
オンラインカジノが社会問題になっている。
もっとも、オンラインカジノ自体は以前から存在し、日本ではパンデミック期にちょっとしたブームになっていた。サッカー選手、プロ野球選手、大相撲の元関取などの有名アスリートが広告塔になり、大量のネット広告を配信していたことは筆者もよく覚えている。
そして、YouTubeでは「オンラインカジノ実況」というジャンルも確立した。その内容は、配信者が大金を投じてオンラインカジノに臨むというもの。数千円の掛け金が数万、数十万、或いは数百万になるか、はたまた逆に数百万円の所持金が数千円になるか。どちらにしろ、視聴者を簡単にヒートさせる内容である。
YouTubeでゲーム実況動画を配信する者にとっては、オンライン実況はまさに「禁断の果実」であった。
ゲーム実況分野は「飽和状態」に
ゲームをプレイする様子を配信する「ゲーム実況動画」は、YouTubeでは一大ジャンルを築いている。
特にしゃべりが上手いというわけでも、ゲームプレイのレベルが高いというわけでもない素人が配信する実況動画は、時として多くの視聴回数とチャンネル登録者数を稼ぎ出してしまう。知名度ゼロから始めたゲーム実況系配信者のチャンネルが、数年後には数万もしくは数十万規模に成長しているということが今でも起こり得る。
が、そんなジャンルも「飽和状態」という罠からは逃れられない。
人気のあるタイトルの実況はライバルが多く、まだ知られていないインディーメーカーのゲームはなかなか関心が向けられない。また、特段トーク力が高いというわけではない人気配信者がいるのは事実だが、それは視聴者がトークやゲームプレイ以外の魅力や面白さを認めた結果でもある。何か一つでも、他の配信者が真似できないような面白さがなければ大きな視聴回数を獲得するのは難しい。
そのような中において、オンラインカジノ実況はゲーム実況とあらゆる点で互換性があり、しかも視聴者を容易に興奮させられるスリルが備わっているのだ。
非日常を求める視聴者
大衆は常に「非日常」を求めている。
それは日頃の退屈な日常に霹靂しているからだが、同時に「自分には決して実行できないこと」を他人に要求する心理が働く。オンラインカジノは、以前から「日本では合法でも違法でもないグレーなもの」と言われていた(日本からカネを投じてプレイするのはもちろん違法だが)。それを自分に代わって誰かがプレイし、しかも数万数十万というカネが一瞬のうちに変動する。視聴者からすれば、1日の中で最高のスリルをもたらしてくれるコンテンツだ。
もちろん、このような現象は日本だけのものではない。国外ではTwitchでオンラインカジノ実況をする配信者が10年ほど前から存在し、有名テクノロジーメディアがそれに対して警鐘を鳴らしていた。動画を視聴するだけだったはずの人が、いつの間にか自分自身でオンラインカジノをプレイする……ということが頻発していたのだ。
日本人は「欧米には日本のような厳格な賭博規制は存在しない」とおぼろげに考えがちだが、それはやはり「憧れから由来する誤解」である。たとえばアメリカでは、州によっては賭博行為自体が違法であり、オンラインカジノ実況動画の配信が賭博幇助行為になってしまう可能性も。しかし、ネットには国境も州境も存在しない。ニューヨーク在住の配信者によるオンラインカジノ実況動画が、世界各地の視聴者に多大な影響を及ぼしているのだ。
所持金の乱高下が興奮を呼ぶ
また、オンラインカジノ実況は配信者にとっては「工夫の手間」があまりかからないものでもある。
そう書くと、実際にオンラインカジノ実況をしている配信者からの怒りを買うかもしれない。が、所持金の乱高下が視聴者の興奮をいとも簡単に呼び起こせること、それはギャンブル要素のない通常のゲームにはないものということは事実である。
そういった意味でもオンラインカジノ実況はゲーム実況配信者にとっては「禁断の果実」で、いつもの動画よりも多い視聴回数と引き換えにリスクを背負わなければならないもの……という位置付けだったのだ。
しかし、「禁断の果実」は今や「ただの毒」であることが分かってきた。