
日々の生活の中ではさまざまな不安に直面することもあり、その際には落ち着いて対処することが求められてくるが、数ある不安の中でもどの不安が最もメンタルに悪影響を及ぼすのだろうか。新たな研究では最もメンタルに堪えるのが食糧不安であることが示唆されている。
食糧不安は精神衛生状態悪化の主要因
“令和のコメ騒動”というフレーズは一度聞いたら忘れないほどにキャッチーなのだが、どうしてこれほどまでにインパクトがあるのだろうか。その理由は食べ物についての不安を煽る文言であるからなのかもしれない。数ある心配事の中でも、食べ物にまつわる不安はメンタルによりダメージを及ぼすことが最新の研究で報告されているのだ。
米ハワイ大学マノア校の研究チームが今年2月に「Frontiers in Public Health」で発表した新たな研究によると、食糧不安はハワイにおける精神衛生状態の悪化の主な要因となっているという。
研究ではコロナ禍中の2022年に収集されたハワイ在住の成人2270人からのデータを分析し、社会経済的要因と人口統計学的要因がメンタルヘルスに与える影響を評価した。
メンタルヘルスに影響を及ぼす主な要因として、食糧安全保障の状況、雇用状況、婚姻状況、持病(pre-existing health conditions)、コロナ関連のコミュニティの安全性に対する信頼などが設定された。
コロナ禍中ということもあってか参加者の間で重大なメンタルヘルスの問題が明らかになり、39.6%がうつ病の症状を報告し、14.7%が自尊心の低下を経験し、4.2%が自殺念慮を抱く経験を報告した。
そして数ある不安要因の中でも食糧不安は、特にうつ病と自殺念慮に関してメンタルヘルスの悪化の最も重要な予測因子であることが浮き彫りになったのである。コロナ禍中、人々は食べ物について最も不安を感じていたことになる。
食糧不安に加えて持病のある個人はメンタルヘルスをさらに悪化させていたが、結婚していることは不安の緩和要因として機能していた。雇用されている状態はうつ病の可能性を2.8%減少させ、コロナ禍中のコミュニティの安全性に対する信頼はうつ病リスクを9.9%減少させていた。
今回の研究から、食糧不安は持病と相まってハワイの働く成人のメンタルヘルス悪化の重要なリスク要因であることが判明した。そして結婚していることと雇用されていること、さらにコミュニティの安全性に対する肯定的な認識が、重要な保護要因として特定された。これらの調査結果は、食糧安全保障を改善し、コミュニティの信頼と安全性を育むための的を絞った政策介入が時には喫緊に必要であることを浮き彫りにしたといえる。
“令和のコメ騒動”というフレーズはまさにメンタルに響いてくるキャッチコピーであったことにもなる。食べ物のことで不安を招かないよう、たとえば災害時用の保存食などにも日頃から配慮しておきたいものである。
断食体験は食べ物にまつわる不安を払拭できる!?
食べ物がなくなる不安はかくもメンタルに効いてくるということになるのだが、そうであってももちろん人は水さえ飲めれば1日、2日食べなくとも健康状態には特に影響はないといわれている。
むしろ今日の飽食の時代においては健康法としての断食が一部では注目されており、実践している人も少なくない。
とはいえそれなりに忙しく社会生活を送る者にとって、断食は依然としてハードルが高いだろう。休日に断食をするにしても外で人に会ったりレジャーなどの予定があればなかなか難しいことは想像に難くない。
そこで無理なくできると断食健康法として、いわゆる「16時間断食」などの「間欠的(断続的)ファスティング」が一部で人気だ。
間欠的ファスティングとして代表的な「16時間断食」は、1日のすべての食事を8時間以内に食べ、その他の16時間は水分だけで過ごすという食事方法である。
この「16時間断食」によって、一説では人体のオートファジー(Autophagy)が起動し、古くなったり壊れたりしている細胞が分解されて新たなタンパク質が生み出され、新陳代謝と脂肪燃焼を促進し減量に繋がることが期待されている。また胃腸が休む時間を確保することで結果的に胃腸の働きが良くなり、かつ腸内環境を整える効果もあるとされている。
良いことづくめの「16時間断食」といえそうなのだが、最新の研究からは残念ながら過度に大きな期待を抱くほどのダイエット法ではないことが指摘されているようだ。
米ミシシッピ大学の研究チームが今年2月に「International Journal of Obesity」で発表した研究では、関連する15の研究をメタ分析した結果、確かに間欠的ファスティングは何もしないよりも脂肪量と体脂肪率を低下させるのに役立つ可能性があるのだが、体重減少効果はほんのわずかであるとの結論に達している。
運動量を増やすなどのほかのダイエット法に鞍替えすることを検討してよいほどの微弱な減量効果しかないということだ。
とはいっても一度でも断食ダイエットを試してみることはメンタルヘルスの観点からは貴重な体験になるのかもしれない。
断食の実践者や経験者が“令和のコメ騒動”に動揺する可能性は低そうであり、食べ物の少なさに不安を感じる可能性もまた低くなりそうだ。断食体験は食べ物にまつわる不安を必要以上に抱かないためにも意味のある体験だと思うがいかがだろうか。
※研究論文
https://www.frontiersin.org/journals/public-health/articles/10.3389/fpubh.2025.1526687/full
※参考記事
https://www.hawaii.edu/news/2025/02/25/food-insecurity-mental-health/
文/仲田しんじ
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