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普及するタッチ決済対応クレジットカード。海外では「Tap」と呼ばれる方式だが、実はこれには落とし穴もある。
それは、「タッチ決済は少額決済のための手段」という点だ。言い換えれば、一定以上の高額決済には全く対応できないのだ。
現在、全国各地の公共交通機関でクレカタッチ決済乗車が導入されている。が、考えてみれば電車やバスの利用は殆どの場合、数百円程度の少額決済しか発生しない。そこにタッチ決済乗車の仕組みを導入するのは自然な流れでもあるが、そのせいで普段からクレカ紐付けのスマホしか持っておらず、高額決済の時もついついそのスマホで……ということもあるのではないか。
そんな「タッチ決済の罠」について、解説していこう。
タッチ決済ではバイクを修理できない!
まずは筆者の体験談である。
筆者はバイクを2台所有しているが、そのうちの1台がいよいよタイヤの替え時になってしまった。これを修理業者に持っていって、フロント・リア共に交換してもらう。
問題は、その修理費用を決済する時だ。この業者はクレカ決済に対応し、しかもタッチ決済ができる無線端末を持っていた。というわけで、筆者はスマホを取り出して決済……しようとしたのだが、端末の画面にはエラー表示。
筆者も業者のスタッフも首を捻りながら、何度も繰り返しトライしてみる。が、結果はいずれも同様だった。
筆者はテクノロジーライターと自称して米を取っているにもかかわらず、この時すぐに「タッチ決済には金額上限がある」ということに気づけなかったのだ。タイヤの交換費用は4万3,000円。何とも恥ずかしい……。
この問題について、三井住友カードの公式サイトにこのような記述がある。
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Visaのタッチ決済やiDは、利用時にサインや暗証番号の入力が必要ないため、1回の支払いに対して上限額が設けられています。
Visaのタッチ決済は原則として15,000円が上限です。
iDの場合は、店舗によって1回の支払いに上限が決まっている場合があります。いずれも上限額を超えた場合は利用できないため、支払いが高額になる場合は注意が必要です。
(Visaのタッチ決済とiDはどっちがお得?違いや使い分けを解説-三井住友カード)
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クレカで飴を買うのは「不自然で面倒な行為」だった
「タッチ決済には上限額が設定されている」という事実は、しかしながらそれ自体が一般に周知されていないようにも思える。
日常生活を送る上で、一度に1万5,000円も使うような買い物はあまりないだろう。しかし、たとえば家電量販店でPCを購入する際、手元にはクレカと紐付けのスマホしか持っていない……という場合は、ここでの購入を諦めて自宅に戻ってカードを持ち出すしかない。
タッチ決済とは、カードそのものを省く目的の機能ではないことを今一度確認しておきたい。あくまでも少額決済に特化した仕組み、と表現すればいいか。その目的は、カードではなく小銭を省くことである。
この記事を書いているちょうどその時、テレビではアメリカのトランプ大統領が1セント硬貨の製造を指示したという話題が報じられている。トランプ大統領のこの判断の賛否はともかく、キャッシュレス決済の普及が少額硬貨の製造枚数に多大な影響を与えていることは事実である。
が、振り返ってみると昔は「クレカは高額決済のためのもの」だった。
コンビニへ行ってクレカでガムや飴を購入する行為は、それこそハンマーで蝿を叩き落すようなものという具合に捉えられていたことを1984年生まれの筆者はよく覚えている。その店がクレカ決済に対応しているかそうでないかはさておき、飴を買うのにわざわざ売上表にサインをするのか。そんな面倒なことをするのなら、最初から小銭を持って行ったほうが早い……と考えるのは極めて自然な人の情である。
カードは「すぐに取り出せる場所」に置いておこう!
そのような状況から、サインのいらないタッチ決済の確立により「クレカで飴を買う」ことが不自然な行為ではなくなった。
ところが、それ故に「高額決済の時にはタッチ決済は使えず、カードの差し込みが必要」という事実をカスタマーもスタッフも忘れてしまう現象が起きているようだ。
筆者の意見としては、クレカとスマホの紐付けは積極的に行うべきである。やはり、スマホを介した非接触決済の利便性は捨てられない。ごくごく平凡な日常生活を送るのであれば、スマホ1台で事足りる。
ただし、カードは自宅の「すぐに取り出せる場所」に置いておきたい。高額決済に臨む時が突然訪れた場合でも、難なく対応できる態勢は整えておくべきだろう。
カードを金庫にしまうのもひとつの手ではあるが、今日びクレカはナンバーレス化が進んでいて、万が一誰かに盗まれても「アプリを開かなければカード番号すら分からない」という設計になっている。こうした面での堅牢性も考慮すると、カードは机の引き出しに入れていても特段支障のないものと言えるのではないか。
いずれにせよ、「タッチ決済には上限額がある」ということは頭の片隅に入れておくべき厳正な事実である。
【参考】
Visaのタッチ決済とiDはどっちがお得?違いや使い分けを解説-三井住友カード
文/澤田真一
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