
「バーチャルカード」が、悪い意味で話題になってしまった。バーチャルカードを利用した特殊詐欺事件が発生し、中学生がその被害者になってしまったからだ。
この事件が報道されると、「バーチャルカードは未成年者でも作れるクレジットカード」というような誤解がSNSでも散見されるようになった。
人間は、耳慣れない言葉に対して警戒心を抱く動物である。しかし、バーチャルカードに関してはそれ自体が危険で未成年者は手を出してはいけないもの……というわけでは全くない。むしろ、未成年者だからこそバーチャルカードを活用するべきではないか。
ただし、そのためにはキャッシュレス決済に関するリテラシー教育も必要だ。
「バーチャルカード」とは?
「古の昔、武士の侍、馬から落馬、女の夫人に笑われた」
この文章は、日本語の二重表現を端的に表している。
「落馬」という単語には既に「馬に乗っている」という意味が内包されているから、そこにわざわざ「馬から」と付け加える必要はない。しかし、「バーチャルカードのクレジットカード」という言い回しはそれらとは違い、二重表現にはならない。
なぜなら、「バーチャルカード」とはカードの一形態に過ぎず、それが必ずしもクレカであるとは限らないからだ。
モノとしてのカードが発行されず、スマホアプリにカード情報が記録されるバーチャルカードは、クレカだけでなくデビットカードやプリペイドカード、ポイントカードにも適合されている。物理カードがないということは、それを発行する必要がない=バーチャルカードを即座に作成できるということだ。規約はあるが審査のないデビットカードやプリペイドカードであれば、申請者の情報登録が終了した直後にバーチャルカードが発行される。
この点が「簡単過ぎて怖い」と言われてしまうのだが、そもそもバーチャルカードは「物理カードよりもセキュリティー性に優れている」という理由で急速普及しているという側面もある。
バーチャルカードは物理カードよりむしろ安全?
だいぶ前に起こった事件だが、スーパーマーケットのレジ係が客のクレカの情報を丸暗記して、それを後日ネットショッピングで悪用するということがあった。
犯人は恐ろしい記憶力の持ち主だと感心してしまうが、とにかく物理カードにはそのようなリスクが常にあり、万が一紛失したらすぐさまカード会社に連絡しなければならない。しかし、スマホに内蔵することが前提のバーチャルカードなら、不正利用の可能性を抑えることができる。
「ならば、なぜ特殊詐欺にバーチャルカードが利用されているのだ?」という声が返ってくるかもしれないが、それは最終的にカード情報を特殊詐欺の犯人に教えてしまったからそのような事件が起きたのだ。もちろん、犯人は最初からそのつもりで被害者の中学生にバーチャルカードを作らせたことは間違いないだろう。作成したバーチャルカードの残高にお金をチャージするように指示し、その上でカード情報を被害者から聞き出す。
これは冷静に考えてみると、高齢者から銀行のキャッシュカードの暗証番号を聞き出して預金口座から現金を引き出すのと大差ない手法である。そもそも、この記事で取り上げているバーチャルカードを利用した特殊詐欺の発端は「SNSのDMで“100万円当選”の知らせが入った」である。被害者のことを否定的に言うわけではないが、多少の常識があれば「100万円当たりました!」などというメッセージは冗談か詐欺のどちらかではないかと即座に判断できるだろう。
未成年者も「経済活動の一員」
もちろん、未成年者によるバーチャルカードの作成には本来「保護者の同意」が必要で、それが形骸化しているという点は問題として取り上げるべきだろう。
しかし、所得のない未成年者が成人と同様のキャッシュレス決済を活用し、またそのようなことができる手段が用意されているというのは、むしろ歓迎すべきことではないか。日本人は「社会人」という区切りで権利を持つ者・持たない者を分けようとするが、「社会(society)」とはあらゆる活動の中に組み込まれている人々の全体像を指す言葉であり、そこに個々の思想や職業、年齢等は考慮されないはずだ(だからこそ明治の学者は「society」を「世間」と訳さず、「社会」という言葉を新造した)。
未成年者を成人と同様の経済活動の中に組み込むこと自体は、真っ向から反対できることではない。未成年者も実体経済を支える一員であり、彼ら抜きで「消費の在り方」を考えるのはナンセンスである。
「金融に関する知識」を学ぼう!
ただし、デビットカードでもプリペイドカードでもその利用にはリテラシーが必要だ。
決済の仕組みや「個人情報が漏洩したらどうなるのか?」などの知識を、大人は子供に教えなければならない。いや、もしかしたら大人自身がこの知識を学び直す必要性も発生するかもしれない。
いずれにせよ、先入観から「バーチャルカードは怖いもの」という意識を持つことは、防犯効果に全く寄与しない。特殊詐欺に対抗できる唯一にして最大の武器は、「金融サービスに関する正しい知識」である。
文/澤田真一