「自分がどんな生き方をしたいか」を見つめ、自分に合う2拠点生活を
D:藤田さんのように、理想的な2拠点生活をするにはどうしたらいいのでしょうか。2つのエリアで居住地を構えるということは、それだけ資金も必要になります。今30代後半から50代前半の氷河期世代や、リーマンショック時に就活をしていた世代では、遠い世界のように感じてしまう人もいるかもしれません。
藤田氏:確かに、僕の場合はありがたいことに経営者なので、いろんな事を比較的自分で決めることができます。2拠点生活にする事で自分のパフォーマンスが上がることを、自分で証明できますし、感じられます。
軽井沢などでもIT企業の経営者や大手企業の役員、ミュージシャンやクリエイターが、東京のライフスタイルと同じ生活レベルを維持しながら行き来するケースがあります。でも確かにそれは、ある程度社会的に成功して、仕事に関しても比較的自分でマネジメントができ、金銭的にもある程度余裕があるという人ができることです。
一方で今、世代にもよりますが、2拠点生活をしている人の中で、「都会の生活を離れて、もう1拠点側に馴染んで、生活レベルもお金のかからないようにコンパクトにしている方」も多くいます。どっちがいい悪いではなく、「サステナブルな生き方をしよう」としている人たちもいます。
例えば会社で社員が「2拠点生活をしよう」と思った時には、交通費や家賃の課題があります。2拠点生活が「社員にとってウェルビーイングが上がること」だとしても、どこまで会社としてサポートできるかという判断が大事になってくる。会社で社員の2拠点生活を全てサポートしようとすると、例えば家賃補助や通勤定期の補助額の上限の引き上げなど、体力とお金が相当ないとできません。でもそこをやらないと、社員だけの力では2拠点生活の実現は難しい。場合よっては離職のリスクもあるかもしれない。
会社として2拠点生活という選択肢を導入することで生産性があがるなら、単純にお金以上のメリットがあるかもしれない。そういう議論がちゃんと会社単位でも、同時に国や自治体の制度としてもされないといけない。国は一応、「2拠点生活を推奨すべき」という骨太の方針は出していますが、日本の一極集中をどう地方に分散させるかなどのグランドデザインも含めて、どう進めていくかですね。
今の世の中は、もう1つの拠点の方で「起業しよう」とか、「スタートアップで事業を始めたい」という人もいれば、20代で「自分探し」に来る人もいる。また、先ほども言った「サステナブルな生き方をしよう」としている人たちもいる。「自分がどんな生き方を、どんな風にしていきたいか」だと思います。都会での生活に固執してるわけでもないのに、他の選択肢が分からないから都会の中で中途半端に生きている人もいるはずです。一方で、自然はたくさんあるけど、キャッシュはない。でも意外と野菜も生活コストも安い。「気持ち的にも穏やかになれるんだったら、もう1拠点持ちたい」という人もいる。自分が「どんな生活を望むか」を見つめて、考えることが大事だと思います。
働き方の多様化に伴い、今後も増えていく可能性がある2拠点生活。首都圏での生活や仕事とのバランスをとりながら、非日常も味わえる暮らしを実現したい人にとって、熱海は「“ちょうどいい”距離にあるウェルビーイングシティ」のかもしれない。
取材・文/コティマム 撮影/五十嵐美弥