
自由に過ごせる週末で何をするかは人それぞれだが、普段はなかなか運動できない人はこの2日間で集中的に“運動貯金”をしてみればいろいろといいことがありそうだ。新たな研究では週末だけの運動でも記憶力の向上に繋がることが報告されている。
間欠的運動は記憶力の維持に有利に働く
パソコンやスマホなどの電子機器に囲まれて座りがちな生活を送る現代人にとって運動習慣は欠かせないともいえるのだが、慌ただしい日々の時間的制約から毎日運動するのは難しい場合もあり得るだろう。
じっくり運動できるのは週末しかないという人も少なくなさそうだが、それでも運動の効果は得られるのだろうか。
カリフォルニア大学アーバイン校の研究チームが2024年8月に「Neurobiology of Learning and Memory」で発表した研究では、週末だけ積極的に運動をする“週末戦士(weekend warrior)”は記憶力の向上の恩恵が受けられることが報告されている。
運動は体力と筋力の向上のほかにも、さまざまな認知機能の改善にも効果があることが各種の研究からもわかっているが、それらの研究の多くは、毎日の運動習慣に焦点を当てており、ほとんどの人にとってあまり現実的ではないともいえる。
週の数日に集中して運動をする“週末戦士”においても、心血管系の健康に結びつくことが報告されているが、認知機能への影響は未調査のままであった。そこで研究チームは間欠的な運動が記憶力と脳機能を高める上で、継続的な運動と同等またはそれ以上の効果をもたらすかどうかを調べる研究を行った。
研究チームは海馬依存の長期記憶形成に重要な「Acvr1c」や「Bdnf」などの遺伝子に焦点を当て、運動スケジュールが行動と遺伝子発現にどのように影響するかをマウスを使った実験で検証した。
12週齢のオスのマウス48匹は運動計画に基づいて3つのグループに分けられた。
●継続的な運動:14日間連続して走る。
●間欠的な運動:7週間にわたって週2日走る(合計14日間)。
●コントロールグループ:2日間のみ走り、その後は運動なし。
その後、研究チームはマウスの記憶力を測定する課題を行い、さらに脳組織を分析して海馬の「Acvr1c」と「Bdnf」のレベルを測定した。
調査結果から、継続的運動と間欠的運動の両方が、コントロールグループと比較して記憶力を高めることが明らかになった。そして間欠的運動はより記憶が持続的であることもわかった。7日間の運動なし期間後、間欠的運動群のマウスは高い記憶力を維持したが、継続的運動群の記憶力は少しずつ減少していたのだ。
また脳組織の分析により、間欠的運動群のマウスの海馬では、1週間の活動停止後も「Acvr1c」と「Bdnf」のレベルが持続的に上昇しており、対照的に継続的運動群では同じ活動停止後にこれらのレベルが低下していることもわかった。つまりこの分析においても間欠的運動は記憶力の維持に有利に働いていたのだ。
間欠的運動に専念したほうが学業や技術の習得には有利であるかもしれないという興味深い研究結果となった。できる時に集中して運動する“運動貯金”は認知機能の面でも嬉しい“利息”がつくということかもしれない。
できる時にはしっかり運動して“運動貯金”を心がける
できる時に積極的に行う“運動貯金”はもちろん認知機能だけでなく肉体の健康にも資するのだが、その効果を引き出すにはやはりやるべき時にはある程度の運動量が必要である。
NHS(イギリス国民保健サービス)は健康を維持するために、週に150分の中程度の運動、または75分の激しい運動を推奨している。つまり2日間の運動でこの数字に達することが望ましいのである。
MITハーバード大学ブロード研究所をはじめとする研究チームが2024年9月に「Circulation」で発表した研究では、間欠的運動と継続的運動の利点は同じであり、重要なのは活動パターンではなく、活動総量である可能性が高いことを報告している。
研究チームは「UKバイオバンク」の8万9573名データを用いて、身体活動パターンと疾患の発症率との関連を分析した。
参加者は手首にアクティブトラッカー(活動量計)を装着し、1週間の総身体活動量と活動時間を記録した。中程度から激しい運動を1週間に少なくとも150分行う者の中で継続的運動者と間欠的運動者が分類され、1週間に150分未満しか運動しない者は非活動者と分類された。
週に150分運動する者は継続的運動者であれ間欠的運動者であれ、非活動者と比べて264種類の疾患のリスクが低くなっていた。やはり間欠的運動者の“運動貯金”は有効であることになる。
最も大きな効果があったのは心臓代謝障害で、継続的運動者であれ間欠的運動者であれ、非活動者に比べて高血圧のリスクが20%以上低く、糖尿病のリスクは40%以上低下したのだ。
この研究は週に数日しか時間が取れない人にとっては朗報であり“運動貯金”の頻度を増やすことで身体活動の総量を増やし、さらなる健康効果を得られる可能性が示唆されている。
忙しい日々の生活でなかなか運動する時間が取れなくとも、できる時にはしっかり運動することで“運動貯金”を心がけたいものである。
※研究論文
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1074742724000820
※参考記事
https://www.psypost.org/weekend-warrior-strategy-shows-persistent-cognitive-benefits/
文/仲田しんじ
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