「かわいすぎるデザインだと、被災時に周囲の目が気になる」
開発メンバーは「『猫部』がやるからには、他の防災グッズにはないキャラを立たせたい」という気持ちを最初は抱いていた。それが方向転換をしたきっかけが、企画を発足した直後に「猫部が防災グッズを作るとしたら、どんなデザインがいいか」を聞いた際の、1400通以上にのぼる顧客アンケート結果だった。
「最初は、やはりかわいい防災グッズが求められているのではという安直な仮説を立てていました。でも実際に被災した経験がある人からは『避難所では、かわいすぎるデザインはこんな非常時に浮ついていると厳しい目で見られた』という意見があったのです。『かわいいから買ったけど、気がひけて避難時に持っていけなかった』ということであれば本末転倒ですので、そこからデザインを見直すようになりました』(フェリシモ)
一般的な商品は購入者自身が使うものだが、防災グッズは家族全員で共有するものが多い。そのため、家族全員が抵抗なく使えて、愛着も持てるようなバランスも必要と考え、エイジレス・ジェンダーレスで、誰でも使えるようなデザインを重視した。キャラクターデザインも、猫のかわいさを前面に出すことはせず、公共施設のピストグラム的なシンプルさ、わかりやすさを追求した。
どこまで猫らしさを盛り込むのか、どこまでそぎ落とすのか、着地点を見出すまでデザインを担当した作家と調整を重ねたという。「イラストではよく口元がにっこりしている猫が描かれます。でも猫と暮らしている方ならご存じだと思いますが、リアルな猫は笑顔になることはあまりないんですよね。でもそのクールさ、無表情さも猫のかわいさなので、いつもくんともしもくんも、そういったイラストにすることで、猫らしいかわいさもありつつ、非常時にも目立ち過ぎないデザインに仕上がったと思っています」(フェリシモ)
防災グッズは目立たない場所にしまい込まれることが多いが、猫が描かれていることで、しまい込まれるリスクが低減できる。それには「いつもそばに置きたい」と思えるような、かわいさも必要だ。そのため、見えるところに置いてインテリアの邪魔をしない程度の、「かわいさ」と「さりげなさ」のバランスを意識しているという。
被災時にも浮かないように、シンプルな描線で猫のかわいさとクールさの両立を追求したキャラクター
人気ナンバーワンは、家族別に整理できて持ち出しやすい「薬箱ポーチ」
売れ筋商品はどれかをたずねると、真っ先にあがったのが「薬箱ポーチ」だった。
「NYAN GA ICHI 処方箋袋がきれいに片づいて見つけやすい せり上がりお薬箱ポーチの会」(月1個/3,300円)
「ご高齢になってくると複数のお薬を常用していらっしゃる方も多いので家の中のいろいろなところにお薬が散らばっていることが多いですよね。すぐに避難しなければいけない時に、家中から薬をかき集めて持ち出すのは難しい。家族が常用している薬を色別のポーチに分けて収納しておけば、それぞれが持ちだしてそのまま避難できます。このポーチの構造は使いやすさを追求して意匠登録もしているもので、私も個人的に愛用しています」(フェリシモ)
ファスナーを開けて左右に開くと中身がせり上がり、一目で取り出したい薬が見える構造。3部屋構造で整理整とんしやすく、横幅約13cmまでの処方箋袋がそのまま入れられるサイズ
一般的な救急箱はハードケースでかさばるが、布製のやわらかいポーチなので詰め込んでもかさばりにくく柔軟性がある
ひそかな人気アイテムは、超シンプルデザインのホイッスルチャーム
確かに薬箱ポーチが売れているのは理由を聞くと納得だが、ホイッスルもよく売れているというのは意外だった(あまりにシンプルなデザインのため、サイトを見た時には正直、それほど印象に残らなかった)。女性向けの通販で販売されているホイッスルは、アクセサリー的に使えるデザインが多いが、家族全員で使える主張しすぎないデザインが好まれているそうだ。
「NYAN GA ICHI もしもの時にピッー! 携帯ホイッスルチャームの会」(月1個/1,600円)
性別・年齢を問わずにバッグチャームとしてふだんからお守り的に持ち歩けるシンプルなデザイン
避難所でも気兼ねなく食べられる味と香りを追求した缶入りパン
フェリシモといえば定期便というイメージが強いが、それを活かして、食べながら備えるローリングストックを想定して開発されたのが、缶入りパン。ストップするまで毎月届き続ける定期便なので、届いたら前月分を食べるようにすれば、自然にローリングストックができ、切らしたり消費期限をオーバーしたりということがない。味もスタッフが吟味しており、「カレー味など香りが強いものは避難所で食べにくい」という意見から、香りが広がりにくいフルーツ系のフレーバーで統一している。
全年代が食べやすいやわらかな食感とフルーツ味のパンの缶づめ「NYAN GA ICHI ローリングストックにぴったり 甘くてふわふわパンの缶づめの会」(月に2缶1セット/1,400円)。卵は不使用で長期保存可能
「防災アイテムを揃えていく、最初の一歩になって欲しい」
同社が目指しているのは、「防災対策をしなければ」と思いつつ、そのきっかけがなかった人の、第一歩となるきっかけ作りとなるような商品つくり」だという。
「被災とは、普段の日常が壊されてしまうことなので、ある意味、日常のすべてが防災につながると考えています。ですから、生活の気づきや暮らしの中での不便を解消するフェリシモの商品づくりが、防災に繋がっていくのかもしれません。そこを追求していくことで、他社の防災グッズと競合しない、フェリシモらしい切り口の、『広義で言えばこれも防災だよね』というようなアイテムはこれからも増えていくかもしれないですね」(フェリシモ)
最近、防災グッズでは日常時はもちろん非常時にも役立つデザイン「フェーズフリー」が注目されている(※参考記事:おもちゃの防災用品!?非常時に役立つフェーズフリー玩具「ビッグテグミー」)。「防災グッズは特別なものではなく、普段の生活の延長線にあるもの」というNYAN GA ICHIの考え方は、まさにフェーズフリーといえそうだ。
「NYAN GA ICHI ペタンコに折りたためるマルチバケツの会」(月1個/2,200円)
ふだんは空のペットボトルを入れたり、ゴミ箱、ランドリーバッグにしたりと、マルチに活躍する
日本製のPVC素材でできていて、約5Lの水が入り、薄く折りたたんで持ち運べる
取材・文/桑原恵美子
取材協力・画像提供 /株式会社フェリシモ