
課税方法の一種である累進課税とはどのような制度だろうか。自分の給与や資産にかかる税金を知る上で欠かせない税の知識と、所得税や相続税の税率・計算方法についてまとめた。
目次
毎月の給与から引かれる所得税は、「累進課税」と呼ばれる課税方法によって税額が決まる。言葉は聞いたことがあっても、具体的にどのような方法で計算されているのか、税金の上がる(下がる)ボーダーラインがどのくらいなのかは知らない人も多いだろう。
本記事では、所得税の計算でよく聞く「累進課税」の仕組みや計算方法、税率について解説する。
累進課税制度とは?
「累進課税」とは、日本で実施されている税金計算方法の一つ。「累進」は、価格や数量が増えるにつれて、それに対する比率が増えることを指す。「課税」は租税を割り当てることで、所得や資産などの「課税額」が増えるに従って税率が上がっていく仕組みのこと。まずは累進課税の基礎知識をチェックしよう。
■日本の累進課税は一定額を超えると次枠の税率が適用される「超過累進課税制度」
累進課税には「単純累進課税」と「超過累進課税」があるが、日本では「超過累進課税」が採用されている。
いずれも課税額が増えるに従って税率がアップしていく点は同じだが、超過累進課税では、ある金額から超過した部分について新しい税率が適用される。
たとえば所得税であれば、所得額が250万円の時、195万円までは税率5%が適用され、残りの250万円-195万円=55万円に対しては次枠の10%の税率が適用される仕組みだ。
対して、単純累進課税の場合は、所得額が税率の区切りである195万円を超えた時点で250万円全体に10%の税率が適用される。
両者を比較すると、超過累進課税のほうが計算方法は複雑になるものの、税区分を超えた場合の税額の変化が緩やかになることがわかるだろう。
■累進課税が適用される税金は「所得税」「相続税」「贈与税」
課税額の大きさに応じて税率が変わる累進課税は所得税の他に「相続税」「贈与税」で採用されている。「年収や資産などの課税額が大きくなると税金も高くなる税」として覚えておくと良いだろう。
所得税の累進課税の仕組みと税金の計算方法
それでは、累進課税が適用されている税の具体的な計算方法について見てみよう。まずは、働いて収入を得ている人の多くに関わりが深い「所得税」の累進課税制度を解説する。
【所得税計算の流れ】
1. 所得額を求める
2. 所得額から所得控除を引いて課税所得額を求める
3. 税率表を元に所得税額を求める
4. 所得税額から税額控除を差し引く
■所得税の累進課税の計算・ステップ1:所得額を求める
所得税を計算する場合に使用する「所得額」は、「収入」から「費用」を差し引いて求める。具体的には、会社員やアルバイトなどの給与所得者であれば、給与収入から給与所得控除を差し引いた金額が該当する。個人事業主やフリーランスであれば、売上から経費を差し引いた金額が所得額だ。
■所得税の累進課税の計算・ステップ2:所得額から所得控除を引いて課税所得額を求める
税率を使って税金計算をする前に、所得額から「所得控除」を差し引く必要がある。所得控除は全部で15種類。iDeCoの掛金や生命保険の保険料を支払っている場合、扶養している配偶者や子どもがいる場合などは、ここで所定の控除額が差し引かれ、所得税が減額される仕組みだ。年末調整の前に書類提出を求められるため見覚えのある人も多いだろう。
【所得控除の種類】
雑損控除、医療費控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、 地震保険料控除、寄附金控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、基礎控除
■所得税の累進課税の計算・ステップ3:税率表を元に所得税額を求める
課税所得額を求めたら、所得税の税率表を使って税金額を計算しよう。
国税庁が公表している以下の表を使って自分の課税所得額が該当する区分の税率を適用し、最後に控除額を差し引く。
例)課税所得額が500万円の場合
5,000,000円×0.2-427,500円=572,500円
【所得税の税率と控除額の一覧】
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
先述の通り、日本の「超過累進課税」では、税の区分が一段アップするごとに超過分を次の区分の税率で計算する必要があり、計算が煩雑となる。上の表では、単純累進課税と超過累進課税の差額が「控除額」として逆算されているため簡単に計算できるようになっている。
■所得税の累進課税の計算・ステップ4:所得税額から税額控除を差し引く
最後に、所得税額から税額控除を差し引く。税額控除には、株式などの配当所得がある場合の配当控除、各種寄付やふるさと納税を行った場合の寄附金控除、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)などが該当する。税額から直接差し引ける金額のため、所得控除よりも有利となっている。
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※参考:No.1200 税額控除|国税庁
相続税と贈与税の累進課税制度の仕組みと計算方法
相続税と贈与税も累進課税が適用される。毎月差し引かれている所得税と比べると接する機会は限定されるが、税額の決まり方と税金計算の流れを簡単に押さえておこう。
■相続税の累進課税の仕組みと計算方法
相続税も所得税と同じく、遺産額を確定させ、基礎控除を差し引いた金額(課税遺産総額)をベースに税金計算を行う。
相続の基礎控除は「3000万円+(600万円✕法定相続人の数)」となり、法定相続人が多い等で基礎控除を超えない場合は申告・納税は扶養だ。
【相続税計算の流れ】
1.故人の遺産額を合計する
2.遺産額から基礎控除を引いて課税遺産総額を求める
3.課税遺産総額を法定相続人が法定相続分受け取ったと仮定して相続税の総額を計算する
4.相続人が二人以上いる場合、実際の相続割合に応じて各人ごとの相続税を按分する
5.相続人の状況に応じて各人の相続税額から税額控除を差し引く
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■贈与税の累進課税の仕組みと計算方法
贈与税には、一年間の贈与の合計額に応じて課税される「暦年課税」と、生前に贈与した財産を贈与者の死後に相続税の計算に含められる「相続時精算課税制度」がある。
相続時精算課税制度には、贈与者が60歳以上の父母または祖父母など各種条件があるため、より一般的なのは暦年贈与だろう。
贈与税の基礎控除は年間110万円で、暦年贈与の場合はその金額を超過した分について課税される。税金の計算式は以下の通りだ。
贈与税=(一年間の贈与額-基礎控除額110万円)✕税率-控除額
なお、贈与税には両親・祖父母から特定の目的で贈与を受けた場合の非課税制度が設けられている。教育資金、結婚・子育て資金、住宅取得等資金など目的の定まった資金の場合は、このような非課税制度もあわせて利用したい。
※参考:
No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税|国税庁
No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税|国税庁
No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税|国税庁
※情報は万全を期していますが、正確性を保証するものではありません。
文/編集部