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さよなら、新宿ミロード! 若者の消費を支え続けた40年のエモすぎる歴史

2025.03.16

地方都市からの長距離バスが、バスタ新宿に到着した。下車して背伸びをし、ゆっくり歩きながらバスタ新宿を抜け出していく。

建物の外、甲州街道沿いに出るとまず目に飛び込むのが新宿駅、そして新宿ミロードの不思議な形の建物だ。

「あぁ、やっぱりここは新宿なんだな」

そう感じさせてくれる説得力が、この建物からは十二分に伝わる。

しかし、そんな新宿ミロードは本日3月16日限りで閉店を迎える。

新宿ミロードと「新人類」

新宿ミロードが開店したのは、1984年10月4日。この当時の日本は熱狂的なバブル景気を迎える以前、そして高度経済成長期の記憶が徐々に遠ざかっていた頃でもあった。

若者は「新人類」と呼ばれ、上の世代よりも個人主義が浸透したとも言われている。サブカルチャーとその関連商品に対する出費を惜しまず、それに合わせて「子供向けのお話」だったアニメは映像・シナリオ共に一気に高度化した。複雑な設定に基づいた緻密な台本を、繊細な映像で描写するようになったということだ。

新人類世代の一つ上の世代は、いわゆる「しらけ世代」である。この世代から見られるようになった「趣味の多様化・個別化」は、新人類世代ではさらに顕著になったことも言及すべきだろう。

そうなると、新しい趣向に合った新しいショップが必要になる。その代表格が新宿ミロードだったのだ。

それまで、「休日の買い物の場」といえばデパートだった。しかし、新人類が求めていたのは「デパートではない何か」である。今でこそ「駅併設のショッピングモール」と形容できるが、当時はそのような概念も未成熟だった。

新宿ミロードの登場により、新宿は渋谷や原宿、池袋に並ぶ「若者の街」としての地位をそれまで以上に確立していく。

日本の実体経済を支え続けた「10代女子」

新宿ミロードへ足を運ぶ10代女子の、40年間の姿の移り変わりを描いた動画を公式が配信している。

開店当時の女の子の間で流行った髪型は「聖子ちゃんカット」だった。それが90年代になると段階的にギャル化し、ポケベルを持つようになった。2010年代中葉からの女の子はスマホを持つようになり、パンデミックが発生した2020年の女の子はちゃんとマスクを着けている。こうした時代描写が細部まで盛り込まれた、素晴らしい出来栄えの動画である。

当時の大人たちが彼女たちをどのような目で見ていたのかはともかく、現代日本の文化や文明の構築に10代女子が果たした功績は極めて大きい。若者の旺盛な消費は実体経済に反映され、特に90年代以降はバブル景気の浮世に流されて無駄な投資や事業に走った大人たちの「やらかし」を少女たちの経済活動が補填した側面が目立った。 

携帯電話を日常生活に欠かせないガジェットにしたのは、90年代後半から2000年代前半にかけての女子高生である。彼女たちが限りある小遣いをパケット代に投じたからこそ、回線料は大幅に安くなったのだ。それだけでなく、大人たちがバブル崩壊後の日本経済の惨状に意気消沈している横で、彼女たちは実際にモノを買い続けた。にもかかわらず、この功労がなぜ今に至るまで正当に評価されないのか―—。

話は逸れたが、この40年間の若者の消費を新宿ミロードが大きく促したのいうのは紛れもない事実。また、バブル崩壊後の萎んでいく一方の消費経済を新宿ミロードは土俵際で支え続けてきたのだ。

新宿駅周辺の再開発構想とは

そんな新宿ミロードは、なぜ閉館するのか?

それは新宿駅周辺の再開発構想が大きく関係している。

2017年から、新宿区は「新宿の拠点再整備検討委員会」による会議を重ねて新宿駅周辺の再開発の在り方を検討していた。同年6月28日に開催された会議では、現状の新宿駅周辺の課題と問題点がいくつも挙げられている。

たとえば、駅構内及びその周辺の店舗に商品を運ぶトラックは、どこで荷捌きをしているのだろうか?

資料では、駅西口の地下広場のロータリーにトラックが路上駐車し、そこで荷捌きが行われていることが説明されている。いわゆる「路上荷捌き」が行われている状態だが、トラック運転手から見ればここしか荷捌きのできる場所がないのだ。

また、近年では「駅の防災対策」の重要性が叫ばれるようになっている。これは単に建物を耐震構造にするだけでなく、災害による帰宅困難者が発生した場合の対応ができる機能が求められているということだ。

現に2011年の東日本大震災で、新宿駅に約17万人の滞留者が発生したことがあった。そのうちの約9万人が帰宅困難者になってしまったのだ。この人たちを一時的に受け入れる施設が、強く求められている。

「ダンジョン」から「歩きやすいエリア」へ

2040年代までに実現する予定という「新宿グランドターミナル構想」だが、残念ながら新宿ミロードのあの建物は構想の中に含まれていない。

しかし、これは必ずしも悲観すべきことだろうか?

見方を変えれば、再開発計画は「新宿ダンジョン」にメスを入れるということである。地方から出てきた人は絶対に道に迷うと言われている新宿駅周辺が、これから15年ないし20年ほどかけて「誰にとっても歩きやすいエリア」に変貌していく。これは人の流れをスムーズにし、路上での滞留を防ぐ効果もあるはずだ。

また、現代は40年前とは違いキャッシュレス決済が定着している。

誰しもが常時オンライン接続するデジタル端末を持ち、未成年者でも現金に頼らない買い物をしている21世紀。店員のいないキャッシュレス決済専用のコンビニエンスストアは、既に実現している。現代の買い物とは、「ウォークスルー」という言葉が示す通り商品の選択や会計にあまり時間をかけないスタイルだ。そうした現代人の行動に合わせた設計が、今後新宿駅周辺に施されていくだろう。

【参考・画像】
新宿ミロードから最後のメッセージ「卒業おめでとう、わたしたち。」を展開 3月10日(月)より「おしまいのFINAL7DAYS」を開催!-PR TIMES
新宿駅直近地区のまちづくり-新宿区
第1回 新宿の拠点再整備検討委員会-新宿区

文/澤田真一

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