
人の体の中のさまざまな活動に携わるたんぱく質。たんぱく質無くして体は機能しません。さらに、年を取るにつれ、若い頃と同じように食べてもたんぱく質の利用率は低下してしまいます。
だからこそ、45歳を過ぎたらたんぱく質は積極的に摂るべきと語るのは、医師で高齢者の栄養に詳しい吉田貞夫先生。たんぱく質というと筋肉というイメージですが、免疫力アップや血糖値の調整、血管や血液の健康にもかかわる重要な栄養素。おいしい「たんぱく質の朝ごはん」を取り入れて元気な体作りを始めてみませんか。
そこで、今回は吉田先生監修の『45歳過ぎたらたんぱく質の朝ごはん』(
たんぱく質で悩みが消える
■免疫力が上がる!抗体、受容体、酵素、細胞自体もたんぱく質から作られる
免疫は、外部から侵入するウイルスや細菌などを排除し、がん細胞の増殖を防ぐなど、私たちを病気から守ってくれる素晴らしいシステムです。免疫力を高くキープできるように日々心がけたいものです。 この免疫システムにも、たんぱく質、アミノ酸が関わっています。免疫力を上げるには、体の中にある免疫細胞がきちんと働いてくれることがとても重要です。免疫細胞は、体内のあらゆる場所に存在し、病原菌と戦ったり、殺菌したりしてくれます。この免疫細胞を作り、働かせているのが、たんぱく質、アミノ酸です。 抗体という言葉を聞いたことがあると思います。抗体もたんぱく質で、「免疫グロブリン」といいます。有害な異物が体内に入ると、その異物が持つ抗原を認識して、それに結合する抗体が作られ、異物を排出してくれます。
たんぱく質摂取量が減ると、免疫細胞の数も、活性も低下する可能性があります。とくに、低栄養状態では、免疫細胞の中でも、リンパ球の数が減少します。病気に強い体を作るためには、たんぱく質は欠かせない栄養素です。
たんぱく質、アミノ酸は、免疫細胞を作り、その活動を調整していますが、そうした役割以外でも免疫とたんぱく質、アミノ酸の関わりが解明されています。とくにご紹介したいのが、アルギニンとグルタミンです。 アルギニンは、体内の一酸化窒素(NO)の産生を高める役割があります。一酸化窒素は、血管の拡張、血流の促進、動脈硬化を防ぐなどの働きがあります。そのほかに、白血球の一種で、免疫を強化する働きのあるマクロファージやヘルパーT細胞を活性化することがわかっており、病原菌やウイルスといった外敵に対する攻撃力を高めると考えられています。 グルタミンも免疫にとても重要なアミノ酸です。グルタミンというと、うま味調味料などを連想される人もいるかもしれませんが、あれは「グルタミン酸」で、別のアミノ酸です。グルタミンは、免疫細胞の重要なエネルギー源です。グルタミンの血中濃度が低下すると、新型コロナウイルス(COVID19)の感染症が重症化したという報告もあります※。アルギニンやグルタミンは、通常は体内で合成されるので、不可欠アミノ酸ではありませんが、さまざまな疾患や低栄養などの場合には、体内での合成では不足し、食事から摂取する必要があります(条件付き不可欠アミノ酸)。※Matsuyama,T.et.al.Comorbidity-associated glutamine deficiency is a predisposition to severe COVID-19.Cell Death Differ.28(12)、2021,3199-3213
■免疫力に関わるたんぱく質
アルギニン
アルギニンは、疾患や低栄養の場合に不足する条件付き不可欠アミノ酸のひとつで、免疫細胞であるマクロファージが活性化するように働きかけます。このほかに動脈硬化や高血圧予防、疲労回復、脂肪分解など体のあらゆる面に効果を発揮します。
アーモンド100g(可食部)にアルギニン2200mg
くるみ100g(可食部)にアルギニン2300mg
グルタミン
グルタミンは、好中球やリンパ球、マクロファージなどのさまざまな免疫細胞のエネルギー源となるアミノ酸で、酸化ストレスを軽減する働きもあります。
白菜100g(可食部)にグルタミン290mg
■たんぱく質にプラスして摂りたい免疫力を上げる栄養
きのこ(ビタミンD etc.)
ビタミンDは、免疫機能を調整する役割があります。きのこには、ほかにも、腸の免疫力を左右する食物繊維βグルカンが含まれていて、免疫力を高めてくれる食材です。
かき(亜鉛)
亜鉛は、細胞分裂や新陳代謝を促す働きがあり、免疫細胞の活性化、維持にも欠かせないミネラル。NK細胞を増やしてくれるのも特徴です。かきやしらす、かつお節などの魚介類、鶏レバーや牛もも肉などに含まれています。
野菜(ビタミンA、C、D、E)
ビタミンは、免疫機能もサポートしてくれる大切な栄養素です。ビタミン不足は免疫機能の正常な反応を妨げることになり、外からの異物に対しての防御力が弱くなります。野菜は、旬の野菜を中心にさまざまな種類をバランスよく食べましょう。
こんにゃく・ごぼう(食物繊維)
免疫細胞の多くは腸壁の近くに存在していて、腸内環境のよし悪しは、免疫力に大きく関わっています。食物繊維から作られる短鎖脂肪酸は腸にいる免疫細胞を活性化してくれるので、毎日の食事でしっかりと摂取することが大切です。
■肌と髪のきれいが続く!
筋肉のほか、皮膚、内臓、血管、骨などもたんぱく質でつくられます。皮膚の約30%がたんぱく質で、主にコラーゲンです。腎臓、肝臓、消化管などの内臓を形作っているのもコラーゲンなどのたんぱく質です。血管にも特有なコラーゲンが必要です。骨はコラーゲンを主体とした基質に、カルシウムやリンなどの骨塩が沈着して作られます。毛髪や爪の成分であるケラチンもたんぱく質です。心臓は、手足の筋肉とは少し違った、心筋という特殊な筋肉で作られます。私たちの体の構造は、ほとんどすべてたんぱく質から作られています。人体の約60%が水分、約20%はたんぱく質で、水分に次いで多くの割合を占めています。
髪や肌の角質、爪などの主成分はケラチンというたんぱく質です。とくに髪は特別で、ケラチンが成分の8割~9割を占めています。つまり、たんぱく質の摂取量が減り、ケラチンが体内で足りなくなると髪のツヤや弾力が失われたり、薄毛のリスクが高くなったりします。
肌の角質や爪は、髪ほどの割合ではありませんが、やはりケラチンが多いため、たんぱく質不足によって、肌が乾燥し弱くなるなどのトラブルが増える、爪の縦筋が目立つ、もろくなるといったことが起こります。
髪や肌、爪のためにケラチンを増やしたい場合は亜鉛やビオチン(ビタミンB群のひとつ)も一緒に摂取しましょう。
■コラーゲンは体のあらゆるところで使われている
コラーゲンの割合
コラーゲンは、体のあらゆる部分の構成要素です。筋肉の腱の約 86% 皮膚の約 71% 軟骨の約53% そして、骨の約 25% 歯約 20% 大動脈などの大きな血管の約 16%がコラーゲンです。
■傷の回復にもたんぱく質が大切!
擦り傷や切り傷が治る過程で、傷から出る浸出液にもたんぱく質が含まれています。傷が治る過程ではいつもよりもたんぱく質がたくさん消費されるということでもあります。通常の傷よりもさらに、深く真皮層にまで到達する褥瘡(じょくそう、寝たきりなどで体重で圧迫されている場所の血流が悪化し起こる皮膚の傷)は、非常に深刻な状態ですが、日本褥瘡学会のガイドライン『褥瘡予防・管理ガイドライン(第4版)』でも褥瘡予防のために、高エネルギー、高たんぱく質の摂取が薦められています。
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『45歳過ぎたらたんぱく質の朝ごはん』(宝島社)1320円
監修・吉田 貞夫
医師、医学博士。ちゅうざん病院副院長。沖縄大学健康栄養学部、金城大学の客員教授を兼任。日本栄養治療学会、日本病態栄養学会、日本離床栄養学会指導医。
2004年に沖縄に移住、2018 年より現職。2022年、骨格筋量推定システムで特許を取得。医療・介護従事者向けの講演のほか、一般向けのわかりやすくユニークな講演も人気。
著書に、『患者に話したくなる たんぱく質のすべて』、『患者に話したくなる 食物繊維・腸内環境のすべて』、『高齢者を低栄養にしない20の
構成/DIME編集部