
■連載/阿部純子のトレンド探検隊
コロナ禍を経て、住環境と健康の関連が注視されている中、きれいな空気が感染対策に貢献できる可能性を追求している「パナソニック ホームズ」 、日本繊維製品品質技術センター(QTEC)と共同で、国内初となる実住宅の室内でインフルエンザウイルスの噴霧試験実証を実施。空気清浄機能を有する全館空調システムにおける、空気中のウイルス感染価の濃度低減効果を確認した。
実物大住宅でのウイルス噴霧実証実験の成果を発表
同社の「エアロハス」は、家の中をきれいで快適な温度の空気で満たす全館空調システム。各部屋に温度センサーを設置し、風量調整ダンパーとエアコン、搬送管を統合的にコントロールできるコントローラーと一体化した製品になっており、部屋の温度をこまやかに制御できる。
床下を介して空調ユニットまで空気を取り入れるようになっており、床下の地盤の地熱効果によって冬は外気よりも暖かく、夏は外気よりも涼しい空気を取り込むことができ、エネルギー削減にもつながる。
下記画像は室内に設置された空調ユニット。室内機はこちらの1台のみで、高効率専用エアコンと搬送ファンで温度と風量を制御する。
空調ユニットを通じて空間の循環空気と混合・浄化、循環経路に搭載されているHEPAフィルターによって空気が浄化され、その空気が各部屋へと搬送される。そのため、浄化された空気しか室内には送り込まれない空気質にも特長がある。
ウイルス対策として厚生労働省では1時間に2回以上の換気を推奨しているが、冬場だと部屋の温度が下がる、光熱費が増加するという理由から実施しづらい状態が実情だ。
また、米国疾病対策予防センター(CDC)では、換気と空気清浄をトータルして1時間に5回以上行うことが有効とされ、空気清浄機能付きの全館空調は有効な対策となると期待されている。
2023年に同社とQTECが共同で実施した実証実験では、全館空調システムに採用している専用 HEPAフィルターが、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)、A型インフルエンザウイルス(H3N2)を 99.98%以上捕集することを確認している。
一方で、これまでの検証は実験室を使った単室空間でのウイルス噴霧実証で、ひとつの空間のウイルス感染価の濃度低減効果を実証するに留まり、部屋間相互の気流を考慮した住宅内での拡散影響を評価することが出来ない課題があった。
今回はこの課題を踏まえQTECと共同で、同社の湖東工場(滋賀県東近江市)にある住宅試験センターで実施した。
同センターでは密閉された建屋内(人工気象室)に建設された実住宅3棟が並び、さまざまな気象条件を再現して建物の耐久性を試験するほか、住宅室内の温度・湿度分布や空気環境の分析などを行う施設になっている。
実住宅において、実際のインフルエンザウイルスを噴霧する実証を実施したことは国内で初めてとなる。
今回の実証では、換気・空調方式を変えた3ケースで比較を行った。ケース1が個別空調の(間歇空調・第三種換気)住宅で、各部屋のエアコンで温度調整され、換気ファンが各所に設置されている一般的な住宅を想定したもの。
ケース2は全館空調の住宅で空気清浄機能あり・風量小、ケース3は同じく全館空調の住宅で空気清浄機能あり・風量大と、循環風量の量を変えた条件になっている。
ウイルスを噴霧する部屋は療養室を想定した2階居室で行い、各ケースにおいて、空調システムを作動させながら空気を撹拌させながら噴霧室に試験ウイルス懸濁液を3.0mL噴霧。
ウイルスを噴霧した直後、噴霧室の空気を遠隔で10.0L/minで10分間採取し、100L空気中のウイルスを捕集溶液(リン酸緩衝食塩水:20mL)が入った捕集装置で捕集する。30分後、60分後の噴霧室・隣室の空気を同様の手順で採取し、ウイルスを捕集。捕集した空気を「プラーク測定法」によりウイルス感染価を分析した。
実証試験の結果、噴霧室では噴霧直後の濃度がまったく異なることが確認できた。空気の浄化機能を有している全館空調では初期濃度がそもそも上がりにくくなっており、噴霧したと同時に循環がなされて空気が希釈されていることが結果として現れている。
濃度低下も循環量が多いほどスピードよく低下し、空気浄化機能を有する全館空調においては、相当換気量の確保ができることにより、ウイルス感染下の濃度の抑制に貢献していることを確認した。
噴霧室の隣室では、全館空調のケース2、3の場合、30分後には0%になっている。一般住宅ではトイレや洗面所の換気ファンの流れができてしまい、療養室以外の空間に流出した濃度がある程度の状態でとどまっているが、全館空調だと他の空間に流出は見られず、一般住宅に比べ、居間や隣室への拡散リスクが小さいことが確認できた。
【AJの読み】様々なメリットのある全館空調にウイルス対策という新たな利点が加わる
パナソニックホームズの全館空調システム「エアロハス」は2017年から販売している製品で、現在同社が扱っている戸建ての5~ 6割ほどに搭載されている。
「今回の結果は住宅で実施した一実験に限られてしまうこともあり、なにかしらの実装などの予定はまだありませんが、今後も様々な検証を踏まえながら、実際の住宅の居住者様の調査も並行して行っていきたいと思っています。
今回の実証で循環浄化させる機能をつけることでウイルスの拡散抑制を期待できる効果が大きいことがわかりましたので、今後の製品の中では、感染者が出たときに使える運転モードのような形も想像しながら商品開発に取り組んでいきたいと考えています」(パナソニックホームズ R&Dセンター 環境技術研究室 梅本大輔室長)
全館空調は部屋間の温度差が少なくヒートショックの防止にもなり、部屋ごとにエアコンを設置しなくても済むので見た目もすっきりとしてインテリアの印象も大きく変わるなど、さまざまなメリットがある。(※下記画像の天井にある四角が空気口)
また空調ユニットに搭載されているHEPAフィルターは半年に1回の掃除で済み、空気口はフィルターがないので掃除の必要がなく、エアコン掃除に比べると、かなりお手入れが楽というのもポイントが高い。
インフルエンザや風邪といった感染症が流行る時期、花粉症の時期は、何度も換気がしにくいのが現状だが、今回の実証によって空気清浄機能がある全館空調ではウイルス対策にも有効なことが確認され、住宅選びに際して大きな指針となりそうだ。
取材・文/阿部純子