「固執」を「こしつ」と読んでいませんか? もちろん正しい読み方ですが、実は誤用が広まって一般的な読み方として定着した「慣用読み」です。本来は、「こしゅう」と読むのが正解とされています。 固執以外の慣用読みの例、固執の意味と類似する意味の言葉、反対の意味の言葉を集めました。ぜひご覧になり、言葉の音や意味について考える参考にしてください。
目次

「固執」とは、あくまでも自分の意見を主張して譲らないことです。次のように使われます。
- 彼女が自分の意見に固執している限りは、新しいアイデアは生まれず、グループ内でも孤立するかもしれない。
- 部長は自説に固執し、他人の意見を受け入れようとしない。
自分の意見を強く主張するだけでは、「固執」とはいいません。主張して譲らないとき、他人の意見を聞き入れようとしないときは「固執」と表現できます。
また、自分の意見が間違っていることを指摘されたときに受け入れないときも、「固執」といえます。自説にこだわるあまり、視野が極端に狭くなった状態と考えられるでしょう。
参考:デジタル大辞泉
固執の読み方は「こしつ」で正解?

固執は「こしつ」と読みます。しかし、本来は「こしゅう」が正しい読み方で、「こしつ」は慣用読みです。
文化庁が2004年1月~2月に実施した「国語に関する世論調査」によれば、固執を「こしつ」と発音する方は73.7%、「こしゅう」と発音する方は19.5%※でした。時代や地域、年代によっても変わると考えられますが、「こしつ」と発音する方のほうが「こしゅう」よりも多いことがわかります。
※「わからない」や「どちらも同じくらいの割合でいう」という方もいるため、合計は100%にはなりません。
参考:文化庁「平成15年度「国語に関する世論調査」の結果について」
■慣用読みとは?
慣用読みとは、本来とは異なる読み方が広く用いられるようになったことで、定着したものを指します。正しい読み方ではないものの、その読み方を使用している方が多いため、必ずしも間違いとはいえないときに「慣用読み」と判断されます。
慣用読みは間違いではありませんが、「正しくはない」と考える方も一定数いるでしょう。できれば本来の読み方を知り、普段使用している読み方が慣用読みかどうか理解しておくほうがよいかもしれません。
慣用読みが生まれる理由としては、漢字に複数の読み方があることが挙げられます。たとえば「一」は「いち」とも読みますが「ひと」と読むことも可能です。
「一段落」は本来の読み方は「いちだんらく」ですが、「ひとだんらく」と読む方も多く、慣用読みとして広く知られています。
また、形や意味が類似している漢字の読み方が慣用読みとして定着するケースもあります。たとえば、慣用読みではありませんが、「教諭」の「諭」の漢字を「論」と見間違い、本来は「きょうゆ」であるところを「きょうろん」と読んでしまうことがあるかもしれません。
このような間違いも、何度も何年も繰り返されると、いつかは慣用読みとして定着する可能性があります。
■慣用読みの例をご紹介
固執以外にも慣用読みは多数あります。いくつか紹介します。
- 依存:(本来の読み方)いそん(慣用読み)いぞん
- 貼付:(本来の読み方)ちょうふ(慣用読み)てんぷ
- 惨敗:(本来の読み方)さんぱい(慣用読み)ざんぱい
- 堪能:(本来の読み方)かんのう(慣用読み)たんのう
- 漏洩:(本来の読み方)ろうせつ(慣用読み)ろうえい
- 重複:(本来の読み方)ちょうふく(慣用読み)じゅうふく
- 早急:(本来の読み方)さっきゅう(慣用読み)そうきゅう
- 輸出:(本来の読み方)しゅしゅつ(慣用読み)ゆしゅつ
- 消耗:(本来の読み方)しょうこう(慣用読み)しょうもう
- 出生:(本来の読み方)しゅっしょう(慣用読み)しゅっせい
固執と類似する意味の言葉

固執には「他人の意見を聞き入れない」というニュアンスがあり、ポジティブな表現とはいえません。たとえば、上司に「その話にこだわってらっしゃいますよね」というのは問題がなくても、「その話に固執されていますよね」というのは失礼に当たる恐れがあります。
相手に不快な思いを与えないためにも、固執の言い換え表現を覚えておき、シチュエーションに応じて使い分けるようにしましょう。類似する意味で使われる言葉をご紹介します。
参考:デジタル大辞泉
■貫徹
貫徹(かんてつ)とは、意志・方針・考え方などを貫き通すことや、最後までくじけずに続けることです。固執とは異なり、「意見を聞き入れない」や「譲らない」といったネガティブなニュアンスがないため、自分以外の様子にも使いやすいでしょう。
- 従業員が一丸となり、労働環境改善を求めて要求を貫徹した。
- 彼女の座右の銘は「初志貫徹」だ。
- プロジェクトの成功までの道のりは容易ではなかったが、一致団結して貫徹した。
■執着
執着(しゅうちゃく)とは、一つのことに心をとらわれて、そこから離れられないことを意味する言葉です。
「しゅうじゃく」と発音することもあります。何かにこだわることは悪いことではありませんが、執着には「柔軟性を欠いている」といったニュアンスがあるため、使う場面を選ぶようにしましょう。
- 彼女はお金に執着している。
- 彼が彼女と別れないのは、愛情というよりは執着心のように思える。
- 成功のためには執着することも大切だ。
■根気
根気(こんき)とは、物事を飽きずに長くやり続ける気力のことです。ポジティブな意味で使われることが多いため、他人の様子や行動を指す表現としても選択できます。
- 根気よくご機嫌伺いを続けていたら、いつかは話を聞いてもらえるだろうか。
- 人に自慢できる能力はありませんが、根気なら負けません。
- 早朝ジョギングを始めたが、根気が続かず、2日で止めてしまった。
■不屈
不屈(ふくつ)とは、どのような困難にぶつかっても意志を貫くことやその様子を意味する言葉です。根気と同様、ポジティブな意味で使われることが多い傾向にあります。
- 営業の成果は一向に出ないが、不屈の精神で続けていきたい。
- 彼女はくじけることがないようだ。常に不撓不屈で物事に立ち向かっていく。
- 今では「不屈の男」と呼ばれているが、学生の頃は意思が弱かったらしい。
■主張
主張とは、自分の意見や持論を他に認めさせようとして強く言い張ることや、その意見や持論のことです。
- 彼女の主張は首尾一貫していた。
- 主張を通すためには、相手の主張にも耳を傾けなくてはいけない。
- 彼は自説を主張するばかりで、まったく他人の意見は聞き入れようとしない。
固執と反対の意味で使われる言葉

特定の意見にこだわることも場合によっては大切ですが、相手の意見を聞き、正しいと思える話は受け入れる柔軟性を持つことも重要です。ここでは、固執と反対の意味で使われる言葉をご紹介します。
■譲歩
譲歩とは、自分の意見や主張を押さえて相手の意向に従ったり妥協したりすることです。他人に道を譲る、という意味から生まれた言葉とされています。
- かなり相手側が有利になるような条件に譲歩したつもりだが、さらに譲歩を求められて困惑している。
- これ以上価格を譲歩すると、我が社の利益がなくなってしまいます。
■妥協
妥協とは、対立した事柄について双方が譲り合って一致点を見いだし、穏やかに解決することです。
- すでに十分に譲歩しています。これ以上は妥協の余地がありません。
- 安易に妥協してしまうのは禁物です。
■折り合い
折り合いとは、譲り合って解決することです。どちらか一方が譲歩するのではなく、お互いに譲歩することを指します。
- 合併に向けての話し合いが続き、大筋での折り合いがついた。
- 折り合いがつかず、合併の契約は翌年に持ち越しとなった。
折り合いは人と人との関係を指す言葉としても使われます。
- 義母との折り合いが悪い。
- チームメンバーとの折り合いが悪く、会社に行くのが苦痛で仕方ない。
■折衷・折中
折衷(せっちゅう)とは、いくつかの異なった考え方のよいところをとり合わせて一つにまとめ上げることです。「折中」とも表記します。
- 両者の意見を折衷した。
- A案がよいかB案がよいかいつまでも議論が終わらないので、折衷策を提案した。
■歩み寄り
歩み寄りとは、意見・主張の違う双方が互いに譲り合うことです。「歩み合い」と表現することもあります。
- わたしも妥協するつもりはあるので、あなたも歩み寄ってはくれないだろうか。
- 両者が歩み寄ることで、真の理解が得られると思う。
固執する・しないを柔軟に使い分けよう

固執はネガティブなニュアンスで使われることもありますが、主張しなくてはいけないことに固執するのは悪いことではありません。
固執する・しないを柔軟に使い分け、周囲の人々や取引先などとの関係を築いていきましょう。
構成/林 泉







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