
Googleドキュメントを普段使っている人は、右上にいつの間にかダイヤのようなマークがついていることに気づいているはずだ。
右上に突如としてあらわれたマーク
これはGoogleのAI『Gemini』のマークで、クリックすれば即座にAI機能が立ち上がる。現在、IT各社が鎬を削っているAIアシスタント分野だが、その中でもGeminiはストレスフリーに近い迅速さを売りとしている。
恐るべきことに、文章を書いている最中にGeminiのマークをクリックすると、即座に作成中の文章の要約文を生成してしまうのだ。そして、この機能を活用すれば「仕事をしながら文章力を向上させる」ということも可能である。
「要約作成機能」で文才を開発する
Xの小説家界隈で時たま盛り上がる議題がある。それは「文才は遺伝か?」というものだ。
これはかつて、「文才は遺伝で決まる」と主張する週刊誌の記事があり、それを現代のネット小説家の一部が真に受けてしまっているというのが本当のところのようだ。もしも文才が遺伝で決まるというのなら、まず筆者自身が文章を書く仕事で米を取ることはできないし(筆者の父は刑務官、母はただの主婦だった。親戚一同に文筆業関係者は筆者以外一人もいない)、プロのライターや小説家というわけではないが面白い本を書いた人物はたくさんいる。
文才とはつまるところ「人生経験」で、多くの人と会って多くのことを話し合うのが文才を確立させる一番の手段だと思うが、その上で最近ではAIアシスタントの機能を活用するという手段を選べるようになった。
AIの「要約(概要)作成機能」である。
長い文章を要約するという作業は、簡単そうで実は難しい。たとえば、夏目漱石の『こころ』を400字以内で要約するとしたら、どのような形になるだろうか?
語り手の「私」から見た文章にするのか、それとも「先生」を主軸にした書き方になるのか。実は要約文というのはたった一つの答えではなく、人やその時の見方によって内容が大きく変わるもの。要約文に「正答」という概念は存在しない。そのあたりが要約文作成の難易度をさらに上げているのも事実だ。
ところが、そんな複雑で奥深い作業をAIがやってくれるようになった。人類は恐ろしい時代に突入してしまったのだ。
執筆中に要約文を生成してもらう
だが、その文章を執筆している最中でも要約文を即座に作成してくれるというのは、文章力を磨くのに絶好の機能でもある。
区切りの良いところでGeminiに要約文を出してもらい、もしもその内容が自分の主張したいことと逸脱しているようであれば、本文かAIのどちらかがおかしいということだ。もっとも、殆どの場合は本文のどこかに瑕疵があるパターンである。
AIが意味を取り違えてしまっている部分があれば、そこを修正した後にまたAIに要約してもらう……ということを繰り返し、徐々に文章の精度を上げていく。AIを使うことで「この文章は本当にテーマが一貫しているのか?」「いろいろなことを盛り込み過ぎて理解の難しい内容になっていないか?」ということを確認できるのだ。
これは、次世代の推敲の在り方とも言える。
21世紀の韓愈
「推敲」という言葉自体に、実は「文章の見直しは複数人でやるもの」という意味が込められている。
中国唐代、科挙を受けるためにはるばる遠方からやって来た賈島という男が「僧は推す月下の門」という詩を作った。これは科挙に合格するために作った詩であるが、その最中に賈島は「推すより敲く(たたく)のほうが良いのでは?」という考えになってしまった。
そこで、ひょんなきっかけで知り合った長安の知事の韓愈に相談すると、「敲くのほうが周辺の静けさを強調する表現になって、より良い詩になるはずだ」というアドバイスをもらった。これが「推敲」の由来である。
21世紀は、AIが韓愈の役割を担っている。
文章作成ソフトウェアに付随するAIアシスタントは、もちろんGeminiだけではない。Microsoft Officeにも、Copilotとの連携機能が実装されている。こうした面から見てもITジャイアンツ同士のAIアシスタント戦争は激化の一途をたどっている様子が窺えるが、筆者は敢えてMicrosoft Word×CopilotよりもGoogleドキュメント×Geminiを強く推したい。
なぜなら、今の時点でGeminiはCopilotよりも「無駄な挙動が少ない」からだ。
CopilotよりGeminiだ!
Googleドキュメントと連携したGeminiは、そのアイコンを1回クリックしただけで「このコンテンツの概要」として要約文が生成される。が、Copilotはそうではない。アイコンのクリック→「理解する このドキュメントの要約」をクリックし、その後送信アイコンをクリックしてやっと要約文が弾き出される。Geminiよりも必要クリック数が2回多いのだ。
そうして出てきたCopilotの要約文だが、前後に「こんにちは! もちろんです。このドキュメントの要約をお伝えしますね」「他に何かお手伝いできることがあれば教えてくださいね」という社交辞令以外の何物でもない挨拶が入れられてしまう。用意してほしいのは要約文だけであって、それ以外は挨拶や社交辞令も含めて必要ない……と感じているのは筆者だけだろうか。
以上の理由から、筆者は「文章力向上の相棒」にGeminiを強くお勧めする。
文/澤田真一