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〝アメリカの自動車産業の今〟がわかる傑作ゲーム「Car Manufacture」をプレイしてみた

2025.03.17

アメリカの自動車産業。20世紀の重工業分野を牽引し続けた巨大セクターだが、それ故に現代ではその存在自体が超大国の方針を左右するようになっている。

ミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルベニア州はかつて重工業で大いに栄えた地域だったが、今では「ラストベルト」と呼ばれ、産業の近代化に取り残されているのが現状だ。

アメリカの重工業、特に自動車産業を知ることは、即ちアメリカそのものを知ることである。そこで今回は、Steamで配信されている『Car Manufacture』というゲームをプレイしながら、アメリカの「今」に迫っていきたいと思う。

「馬車の延長線上」から「緻密な工業製品」へ

『Car Manufacture』は、去年8月に早期アクセス作品として配信が開始されたゲームである。

全米各地のいずれかに工場を建設し、そこで自動車を開発・量産していくシミュレーションゲームだ。選択できるゲーム開始時の時代区分は1885年から1960年まで。1885年のアメリカといえば西部開拓時代の真っ只中で、人々はまだ馬に乗っていた頃だ。そこへ発明間もない自動車を売って流行らせよう……という、史実でもあった展開を体験できるというわけだ。

もちろん、自動車といっても最初のうちは馬車に貧弱なモーターをくっつけたような代物である。最高速度も、現代の目で見れば玩具のような代物。これだったら馬車のほうがまだいいんじゃね? と思えてしまうような感じだ。そこから研究者を雇って、より大きく速い車を開発していく。研究が進むと、車の姿もだんだんと近代チックになる。やがて自動車は、馬車の延長線上から脱して時速200km超で走る高度で緻密な工業製品になっていくのだ。

もちろん、それを製造する工場にも従業員が必要だ。ラインで製品を組み立てるメカニック、部品を運ぶポーター、完成した車を運転するドライバー、製品を売るセールスマン。新聞やラジオ、気球広告なども駆使して宣伝し、完成した車をできるだけ高値で売る。

そう、このゲームは「可能な限り販売価格を上げる」ことが肝要なのだ。

20世紀は「自動車の世紀」

車が高値で売れないと従業員に対する給料を払えず、最悪会社自体が倒産してしまう―—。

これが強迫観念になり、過剰な設備投資を行うきっかけになり、さらに経営が悪化……という悪循環を呼び起こす。『Car Manufacture』は、このあたりの流れもしっかり再現している。

従業員をいとも簡単にクビにできる点も、アメリカの企業の特徴をよく表している。

これに対抗するため、アメリカの自動車産業には巨大な労働組合が存在する。「労組くらい、日本にもあるじゃないか」と言われそうだが、アメリカの労組はその動向が全世界のメディアに注目されるほどの政治的影響力を持っている。

建国から19世紀いっぱいまでのアメリカの歴史は、即ち先住民を追い散らしながら強引に領土を拡大した歴史である。そして、20世紀からのアメリカの歴史は自動車を始めとした製品のマスプロダクションで世界一の物量大国に上り詰めた歴史だ。それ故にひたすら製品を売り続けなければならないし、ひたすら新製品を開発し続けなければならない。

『Car Manufacture』には「製品の人気」という概念が存在する。かつての人気製品も、時が経てば陳腐化して人気がなくなる。それを見越して、新しい製品の開発を行わなければならないのだ。

製品は極力高値で

現実のアメリカでは、常にこのような状態にある自動車産業に対して「日本車の津波」が容赦なく襲いかかった。

アメリカ製のマッスルカーよりも安くて小型、そして遥かに低燃費の日本車はオイルショック以後の国際社会で大いに受け入れられた。ならば、アメリカのメーカーも小型車を作れば良かったのではないか……という声もあるかもしれない。しかし、大型車と小型車とでは原価に大差がないにもかかわらず、販売価格は大きく異なる。『Car Manufacture』でも描写されている通り、製品は極力高値で売らなければ工場を維持できないのだ。

こうしてアメリカの自動車産業は下り坂に差しかかっていく。同時に、自動車産業で栄えた州が連邦政府に与える影響はだんだんと大きくなっていった。工場の閉鎖で大量に発生した失業者の存在が、そのまま社会問題化したからだ。

「スイングステート」はどこへ向かう?

アメリカ大統領選挙では、毎回のようにミシガン州、ウィスコンシン州、ペンシルベニア州といったラストベルト地域の動向が注目される。共和党と民主党の支持が拮抗しているため、このあたりは「スイングステート」とも呼ばれている。

言い換えれば、アメリカの自動車産業の根本的問題は解消の道筋が今も全く見えていないということだ。

そうしたことを自然と学べる自動車工場経営シム『Car Manufacture』は、地味ながら良作と評価してもバチは当たらないゲームである。

【参考】
Car Manufacture

文/澤田真一

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