
今年の正月休みはとことん一人の時間を満喫していました。寝正月で終わらせるのももったいないので、2日の夜に閑散とした電車で銀座に向かい、貸し切り状態の屋上庭園やイルミネーションを眺めてから映画館でレイトショーを鑑賞。ひとりで気まぐれにブラブラしているだけなのに妙にロマンチック………これが俗に言う「ソロデート」かと思っていたら、1月2日は「世界内向的な人の日(World Introverts Day)」だったそうです。20〜30代ずっとパリピぶってきたのに、最近はひとりで静かに思いにふける時間のありがたみが分かるようになってきました。歳なのでしょうか。
英語では内向的な人をintrovert、社交的な人をextrovertと言います。日本語の「陰キャ・陽キャ」ほどトゲを含むような表現ではないですが、introvertな人たちは付き合いが悪い、風変わりで孤独な人というスティグマがありました。しかしそんな世間の風潮が少しずつ変化しています。若者世代が上の世代よりも飲酒や恋愛から離れていることはよく聞く話ですが、人付き合いを厳選し、望ましくない相手との交流を避け、外出に消極的といった内向化現象が広がっているようです。
パーティードレスよりルームウエアやインテリアにお金をかけ、カラオケやクラブ遊びより編み物やソロキャンプを楽しみたい人たちが昔ほど変人扱いされなくなり、感度の高い企業はすでに新しい潮流に合わせた新事業やブランディングを展開させています。経済アナリストはこの経済トレンドを「introvert economy」と呼び、消費活動の変化に注目しています。
例えば、外食。〝おひとりさま大国〟の日本ではひとりで気軽に食事を楽しめる店はいくらでもありますが、国が違えばかわいそうな人扱いされることも……。しかし、世界6万以上の店舗を取り扱う外食予約サイトOpenTableによると、海外でも10年ほど前から「おひとりさま」の外食利用が増えているそうです(アメリカではsolo diningの予約件数がこの2年で約3割も増加!)。
コロナ禍で人との距離感がリセットされた影響もあるでしょうが、それ以前からメンタルヘルスに関心を持ち、惰性で続けていた習慣妥協を見直して精神的に独立したライフスタイルを意識する人たちが増えていたのも海外でソロめしが肯定されつつある要因のようです。店側にとっても単体客は回転率やリピート率を高められるため、おひとりさまに優しいメニューや店内づくりへの意欲につながりそうです。
他人に気を使わずマイペースに過ごしたいけど、適度な距離感で交流できる出会いも探したい。そんな内向型人間の絶妙なニーズに応えてくれるのが「読書パーティー」。カフェやバーなどおしゃれで落ち着いた雰囲気の中で静かに読書を楽しむだけの会ですが、ニューヨークでは毎回キャンセル待ちが出るほど目白押しのイベントなんだとか。
いろんな人との交流を楽しみたい気持ちはあっても、心のキャパは人それぞれ。周りに合わせようとすると疲弊してしまう繊細な人にも居場所がある「おひとりさまビジネス」、陰キャ・陽キャの垣根を越えて広まりそうです。
海外でも広がるおひとりさまビジネス
OpenTable×KAYAK
OpenTableと大手旅行予約サイトKayakがコラボ。世界25の都市でソロめしレストランをまとめたリストを公開。この2社のサポートがあればぜいたくな海外ひとり旅も夢じゃなさそう。
Silent Book Club
世界50か国以上、1400を超える支部で静かな読書の集いが開催されている。参加してみたいけど自分の地域にないという人は、いっそ支部を立ち上げてみては?
『内向型人間のすごい力 静かな人が世界を変える』
著/スーザン・ケイン 訳/古草秀子 講談社 1012円
社交的でしゃべり上手といった従来のリーダー像を打ち壊し、内向的な人の秘めた才能を啓発するベストセラー本。世界40言語に翻訳され、累計400万部以上。
文/キニマンス塚本ニキ
これからの社会も経済もぼっち上等!
キニマンス塚本ニキ
東京都生まれ、ニュージーランド育ち。英語通訳・翻訳や執筆のほか、ラジオパーソナリティやコメンテーターとして活躍中。近著に『世界をちょっとよくするために知っておきたい英語100』(Gakken)がある。
撮影/干川 修 ヘアメイク/高部友見 編集/寺田剛治