
母子家庭で育ち、学生時代は自ら学費を稼いでいた経験をした株式会社祭の代表・清水舞子さん。
彼女自身の体験から生まれたのが、SNS「いつでもおかえり」(いつおか)です。
どんな小さなことでも、誰かが認めてくれる場所を作りたいーーそうした想いから始まったSNSは、彼女の想いに応えるように利用する人が少しずつ増えてきています。
多くのSNSで炎上や誹謗中傷が日常的に起きてしまう現代社会で、それらとは無縁の世界一やさしいSNSが生まれた経緯を清水さんに聞きました。
返信やリポストが”あえて”制限されているSNS
「いつでもおかえり」がリリースされたのは2023年12月。口コミでユーザー数は増え続け、わずか1年と少しで3万DLを突破した。
開発のきっかけには、清水さんの経験が関係しているという。
「私も、過去に少し病んでしまった時期があるのですが、その時にSNSで気持ちを吐き出せなくて苦しい思いをした時期がありました。家族にも友達にも言えないちょっとした感情を吐き出せる場所が欲しかったのに、いまの多くのSNSでは、ささいな投稿であっても批判や否定をされてしまうことがよくあります。だから、ひとりひとりの気持ちが否定されないSNSがあればいいなあって思ったんです」
SNS「いつでもおかえり」の一番の特徴は、返信機能が制限されていることだ。
ユーザーの投稿に対して、言葉で返信をするのではなく、スタンプでリアクションできるようになっており、スタンプも「わかる」「よしよし」「偉い」といったもらったら嬉しい言葉や絵文字が並んでいる。
ユーザーにはそれぞれ「部屋」と呼ばれる投稿スペースが用意されており、「私のがんばった日記」「ひとりごと部屋」など、部屋のコンセプトを自由に決めて、自由に投稿していい。
「他にも、『いつおか』はリポスト機能もありません。だから、自分の発言が知らないところで拡散をされる心配もありませんし、企業がマーケンティングで活用することも難しいんです。本当に、ユーザーたちだけの心安らぐ空間が作りたいですね」
ユーザーが増えるに従って、ユーザー同士のリアクション(スタンプ)のやり取りも増えてきている。
「嬉しかったのは、私が思っていた以上にユーザーが『いつおか』ならではのコミュニケーションを大切にしてくれていることです。誰かに認めてもらいたいという気持ちだけでなく、誰かを認めてあげたいという気持ちがユーザーのみなさんにあるおかげで、やさしいSNSとして成長できているのかなと思います。本当にありがとうございます」
リアルでは言えないことを言える場所に
「いつおか」には自分で設定する「興味がある話題(カテゴリ)」という機能がある。
「# 推し」「# 恋愛」「# ご飯」といったカテゴリが並ぶ中、「# 病気_障がい」といったデリケートなものもある。
「実は、株式会社祭はメンタルヘルスとIT分野の融合を目指している会社です。というのも、新宿の繁華街で働いていた頃、メンタルを病んでしまう子や家庭環境に問題を抱えている子たちをたくさん見てきました。彼女たちを助けたいという思いから会社を立ち上げたんです。
メンタルヘルスにおいて大切なのは、通院するもっと前の段階で気持ちや愚痴を言葉にすることです。自分の中で抱え込んでキャパオーバーになってしまう前に、安心して発言できる場所があればいいなと思ったんです。リアルでは言えないことも匿名なら言えるかもしれない。それを見た人から『がんばったね』『偉いね』って言ってくれたら、彼女たちも自分のことを認めることができるかもしれない。『いつおか』は、そんな場所にしたいんです」
現在、「いつおか」ユーザーの7〜8割は女性だという。
もっともっと利用する人が増えてほしいと語る清水さんに今後の展望を聞いた。
「世の中にはまだまだ悩みを抱えているけど打ち明ける場所がないって悩んでいる方が多くいらっしゃると思います。そういう方々に『いつおか』を知ってもらいたいですし、女性だけじゃなく男性にとっても『いつおか』が弱音を吐き出せる場所になってほしいです。今後の取り組みとしては、行政とも連携しながらケアが必要なユーザーには適切な窓口を案内できるシステム作りを考えています。これまでもユーザーが望む機能は積極的にアップデートしてきましたので、アプリ自体ももっと使いやすく、やさしい空間にしていきたいです」
帰ったらいつでも温かく迎え入れてくれる誰かがいるーー「いつでもおかえり」はこれからも多くの人の居場所になることだろう。
株式会社祭
代表 清水 舞子さん
多摩美術大学出身、母子家庭育ち。学費をカメラマン派遣や本のせどりなど様々なスモールビジネスで工面。その過程で新宿の繁華街の店長をした経験から社会課題に深い関心を持ち、ITデザインの技術を独学で習得、株式会社祭を起業。戦略、企画、攻め担当。
取材・文/峯亮佑