
2025年3月3日、2027年大河ドラマ「逆賊の幕臣」の制作・主演発表会見が行なわれ、主人公・小栗上野介忠順(おぐりこうずけのすけただまさ、以下小栗忠順)役は松坂桃李が務めることが発表された。
今回の主人公である小栗忠順は、日本初の遣米使節となって新時代の文明を体感。新しい国のかたちをデザインした江戸幕府の天才的な官僚だったが、明治新政府に「逆賊」とされ歴史の闇に葬られた男だ。
「逆賊の幕臣」は、そんな忘れられた歴史の“敗者”=幕臣の知られざる活躍を描いた、脚本家・安達奈緒子氏によるオリジナル作品となる。ちなみに本作が放送される2027年は小栗忠順生誕200年にあたる。
主人公・小栗忠順について
文政10(1827)年、江戸・神田駿河台生まれ。2500石の名門旗本で、天才的なエリート官僚。隅田川の花見でも花や酒には目もくれず治水について語り続け、周囲をあきれさせるようなオタク気質も持ち合わせていたという。
万延元(1860)年、遣米使節として渡米し西洋文明を体感。帰国後要職を歴任して軍制改革や近代的工場(造船・製鉄所)の建設、日本初の株式会社設立などさまざまな改革を推進していく。
特に、武士でありながら経済に明るい小栗は幕府にとって得難い人材で、何度も勘定奉行を務めた。空気を読まず上司に直言しては辞職し、辞めては呼び戻されること70回という伝説も興味深い。
後に明治の政治家・大隈重信は、明治政府の近代化政策のほとんどは小栗の模倣だったと語ったという。江戸幕府終末期の勘定奉行として、その名は徳川埋蔵金伝説にも登場している。
■主演:松坂桃李〜小栗忠順 役
1988年生まれ、神奈川県出身。「侍戦隊シンケンジャー」(2009)でデビュー。以降、ドラマ、映画、舞台などで活躍。
おもな出演作に、ドラマ「離婚しようよ」(2023)「御上先生」(2025)、映画「孤狼の血」シリーズ(2018・2021)「新聞記者」(2019)「空白」(2021)「流浪の月」(2022)「雪の花-ともに在りて-」(2025)、など。NHKでは、連続テレビ小説「梅ちゃん先生」(2012)「わろてんか」(2017)、大河ドラマ「軍師官兵衛」(2014)「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(2019)、土曜ドラマ「今ここにある危機とぼくの好感度について」(2021)などに出演。
「第92回キネマ旬報ベスト・テン助演男優賞」 「第43回日本アカデミー賞 最優秀主演男優賞」など受賞多数。
大河ドラマ出演3作目にして主演は今作が初。
■作:安達奈緒子〜執筆によせて
脚本を担当する安達奈緒子氏と主演の松坂桃李
《幕末》を書く機会をいただきました。幸甚とはまさにこのことです。
あまたの人が心惹かれ著述した日本の大転換期。史実も人物もあまりに鮮烈で魅力的なので、ひたすら実直に描こうと肝に銘じます。ただ─。
「誰の目で見るか、どこまで広く見るか」
人は見たいものだけを見る、とは昨今よく耳にします。勝者が歴史を作るとも。だとしたら敗者とされた者の目から見た情勢はそれなりに様相が変わるはずです。また一国の政変に焦点を絞らず画角を広くとれば、大洋大陸を隔てた遠い国々の複雑にからみあう意図が見えてくる。はたして。
今見えている出来事は本当に「今見えているままなのだろうか?」
小栗は持っている人です。身分、能力、機会に恵まれた変わり者の天才となれば鼻につく人物かもしれません。実際、無血開城の立役者、勝海舟は小栗を疎んじました。しかし小栗は官吏であり、いわゆるリーダーではありません。公の人です。
そして小栗は持っている人だからこそ《個》として自由に生きることを自分には許さなかった。つねに公がなすべきことを考え、変容せざるをえない国を少しでも良くしようと邁進する。
その高潔さと頑固さは清々しいほどで、混乱の世にあって希望たりえる人だったと思います。
松坂桃李さんはまさにそんな高潔さをまとう方です。小栗がどんな人だったかを想像するとき、勝手ながら姿がピタリと重なります。極限まで苦闘する幕臣がスッと実体をもって立ち上がってくる、顔が見えてくる、するとやはり思うのです。
「なぜ彼は処刑されなければならなかったのか」
小栗を知れば知るほど彼の死が悔しい。その死には謎があります。これを解明していく物語はこの動乱の時代をさらに心惹かれるものにしてくれるはずです。
《幕末》を書くことを許されたのは《今》だったからだと考えます。がんばります。
■「逆賊の幕臣」あらすじ
万延元(1860)年。小栗忠順は、日本初の遣米使節団の中核として米艦ポーハタン号に迎えられ、大海原に乗り出す栄誉を得ていた。一方、日本の軍艦として随行する咸臨丸の勝海舟は、体調不良で船室から出ることができず、米軍士官に指揮権を譲渡するという屈辱に震えていた。
だが後世、偉業として語り継がれているのは「咸臨丸」の方だ。なぜなら小栗は、明治新政府に「逆賊」と見なされ、歴史の闇に葬られたからである。
小栗を最初に取り立てたのは、大老・井伊直弼だった。黒船来航により日本が世界経済の渦に巻き込まれ混乱が増す中、武士には珍しく金勘定や数字に強く、上役にも直言する小栗に目をつけたのだ。小栗は遣米使節として西洋文明を目の当たりにし、外国に飲み込まれない近代国家づくりを急ごうと決意する。
しかし、それは容易なことではなかった。
井伊の暗殺、朝廷による開国拒否、生麦事件など攘夷事件の続発。そしてその賠償金や、皇女・和宮の降嫁、将軍の上洛、長州征討などが、財政の逼迫に拍車をかける。更に西郷隆盛ら薩長の志士たちや島津家など大大名が幕政に干渉し、インフレや格差に苦しむ民衆は暴動を起こす。
そんな中で、列強が軍事力を背景に国の独立を脅かしてくるのだ。
小栗は財政・外交・軍事を預かる要職を歴任しながら、侵略の危機と国内の分断を食い止めようと奔走する。やがて起死回生の策としてフランスから支援を取り付け、改革の加速を狙うが、協調していたはずの将軍・徳川慶喜の本心が徐々に見えなくなっていく。
そんな中、勝は薩長やイギリスとも気脈を通じながら、独自の近代化路線を構想していた。
幕府を「改良」して人々を束ねる「仕組み」を作りたい小栗と、幕府を「解体」してでも実力ある「個人」を活躍させたい勝、その運命は大きく分かれていく……。
2027年 大河ドラマ「逆賊の幕臣」
放送予定/2027年1月~
制作スケジュール/2026年 夏 クランクイン予定
作/安達奈緒子
制作統括/勝田夏子
演出/西村武五郎
写真提供:NHK
関連情報
https://www.nhk.jp/g/drama/
構成/清水眞希