
国内業界売り上げNo.1を誇るメガネ界の絶対王者・眼鏡市場。実は、その販売構成比を見ると、約88%をPB(プライベートブランド)が占める。海外の一流ブランドよりもPB商品が圧倒的に売れている理由とは? 今回、眼鏡市場のPBの歴史を振り返り、ユーザーに支持されるいいメガネの条件とは何かを読解いていく。
メガネトップ キングスター工場
工場長 吉田和弘さん
毎月4万本のPB製品を生産する福井県鯖江市に拠点を置く自社工場・キングスター工場の責任者。30年以上、メガネの業界に携わっている
いいメガネに直結するモノづくりの本質
眼鏡市場がPB製品の開発に着手しはじめたのが約20年前。それまでは、有名ブランドにライセンス料を支払いロゴを使用するライセンス製品が主流だったという。
「ライセンス製品は、当時のメガネ業界では一般的。私も海外のライセンサーに何度も足を運んで契約を結んでいました。そんな中で、ライセンス取得にかける費用をオリジナル製品に上乗せすれば、よりいいメガネが作れるのではないか、と思いはじめたんです」
作り手としての血が騒いだ吉田さんは、上質なPB製品の開発に動き出す。先駆け的なブランド『GRADO』を誕生させると、徐々に売上が伸び、手ごたえを得る。これを機にPB本格導入を決意し、2010年に『FREE FiT』を投入。記録的大ヒットとなり、2012年、業界売上トップに躍進した。
「おかげさまで『FREE FiT』は累計販売本数650万本を突破しました。ただ、ヒット商品の裏には、数々の失敗があります。お客様からの指摘で展開を見直すことになったり、そもそも試作品の段階で納得できず、発売を中止したりと、本当に数えきれないぐらい。まさに今、展開するPB群は、失敗を礎にした逸品なのです」
キングスター工場では、企画から製造、販売まで一貫して管理する製販一体の体制を実行している。消費者のニーズを素早くフィードバックできるため、問題点をつぶさに処理できるのだ。
試行錯誤を繰り返して残るもの、それは高純度の「良品」。やはり多くの人に支持されるいいモノは、言うは易く行なうは難し「高品質」が絶対条件というわけだ。
【眼鏡市場の結論】いいメガネとは?
「人柄まで滲み出せるような、本当に似合うモノが究極のいいメガネです。ただ、当然ながら人の顔は千差万別。いくら上質なメガネでも全員が似合うわけではない。全ての人に最適な一本を提供できるよう、選択肢を網羅した商品開発を目指しています」(吉田さん)
主なプライベートブランドの開発年表
※初期モデル掲載のため、現在は販売されていない場合があります。
〈2001年発売〉GRADO
鯖江品質を手を伸ばしやすい価格で提供する先駆け的PB。時代に流されない紳士フレームは、今なお根強い人気を誇る。
〈2010年発売〉FREE FiT
2010年の発売以降、人気No.1を独走し続ける超軽量樹脂ブランド。2020年には環境にやさしいエコ樹脂を採用したモデルも登場。
〈2011年発売〉ZEROGRA
無重力のようなかけ心地の最軽量PBとして2011年に登場。蝶番とネジをなくすという引き算の発想は2022年末のリニューアル後も継承。
〈2011年発売〉i-ATHLETE
激しい動きでもずり落ちにくいスポーツ用メガネとして2011年に登場。2021年には同ブランド初となる女性用モデルも追加した。
〈2014年発売〉SABATRA
職人により丁寧に作られる鯖江流のクラシックフレーム=サバエトラディショナルを提案。鯖江が得意とするチタン製品が主力。
〈2016年発売〉達
純国産チタン材を使用しながらもリーズナブルな価格を実現。近年シニア向けの紳士フレームモデルが若者の間で人気に。
〈2020年発売〉nosefree
2020年に登場。テンプルの先端に重りをつけ、鼻への負担を軽減。2024年には、かけやすさをさらに向上させたタングステンモデルを投入。
〈2021年発売〉THE BEDFORD HOTEL
2021年に登場した架空のホテルがテーマのブランド。クラシックなスタイルを上質に表現したデザインが人気を集めている。
吉田工場長が選んだ2025年春最高の3本
(上)GRADO『GR-7036』
1万9800円(レンズ代込み)
天地幅が広い逆台形のウェリントンタイプ。レンズ全体を囲う細いフルリムがどんな顔にも違和感なく溶け込みながらも、わずかな角張りを持たせることで、エレガントな個性を演出。どんなシーンにも対応する万能な一本。
耳にかかるテンプル(つる)が最大20度、逆方向に開くバネ蝶番を採用。顔の横幅が変化してもソフトなかけ心地を維持できる。
(中)THE BEDFORD HOTEL
『BFH-28』2万9700円(レンズ代込み)
丸みを帯びた逆三角形のボストンシェイプ。やや太めながらも透過した樹脂素材のクリアアセテートフレームを採用することで、立体的な存在感と肌の色馴染みを両立。クラシカルでやさしい印象の装いが知的な雰囲気を演出。
ホテルのマットなどに採用される植物文様のアラベスク模様をテンプルに装飾。主張しすぎないアクセントが上質な世界観を創り出す。
(下)nosefree『NOF-108』
1万9800円(レンズ代込み)
天地幅を抑えた長方形のスクエアシェイプ。レンズの上半分を細いフレームで囲ったナイロールデザインを採用。下半分のフレームがない分、視界が広く確保でき、メガネの輪郭も強調されにくいため、自然と顔に馴染みやすい。
テンプルの先端には、金属密度の高いタングステンを重りとして搭載。偏っていた重心バランスを調整し、鼻への負担を分散した。
〈PB品質のこだわり 1〉
キングスター工場ではメガネが完成する全250工程に携わる職人全員、専門職人が各々の持ち場で検査・検品を重ねる。その結果、返品不良率0.12%と他社(平均0.9%)を圧倒する品質安定性を誇る。
〈PB品質のこだわり 2〉
10年ほど前に鯖江の主要工場10社と連携。門外不出の技術やノウハウを共有しあうなど、これまでにない協力体制を構築し、従来の常識を覆す機能や高精度な商品開発を加速させている。
協力/眼鏡市場 http://www.meganeichiba.jp/ お客様相談室 0120・818・828
編集/渡辺和博 取材・文/オビツケン(ob1) 撮影/植野 淳(植野製作所)