手書き「甲子園文字」の特徴をふまえつつ、ビジョン表示でも見やすい文字を
創業者・森澤信夫らによる、日本の出版、広告、デザインの発展に大きく貢献した「邦文写真植字機」の発明から昨年100周年を迎えたモリサワ。フォントのラインナップは2000種類以上、定番フォントからユニバーサルデザインフォント、多言語フォントなど幅広く開発を行っており、日本のフォント市場でシェア1位を誇る。
「甲子園フォント」は、モリサワのプロジェクトチームと甲子園球場の技術スタッフが連携しながら数年かけて完成した。
制作を担当した、株式会社モリサワ フォントデザインセンター フォントデザイン室 フォントデザイナーの本間由夏氏はこう話す。
「甲子園フォント制作にあたり、私たちはまず甲子園球場に展示保管されている手書き文字のパネルを拝見しました。手書きの甲子園文字の特徴としては、一般的な明朝体より少し横につぶれた平体気味のプロポーションを持ち、縦画が太くコントラストの高いデザインとなっています。また、筆の勢いを感じさせるはらいやはね打ち込みが特徴的です。
カタカナが残っている手書き文字は少ないそうですが、すっと伸びた線やたっぷりと筆を含んだ終筆部分に個性を感じられます。電光掲示板になってからも明朝体風のデザインは受け継がれており、甲子園球場のみなさまの文字に込めた思いをとても感じました。
今回の甲子園フォントでは、甲子園文字を次の100年につなぐというテーマのもと、ユニバーサルデザインフォントをベースとして制作しています。
モリサワのユニバーサルデザインフォントは、文字の形がわかりやすいこと、読み間違いにくいこと、文章が読みやすいことというコンセプトで開発されています。手書きの甲子園文字の特徴を受け継ぎつつ、ビジョン表示でもより多くの人にとって読みやすい文字というのを目指しました。
手書きのパネルは同じ文字であっても、文字数やパネルによってデザイン差があります。例えば『若松』を見てみると、縦画や横画の書き始めの先端やウロコと呼ばれる三角形のパーツが鋭く尖った印象ですが、『笠間』は全体に丸みがあります。また、はねの形も『掛』はS字にカーブを描き、『布』ははねの根元に角があります。『原』のようにカーブしない形もあります。
残っているスコアボードの文字から平均的な特徴を見極め、全体の文字のデザインルールを検討・統一していきました。全体ルールが決まった後は、収録する文字を一文字ずつ目視で確認しデザイン調整を進めていき、甲子園球場のみなさまのご意見も伺いながら、字形や太さなど細やかな調整を重ねていきました」(本間氏)
【AJの読み】甲子園文字の伝統を受け継いだデジタルフォント「甲子園フォント」
勢いのある力強い文字で、遠くの席からでも読みやすく作られていた手書きの甲子園文字。
今回のプロジェクトは手書きの原字を忠実に復刻するものではなく、甲子園文字の伝統を受け継ぎながら、現代のビジョン表示に適したデジタルフォントを制作する目的で作られ、「甲子園フォント」と名付けられた。
視認性の高い読みやすい文字はもちろんのこと、数字についても甲子園文字の特徴を活かして制作しており、数字を含めた「甲子園フォント」にぜひ注目してほしい。
現在、甲子園歴史館の「センバツ企画展2025」において、「甲子園フォント」に関する特別展示を4月6日まで開催している。甲子園文字の歴史や甲子園フォントプロジェクトの概要、フォント制作方法などをパネルで紹介するほか、フォント制作の基となる原図や、原図の制作道具などの展示、2024年の阪神タイガース公式戦でモリサワが開催した、甲子園フォント制作を記念した冠試合の様子などを紹介している。
また、甲子園フォント誕生を記念したグッズを「甲子園eモール」、「阪神甲子園球場レフト16号門横スタジアムショップ(球場外周)」限定で販売。
「甲子園フォント 選手フェイスタオル」(各2,000円)、「甲子園フォント トートバッグ」(1,800円)、「甲子園フォント シークレットポジション木札」(400円)などのグッズや、「甲子園フォント」を身近に感じられる「甲子園フォント シャチハタ印」(5,000円/甲子園eモールのみ取り扱い)も販売する。
(C)阪神電気鉄道株式会社/(C)株式会社モリサワ
取材・文/阿部純子