DIME MAGAZINE
犯人がわかっても、２度目以降は細かいディテールを楽しんだり、同じ題材で異なる作品を見比べたり、ミステリー映画の楽しみ方はいろいろ。
1つの事件も視点を変えて見ると面白いです
映画評論家／映画ライター 吉田伊知郎さん
映画専門誌の年間ベストテン選考メンバーや毎日映画コンクール審査員を務める。40代ながら1960年代の作品に造詣が深い。
ミステリーファンにおすすめのマニアックな見方
日本のミステリー映画は、ミステリーと銘打っていなくても謎解き要素が入っていたり、実話を取り入れた作りも多いです。去年の作品では『変な家』も、後半は完全に横溝正史の世界。原作好きからすると「なんだこりゃ」となるけれど、ミステリー好きなら後半の展開のほうが面白い。『スマホを落としただけなのに』の1作目でヒッチコックを引用したり、近年は古典を上手にアレンジしたものが出てきています。
実際の事件を引用するケースは昔からありますが、例えば横浜流星主演の『正体』は、最近の冤罪事件など実際にあった出来事がいくつか入っているけれど、はっきりそこを強調せず、うまくフィクションに落とし込んでいます。
映画は2時間の尺に収めなくてはならないので、長編ミステリーや実録物の映像化は無理のある作品も多いですが、配信の時代になって、題材によって長さを変えられるようになりました。実際の事件を元にしたイタリア映画『夜の外側』はその好例で、5時間超の大作で1話の長さを毎回変えています。Netflixの『地面師たち』も、尺が自由にできる面白さを大根仁監督が生かしているようです。
『犬神家の一族』のように有名な原作は何度も映像化されますが、時代によって作り方も視点も違います。配信だとそれらを一気見できるので、ディテールの違いや俳優の演技の違い、どのエピソードを生かしているかを見比べる、そんなマニアックな見方も楽しいですよ。
金田一耕助がお茶の間に登場
『横溝正史シリーズ 犬神家の一族』
古谷一行の金田一耕助が活躍する、77〜78年のテレビシリーズ。大映京都と東京の東宝スタジオの両方で撮影。昔の撮影所を丸々使った贅沢なセット、豪華な俳優陣も魅力。
監督：工藤栄一 脚本：服部 佳
出演：古谷一行ほか 配信：U-NEXT FOD
〈吉田的見どころ〉テレビドラマシリーズなのに、原作の長さによって話数を変える画期的な構成は、今の配信スタイルのハシリです。
実際の誘拐事件がベースに
『夜の外側 イタリアを震撼させた55日間』
イタリアの首相が極左グループに誘拐された「モーロ事件」を題材に、ボディガードや首相の妻など関係者の多角的視点を交えてつくられた大長編。
監督・脚本：マルコ・ベロッキオ
出演：ファブリツィオ・ジフーニ、マルゲリータ・ブイほか
配信：U-NEXT
〈吉田的見どころ〉本国では何度も取り上げられた題材ですが、視点を変えることで意外な真相に迫ることができます。
実話に基づかない実録作品？
『サンフランシスコ連続殺人鬼』
D・フィンチャーも挑んだ連続殺人犯ゾディアックを、まだ捜査の最中に、勝手に犯人像を想定して作ったキワモノ映画。もちろん真犯人は全然違った。
監督：トム・ハンソン 脚本：レイ・キャントレル、マニー・カルドーザ 出演：ハル・リード、ボブ・ジョーンズほか
配信：U-NEXT Prime Video DMM TV Lemio Hulu
〈吉田的見どころ〉『ダーティ・ハリー』にも影響を与えた事件の映画化で、「犯人はこんなやつ」と勝手に決めつけています
お色気と奇天烈な殺害方法が楽しい
『江戸川乱歩の美女シリーズ』
天知茂が明智小五郎を演じた土曜ワイド劇場枠の人気シリーズ。毎回美人女優が登場し、シャワーシーンも話題に。職人監督・井上梅次が多くを撮った。
監督・脚本：井上梅次
出演：天知 茂ほか 配信：U-NEXT など
〈吉田的見どころ〉乱歩は話が短いせいか、横溝ほど原作を尊重せず派手にアレンジされます。それでちょうどいい塩梅に。
取材・文／馬飼野元宏 撮影／大崎あゆみ 編集／寺田剛治
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