全国各地の新しい鉄道の計画と課題を掘り下げる
『鉄道路線に翻弄される地域社会 「あの計画」はどうなったのか?』
著/鐵坊主
ワニブックス 1045円
今日、高速道路がほぼ全国に行き渡り、空港の改良も著しい。斜陽化が叫ばれる鉄道のウエートは下がるばかりだが、各地で新しい鉄道の計画が立てられている。代表例はリニア中央新幹線、それから北海道や北陸の両新幹線の延伸で、本書はそうした全国各地の新しい鉄道の計画とその課題とを取り上げたものだ。
国内では少子高齢化が進行し、地方では過疎化が一層厳しさを増した。今後も鉄道が人々の求める期待に応え、なおかつ事業として成り立たせるには──。2030年代以降の日本、特に地方はどうなっていくのか──。人気鉄道YouTuberである著者の鐵坊主氏が丹念な取材と調査とをもとに提示している。田中角榮氏が1972(昭和47)年に著した『日本列島改造論』は、現在建設中の新幹線を含め、当時から現在までの日本に影響を及ぼした。本書は同書の現代版といえる。
日陰の存在であるスイッチバックに焦点を当てる
『スイッチバック大全 日本の“折り返し停車場”140ヶ所の魅力と歴史を全紹介』
編著/江上秀樹、栗原 景
誠文堂新光社 4950円
スイッチバックとは、険しい山を越えるために線路をジグザグに敷き、列車を折り返す形として運転する方式、また設備を指す。日本ならではの光景で、現在も小田原〜強羅間を結ぶ小田急箱根(旧箱根登山鉄道)の電車などで体験可能だ。
鉄道最盛期に全国で140を数えたスイッチバックの魅力と歩みとを、本書はひとつひとつ、まさに執念ともいえる情熱で迫っている。スイッチバックは法規上の定義が存在せず、日陰の存在だ。著者の江上秀樹氏の調査でようやくスイッチバックの実態が判明したと言ってよい。
スイッチバックのおかげで人や物の行き来が可能となり、鉄道は国土の発展を支えてきた。その鉄道も地方では衰退著しく、スイッチバックとともに消えている。本書は鉄道趣味の集大成や写真集としての価値のほか、日本という国の成長の過程を知るうえでも貴重な書物だ。
鉄道以外に進出するJR東日本の今を探る
『JR東日本 脱・鉄道の成長戦略』
著/枝久保達也
河出書房新社 979円
1日平均の利用者数1557万人、年間の営業収益(連結)2兆7301億円と、JR東日本は国内最大、世界的にも有数の規模を誇る鉄道会社である(データは2023年度)。コロナ禍からの回復ぶりもまずまずで、同社の鉄道事業に一点の曇りもない──はずであった。
この1年間、JR東日本は銀行業に進出したり、不動産会社を設立したりと鉄道以外の動きが活発だ。その動向、そして同社を駆り立てている動機を鉄道ジャーナリストの枝久保達也氏が鋭く迫る。氏によると少子高齢化の進む日本では鉄道事業はいずれ頭打ちとなり、JR東日本はそのときを見据えて次の一歩を踏み出しているのだという。本書ではほかにも知られざる同社の動きがまとめられており、人口が減少する新時代の鉄道ビジネスについて、そして21世紀の大企業のあり方について大いに参考になる。
〈選者〉
鉄道ジャーナリスト 梅原 淳さん
都市銀行、鉄道雑誌編集部などを経て2000年から鉄道ジャーナリストに。執筆のほか、テレビ等でのコメント、各種講演も数多く行なう。2024年度は福岡市地下鉄経営戦略懇話会の委員も務めた。
撮影/黒石あみ 編集/寺田剛治