オカルトを信じ込むor小バカにする極端な全ての人たちへ
〈偽史も含めてオカルトには日常性を揺るがすものがある。平たくいえば人を驚嘆せしめるポテンシャル。そういうアグレッシブなところにオカルトの真骨頂があると思う〉からオカルトに魅入られたという武田さん(1950年生まれ)と、〈僕は自分が生きている現実は本当の現実じゃないんじゃないか、もっと別のリアリティがあるんじゃないかと小さい頃から思っていた。文学もオカルトも映画もすべてはその現実を乗り越えるヴィジョンを垣間見せてくれるのではないか、ただそれだけでこの歳までやってきている〉という横山さん(1954年生まれ)。
2人がリアルタイムで経験してきた1960年代から現在に至るまでに流行したUFOや心霊現象、超能力といったオカルトや、新興宗教にまつわる秘教的要素、偽史、陰謀論を自分史も交えながら取り上げ、博覧強記の知をもってその源流にまでさかのぼって論じていくというのが本書の内容です。
書店で見かけたらとりあえず目次をチェックしてみてください。「ムー」や「ガロ」、松岡正剛と工作舎、大本教と出口王仁三郎、神智学、ブラヴァツキー夫人、アレスター・クロウリーなど、サブカルくそ野郎(愛着をこめての自嘲的呼称)にはなじみのある事柄や人名も多々ありますが、読めばそのひとつひとつに関する知的探究の度合いの深さに驚嘆すること必至です。
個人史における体験談も面白くて、京都大学のUFO超心理研に入って、北から南まで、UFO目撃者や超能力少年、霊能者などおかしな人たちに会いに行っていたという横山さんの〈その時に実感したのは、世の中っていうのは自分が想像していたより変な人ばっかりなんだなと。しかも、多くは一見したところ普通のおじさん、おばさんなんです〉という言葉には「ほんと、ほんと!」とひとしきり自分の経験を思い出して笑いました。
2人の交遊関係の特殊性にも驚かされます。一般にはあまり知られていないかもしれませんが、霊能界や宗教界、超能力界隈といった“その道”における大物、重要人物と接触したり、話を聞いたり、一緒に仕事をしたりと、普通ではない系統の経験値の高さにも恐れ入るばかりなのです。
おそらくは日本でもっともオカルトに造詣と知識の深い2人だからこそ、かつてのわたしのような信じ込むor小バカにするという浅はかな態度はとりません。広くて深い視野を獲得しているがゆえに、簡単に「信じる/信じない」「黒/白」なんて結論づけたりはしません。
だからこそ〈陰謀論を信じる人は、権力構造というものに理解がないんやな。どんな全体主義国家においても対抗関係がある。いろいろな力関係があるから、そうそう好きにはできない。ナチスでさえ好き勝手にはできなかった部分もある。陰謀論者というのは社会の構造というのをものすごく単純化して捉えて、影の政府は万能で何でもできると思い込んでいる。あなたが言うように世界観がフラットなんです。(中略)ある権力が、統治される側との力関係とか分散した各機関との関係なしに完璧に好き勝手できるなんてことはない、ということは、普通にまともな人生を送っていれば体験的に分かる。だから、陰謀論は真面目に人生を送ってない人がひっかかるんちゃうかなという気がしますけどね〉という武田さんの言葉に深く納得させられるのです。
最後に、横山さんの発言を。
〈人間は何でも信じるということを、世の中の知識層はよくわかっていないんじゃないかな。だから、たとえばネトウヨやQアノンや陰謀論者をバカにするけれど、あれが人間の実相です〉
身も蓋もないけれど、その「実相」から遠く離れるためにも、情報を多面的にとらえること、疑問を持つこと、知ろうとすること、調べることの豊かな果実というべきこの傑作論談集を読むことをおすすめしたいのです。
文/豊崎由美(書評家)