面に豊富に存在しているIgA抗体が代表的で、いわば門番のような役割を果たします。
しかし病原体やウイルスの中には、その第1次防衛ラインを突破してしまうこともあるわけです。その時に出番となるのが身体の内部で働く「獲得免疫」で、突破してきた病原体やウイルスと戦って身体を守ります。人間は基本的にこの2つの免疫の仕組みによって感染症から身体を守っているのです。
――つまりIgA抗体はすでに備わっているもので、獲得免疫は抗原と出会わなければ獲得できない免疫ということでしょうか?
そうですね。獲得免疫で代表的なのはワクチン接種です。ワクチンは皮下に注射することで血液中に「抗体」と呼ばれる特殊部隊のようなものをつくり、獲得免疫として働く仕組みです。ただインフルエンザなどのワクチンは次シーズンに流行する型を予想してつくられており、実際に流行した型とワクチンの型が一致しないこともあるわけです。
一方、IgA抗体はワクチンのように型を予想して抗体をつくることはしていません。あらかじめあらゆる細菌や病原体に備える抗体を50個も100個もつくり出し、それらの侵入に備えている。そうなると当然、つくり出したけど実際には使われなかった抗体が出てきますが、実はその〝無駄になった抗体〟というのも非常に重要で、それが身体を守る免疫力につながります。
――IgA抗体で作られる抗体の量や数は、人によって違いがあるのでしょうか?
あります。量が多ければ多いほど防御力が高まりますが、人種によっても多い、少ないがあります。また、年代によっても違いますし、遺伝的要素も関係してきます。インフルエンザやノロウイルスなどが流行しても、かかる人とかからない人がいるのはそのためです。一般的には子どもは量が少なく、だんだん成長するにしたがって量が増えていきますが、40代からまた下がっていく傾向にありますね。
――新型コロナウイルスの影響で免疫力に関心を持つ人は増えていますが、IgAについてはあまり知られていないような気がします。
IgAは唾液をはじめ、腸などの消化管をはじめとする全身の粘膜の表面に付着しています。その中でも特に腸管のIgAに関する研究は進んでいて、例えば腸内の悪玉菌を抑えて善玉菌を増やすことにIgAが影響していることなども分かっているんです。
一方で唾液のIgA抗体に着目している人は非常に少なく、「口の中に免疫がある」ということを知らない人はまだまだ多いんです。でも口内の免疫は非常に重要で、唾液中のIgA抗体の量を知ることは、自分の免疫力のうち、門番として働く免疫力がどのくらいなのかを知る重要な指標になります。
――そしてこの唾液中のIgAを測定することで、免疫力をランクづけし、「見える化」したのが、株式会社 明治の『免疫チェック』というわけですね。
はい。これまで唾液のIgAは非常にマイナーでしたが、『免疫チェック』のサービスがスタートしたことで、これからもっと注目が集まるのではないかと期待しています。
唾液を採取して郵送するだけ。IgA値で自分の免疫力がわかる!
――『免疫チェック』では、唾液の量を測ることで、免疫力を知ることができます。そのために唾液中のIgA値を測る必要がありますが、その検査方法のメリットはどんな点にあるのでしょうか?
一番のメリットは簡易性です。唾液は常温でも崩れにくいことにあり、採取したら常温のまま研究機関へ郵送することができます。検査のためにどこかの医療機関へ足を運ばなくてもいいし、冷凍保存なども必要ありません。これによってかなり検査のハードルを下げることができ、忙しい人でも試しやすくなっていると思います。
――唾液中のIgA値を増やすためには、具体的にどうすればいいのでしょうか?
おすすめは「腸活」ですね。実は「腸-唾液腺相関」といって、腸にアプローチをすることで唾液の免疫力を高めることがわかっています。そのためにはヨーグルトなどの発酵食品、食物繊維などを定期的に摂取することがおすすめです。
――ストレスを感じるとお腹が痛くなったり、下痢などの症状がでる「腸脳相関」という言葉がありますが、腸と唾液も密接につながっていたのですね。
そうなんです。ですから口内の免疫力を上げたい人は腸活が重要になります。例えばヨーグルトのいいところは毎日摂取しやすい点ですが、もちろんヨーグルト以外の発酵食品でも構いません。とにかく1日に多くをまとめて摂取するのではなく、少しでいいので毎日継続することが重要となります。
――腸活以外に重要なことはありますか?
深酒しないとか、適度な運動をするとか、そういった規則正しい生活習慣を送ることも重要ですね。逆に深酒や睡眠不足、ストレスが溜まる、とIgA抗体は下がります。あとは激しい運動をやりすぎても良くない。何事も適度にほどほどくらいが一番いいんです。
――腸活や生活習慣を改善はどのくらい継続すればIgA抗体に変化があるのでしょうか?
20代から30代くらいだと3週間継続すれば変化します。40代以上になると1か月、80代くらいの高齢になると2か月くらいはかかるかもしれません。ですから『免疫チェック』は1度やったら終わりではなく、できれば毎月1回などで継続して、その経過をチェックしてほしいと思います。まずやってみて、その結果によって腸活や生活習慣の改善に取り組んで、またチェックをする。そのサイクルをつくることで、日々を健康に過ごせるアイテムとして役立てて欲しいです。
取材・文/高山 惠 撮影/江藤大作
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構成/DIME編集部