
フリマアプリでお馴染みのメルカリが、通信サービス「メルカリモバイル」の提供を3月4日に開始した。NTTドコモ回線を利用したMVNO事業で、データ通信容量(通称:ギガ)をフリマアプリ「メルカリ」内で個人間売買できる。この個人売買できる仕組みは日本初だという。
ギガの売り買いができる柔軟さはお得でコスパ重視の人にとっては魅力的に見えるが、実際はどうなのだろうか。同日に行われた記者発表会資料を基に考察してみよう。
メルカリ内での価値の循環に「ギガ」が加わった。“ニーズ×分かりやすさ”重視
メルカリは、2013年に開始したフリマサービス「メルカリ」でのモノの価値の循環や、2024年に開始したスポットワークサービス「メルカリ ハロ」でのスキルの循環など“あらゆる価値が循環する社会の実現”を掲げている。
メルカリでこれらを実現・利用するにはスマートフォンと通信回線が必須なので、その循環に「ギガ」が加わったのは、当然の流れともいえる。
実際に、メルカリモバイルは普及するだろうか。記者発表会では以下のような考え方をメルカリが説明した。
国内のモバイル市場は、NTTドコモ・au・ソフトバンク以外のMVNO(格安SIM)サービスや2020年にMNO事業を始めた楽天モバイルのシェアが拡大し始めており、後発が参入できるチャンスである。
通信料金プランには「柔軟さ」が足りない。使い方に合わせてカスタマイズしたり、余っているギガがもったいないと感じたりするユーザーが、調査対象の7割超を占める。
しかし、通信キャリアの変更(乗り換え)経験は手続が面倒で、変更経験が少ない人が多い。
毎月のデータ通信量(ギガ)の過不足があると感じる人のそれぞれで、余った場合は使わないまま終わるが、足りない人のうち約45%は追加で購入している。このギャップを埋めるために、メルカリで余ったギガを循環させる機能を開発した。機能の開発に当たっては簡単さとプランの単純さを重視した。
「メルカリモバイル」はどんなサービス?
・料金プラン:2GB(同990円/月)と20GB(同2390円/月)の2種類
・SIMカード:eSIMのみで物理SIMの扱いはない
・回線種類:NTTドコモ回線(音声・SMS・データ通信)
・支払方法:メルカードまたはメルペイあと払い
※現時点ではiOSのメルカリアプリのみ利用可能でAndroidは順次提供予定
・気になる「ギガの個人間売買」のしくみ
・取引単位:1GB~5GB。売買はメルカリ内で行なう
・取引金額:200円から。尚、1GBあたり最高500円の制限あり。
・販売手数料:販売金額の10%。メルカリの他の取引と同じ。ただし評価・コメント機能はなし
※注意点として、購入したギガは即反映できるが、ギガの繰り越しができず当月のみの利用となるので月末に購入すると、使い切れずにすぐ消滅してしまうことがある。
メイン回線としての選択肢はアリか?通信品質はドコモ系のMVNOと変わらなそうだが…
記者発表会で登壇したメルカリ 執行役員CEO Fintech 兼 新規事業責任者の永沢岳志さんによれば、MVNO(格安SIM)としてのサブ回線での利用だけではなく、メイン回線としての利用も取り込みたい。メルカリのヘビーユーザーに使ってもらいたい旨の説明を行っていた。
この説明に対し、利用者の視点に立ってみると、まず回線の品質はNTTドコモ回線の利用なので、心配は少ない。また、支払い方法がメルカードやメルペイのあと払いと限定されていてかつ、ギガの売買もメルカリ内なので、メルカリをよく使う人なら乗り換えても良さそうだ。が、GBあたりの単価やプラン料金を横比較した場合には、お得さやコスパは高くない印象だ。
例えば20GBの通信プランを使う場合はイオンモバイルの音声プランが税込1,958円で利用できる。楽天モバイルは3GBで968円と1GBあたり322円でコスパが良い。
したがって、毎月の通信容量が多い傾向にあるが20GBまで使わない月が多く、余ったギガを売りたいメルカリユーザーに利用契機があり、コスパよく通信回線が利用できる。
一方、買い手になる人がいなければ売れないしそのユーザーがどの程度現れるかわからないので、新サービスに興味があるといわけでなければ、数か月程様子見してから契約するのが賢明な選択肢なのかもしれない。
今後はau回線の追加や需要を見てプラン再設計が行なわれる予定
メルカリによれば、今回の発表時点ではNTTドコモ回線のみの提供だったが、今後au回線の追加や、物理のSIMカード提供、支払い手段の追加などの展開を考えており、利用者の反応を見ながら適宜対応していくとのこと。
出典:メルカリ
決算発表時点では「メルカリモバイル」は未発表だった。資料中では2024年にサービス開始した「メルカリ ハロ」推しの度合いが高いと読み取れた。
2月6日に同社が発表した決算説明資料では、四半期当たりの取引高が2,960億円(年換算1兆円超え)で、業績も右肩上がりの状況が続いている。この状況を見ると、2022年度に楽天がモバイル事業で4500億円の赤字を出したときと似ているな、と思う人もいるかもしれないが、メルカリは設備を自社で持たない点がそれと異なるので、通信事業参入からの赤字転落シナリオの発生可能性はほぼゼロと考えてよいだろう。今後の動向を引き続き注視したい。
文/久我吉史