
「SNS疲れ」という言葉が叫ばれて久しい昨今。自分とはまったく接続点のない誰かの投稿を見たり、ましてや友達申請してつながったりするのは労力のいる行いである。
とても受け入れがたい政治的思想を叫んでいる投稿を、タイムラインで目にしてしまった。それだけで、その日1日のモチベーションが低下してしまう。また、Instagramにありがちのセルフィーのような不自然に映えている投稿も見たくないし、自分自身も「映えた写真」を撮って公開する気はない……という人もいるはずだ。
メッセンジャーアプリでも、ゴチャゴチャした締まりのないグループチャットは一切必要ない、信頼の置ける人と好きなタイミングでつながることができればそれでいい……と思っている人も存在するはず。
Z世代を中心に「狭いコミュニティ」を追求するSNSが人気を集めている。トレンドは循環するというが、その波がSNS界隈でも確実に起こっている。
映えない光景を撮影する「BeReal」
イギリスのデイリー・テレグラフ紙が「反Instagramアプリ」と紹介したSNSがある。
毎日1回の通知に合わせて写真や動画を投稿する仕組みの『BeReal』だ。
Instagramは、敢えて悪い表現を使えば「粉飾した日常を投稿するアプリ」である。特に見るところのない凡庸な日常を、まるで特別な1日のように加工して広くシェアする。つまるところ、それが「映える」の正体だ。
しかし、BeRealは名前通り「リアル」を追及している。
1日1回、ランダムな時間に通知が届き、そこから2分以内に前後カメラで写真を撮って投稿する。写真加工アプリを使って綺麗に仕上げた写真は投稿することはできない。そして、「前後カメラで撮影する」という点に注目していただきたい。
投稿主がその時点で見ている光景と共に、投稿主自身の顔も撮影し、それが投稿される仕組みだ。通知が届いていない、もしくは届いてからしばらく経った頃合いで写真を投稿することも可能だが、その場合は「リアルタイムの投稿ではない」ことが表示される。さらに、撮り直しの回数も容赦なく表示されてしまう。「この写真は映えるように手が加えられている」ということが公にされる、というわけだ。
■映し出されるのは「ただの人」としての自分
そのような仕組みのため、たとえば昼寝から起きたばかりのタイミングで通知が来た場合、目ヤニが残っている状態の顔と自宅の何気ない光景を撮影しなければならない。「おめかしをする時間を与えない」というのがBeRealのコンセプトだ。デイリー・テレグラフが「反Instagramアプリ」と表現した理由がよく分かる。
キラキラした日常を全世界に伝えるのがInstagramなら、ごくごく平凡な日常を限られた友達やフォロワーに伝えるのがBeRealである。そういう意味で、BeRealは「狭コミュアプリ」と言えるのだ。
どのような人でも、たとえハリウッド在住のセレブでも、1日のうちの大半は平凡な時を過ごしている。アメリカ大統領ですら、「ただの人」である時間を持っているはずだ。それは当たり前のことではあるが、Instagram等の大手SNSがそんな当たり前を靄の中に包んでしまっている……という側面もある。
ごく普通の会社員が、こんなに毎日輝いているはずはない。Z世代の大半は、SNSで横行する「日常生活の粉飾」にはっきりと気付いているのだ。そうした背景があるからこそ、BeRealのような「現実的なSNS」が強く求められているのだろう。
声を使わない電話「Jiffcy」
次に解説するのは、メッセンジャーアプリ『Jiffcy』である。
これは、電話の感覚でテキストのやり取りをするアプリで、最近ではZ世代やα世代に強く支持されるようになった。恐ろしくシンプルなデザインだが、LINEにはない「リアルタイムのテキスト会話」ができる仕組みだ。Jiffcyを「声を使わない電話」と表現するメディアもある。
「LINEでもリアルタイムでチャットできるのでは?」と言われてしまうかもしれないが、たとえばこんなことはないだろうか。LINEで友達に「今話せる?」とメッセージを送っても、それに対する返信は数時間後のことだった……という出来事である。
「今話せる?」とメッセージを送っているのだから、あとから返信をもらっても意味がない。そこでJiffcyでは、電話のような発信・着信機能を備え、確実なリアルタイムトークを実現させている。
特定の人物とのやり取りに特化している設計のため、これもまた「狭いコミュニティ」のSNSと言えるかもしれない。が、これは言い換えれば「大事な人と必要な時に確実につながることができるコミュニケーションアプリ」である。このJiffcyを受け入れたZ世代やα世代は、その上の世代よりも「人とのつながり」に関してむしろセンシティブに考えている節が見受けられるのだ。