
お手頃価格の家具店などのフライパンを使って、早10年が過ぎた。10代後半で一人暮らしを始めてから、いったい何度買い替えただろう。「こびりつきにくい○○コーティング」などと謳っているものも多いが、実感できるのは最初の数カ月くらいのものだ。
数千円とはいえど、何度も購入しているとコストが気になってくる。そこで生まれたのが、「背伸びして高級フライパンを買えば、むしろコスパがいいのでは…?」という疑問。
それを解消すべく、米国発の調理器具メーカー「ビタクラフト」に話を伺った。本記事では、その回答をもとにフライパンの賢い選び方、長持ちさせる使い方、そしておすすめモデルをお届けする。
ビタクラフトは、1939年から続く米国発の調理器具メーカーだ。写真:ビタクラフト
価格差は性能に現れる。フライパンの素材、工法、デザインの違い
・フライパンの価格差を決める、主なポイントを教えてください。
まずは素材や工法です。シンプルに、価格が高いものほどより優れた品質を採用しています。コーディングを例に挙げると、低価格帯の製品は本体の金属がアルミであることが多いのに対し、弊社製品が主に使用しているのは、ステンレス+アルミの多層構造鋼です。やや重量は増すのですが、熱効率や耐久性の点で優位性があります。
内面のコーティングに使われるフッ素樹脂素材やセラミック素材にもグレードが存在します。当然、高性能なほどコストは高いです。
・簡単にいうと、価格によって性能差があるということですね。
そうですね。また、使い勝手も含めた「デザイン」へのこだわりも、価格差が生まれるポイントです。時間や手間をかけて製品開発を行うと、そのコストが価格に転嫁される可能性があります。
弊社はデザイン面に多くのコストをかけている意識はあまりありません。ただ、より良い製品を作りだすために工数をかけたり、素材選びをこだわったりしているため、それが価格に反映されてはいますね。特にハンドル(取っ手/持ち手)は、デザインや材質が使い勝手に直結しコストにも大きな影響を与えるので、無視できない要素です。
たとえばビタクラフトのスーパー鉄シリーズのハンドルは、中が空洞で熱くなりにくい。美しい曲線も、手になじみやすいポイントだ。
料理ベタこそ高級フライパンを買うべき?
·性能差があることはわかったのですが、実際に使って料理したとき、どんなところで違いを感じられるのでしょうか。
たとえば熱伝導性が高い製品は、均等に熱が加わるので焼きムラが少なくなります。また、食材がくっつきにくくなったり、焼き色が美しく仕上がったり、というのも利点ですね。そして、蓄熱性が高い製品は調理時の温度変化が少ないため、火加減の調整がしやすいのもポイントです。食材にじっくり火をとおすことができます。
蓄熱性の高いフライパンであれば、きれいな焼き色をつけやすい。また、炒め物もシャッキっと仕上げられるとか。
・料理が苦手な人も、高級料理器具を使えば美味しく作れるものですか…?
料理の味や出来ばえを良くするには、火加減などの「技術」が必要です。道具の特徴を理解して、適切なタイミングで調理しなければなりません。そのため、良い器具だから料理が美味しくなるわけではないのです。逆に料理上手な方は、「弘法筆を選ばず」の例えもあるように、どんな調理器具でもそれなりに上手く仕上げられるでしょう。
ただ、調理技術や道具に対する経験値があまりない方が料理をする場合、高性能・高品質な調理器具がサポートできることが多いのも事実です。
・コーティングの性能などはまさにそうですよね。
はい。ただ、コーティング性能が高いからといって、絶対にくっつかないわけではありません。高級なフライパンは「失敗しにくい」のではなく、「より美味しく調理したい」をかなえるためのポテンシャルが高い道具、と考えるとわかりですね。
「ビタクラフト」ってどんなブランドなの?
・ちなみに、「ビタクラフト」のフライパンの強みはどんなところにあるのでしょうか。
一番は、広く使われているコーティング製品だけでなく、ステンレスや鉄など多様な素材のラインナップを揃えている点です。特にステンレス多層鋼のフライパンは単に「焼く」「炒める」だけではなく、浅鍋として「蒸す」「揚げる」などの調理、オーブン調理など、マルチな用途でお使いいただけます。
・Webサイトに「スーパー鉄」というカテゴリがあるのですが、通常の鉄鍋との違いを教えてください。
独自の窒化4層加工によって、より錆びにくく手入れの手間がない製品です。近年人気が高まっており、スタイリッシュなデザインもご好評いただいています。
ビタクラフトのスーパー鉄シリーズは、成形、窒化加工、表面仕上げ、部品の取り付け、最終検品まで、全工程を国内で一貫して行なっている。
・おおよそ1万円前後という、価格設定の理由が理解できてきました。
ありがとうございます。いずれも高性能・高品質志向を開発方針としているため、比較的価格はお高めです。ただ、料理が美味しく仕上がり、長くお使いいただけるので、特に料理好きのお客様からの高い評価をいただいております。リピーターが多いのも特徴です。
素材とサイズから、賢くフライパンを選ぶ
・家庭料理を作る人に向けて、フライパンの”選び方”を教えてください。
まず大切なのが素材です。それぞれ特徴が異なり、得意とする料理も変わってきます。
コーティング製品はこびりつきにくいので、失敗が少なくお手入れも簡単。万人向けです。卵料理やチャーハン、餃子などくっつきやすい料理にも気軽に使えます。ただ、コーティングは劣化するものなので、長く使いたいという方は鉄やステンレス製品もおすすめです。
鉄フライパンは丈夫で高温に強く、ステーキなどの肉料理をカリッと香ばしく、中はジューシーに焼き上げることができます。野菜炒めをシャキッと仕上げたいときにもいいでしょう。
ステンレスフライパンは鉄に近い特性を持っていますが、煮込み料理や蒸し料理など、じっくりと火をとおす料理がより得意です。
近年ではPFAS問題などで環境に対する意識が高まっており、コーティング製品の乗り換え先として鉄やステンレスのフライパンに注目が集まっています。少し調理にコツを要しますが、慣れればよりおいしく調理ができるので、まだ手にされたことない方はぜひ一度お試しください。
・サイズ選びもいつも悩んでしまいます。
作る料理や家族構成によって最適なサイズは異なります。ただ、マルチに使える1台が欲しい場合、深型のフライパンがいいかもしれません。炒め物はもちろん、ちょっとした汁物や煮物にも使えますから。
コーティング製品を長持ちさせるコツは?
・現在、私はコーティング製品を使っています。少しでも長持ちさせるために、日常的に注意すべきポイントはありますか?
コーティングを劣化させる主な要因は、「高温」と「摩耗」です。
使用頻度にもよりますが、ふっ素樹脂加工などのコーティングの寿命は通常1年程度、長くて2~3年程度とも言われています。高温はコーティング劣化の原因になるので、ほとんどのメーカーが推奨するのは中火以下での利用です。中火で使っていても、長時間熱すると高温になるので注意しましょう。特に空焚きは、コーティングへの負担が大きいので絶対に避けてください。
また、金属製のキッチンツールを使うのは避け、木製やシリコン製のものを用意しましょう。洗浄も、金属タワシなどの硬い素材は避け、柔らかいスポンジを使う必要があります。
・使用後、急激に冷やすのも良くないと聞いたことがあります。
そうですね。細かいところだと、収納時にほかの鍋などと重ねるのも避けるべきです。また、こびりつきにくいからといって油を使わなくていいわけではありません。適切な量の油を使うことを心がけましょう。総じて、コーティングにストレスを与える使い方はできるだけ避ける、ということですね。コーティングの寿命は、性能もさることながら、日頃のご使用方法に左右される部分が大きいです。
・最後に、ビタクラフトのおすすめフライパンを教えてください。
3つのジャンルに分けてご紹介しますね。
【ステンレス製品】
ビタクラフト Nシリーズ
ステンレス+アルミの全面7層構造で熱効率に優れた、鍋・フライパンシリーズ。フライパンはフタが標準で付属し、ビタクラフトならではの無水・無油調理も楽しめる。
【鉄製品】
ビタクラフト スーパー鉄
独自の窒化4層加工で錆びにくく、「焼き入れ」や「油ひき」などの面倒なお手入れも不要。料理が美味しく仕上がり、初めての人でも安心して使える鉄フライパン。
【コーティング製品】
ビタクラフト カーペンター
本体はステンレス+アルミの全面2層構造で、スピニング加工により軽量化を実現。高品質コーティング採用でこびりつきにくく使いやすい、日本製フライパン。
文/関口大起(https://x.com/t_sekiguchi_)