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2024年の国内出国者数は35.2%増!人間が旅行に行きたくなる心理「フォレスタルジア」とは何か

2025.02.18

 行ってよかった旅の思い出は後からしみじみと振り返ってしまうものであり、同じ土地にまた行きたくなったり、実際に再び訪れることもあるだろう。

このように過去に体験した心地良さを求めて同じ場所へ行くのも大いに結構なのだが、積極的な旅好きにおいて次の旅先は“新たな体験”を求めて選ぶ傾向が高いことが最新の研究で報告されている。旅行好きは基本的に“未来志向”であるというのだ。

未来志向に訴えるフォレスタルジアマーケティングとは?

 日本政府観光局(JNTO)によると、2024年の年間の日本人出国者数(推計値)は1300万7300人で2023年の962万4100人から300万人増加(35.2%増)と大幅な回復を見せており、旅行への機運が高まっている。では人々は旅先にどこを選ぶのか。

 有名なキャッチコピー「そうだ○○、行こう」などのように、レトロな懐かしさや心地良さを演出して旅を検討している人々を消費行動に結びつける戦略はノスタルジアマーケティング(nostalgia marketing)と呼ばれ、旅だけでなく建築やインテリア、商業アートやファッション、料理やフードアイテムなどにも適用されて研究も幅広く行われている。

 とはいえ我々は懐古趣味に浸ってばかりいるのだろうか。

 久しぶりの旅行で懐かしい場所を旅先に選ぶことにはじゅうぶん共感できるのだが、一方で積極的に旅を楽しみたい人々は懐かしい場所よりも“新たな体験”を求めてまだ見ぬ場所を旅先に選ぶ傾向があることが新たな研究で報告されている。

 ワシントン州立大学をはじめとする研究チ―ムが2024年12月に「Journal of Hospitality & Tourism Research」で発表した研究によると、人々にどこかへ行きたいと思わせるマーケティングにおいて、未来志向は懐古趣味よりも効果的であることが示唆されている。

 研究チームは懐古趣味に浸るノスタルジアに対立する概念として、未来志向でこの先に待っている体験に胸を躍らせる感情として「フォレスタルジア(forestalgia)」を提唱し、フォレスタルジアマーケティングの可能性を探っている。

 研究チームは665人のアメリカ人旅行者を対象に3つの実験研究を実施し、新たな体験をアピールするフォレスタルジアに焦点を当てた旅行広告は、懐かしい思い出に基づくノスタルジアマーケティング広告よりも旅行商品の販売に効果的であるとの結論に達した。

 研究ではまたフォレスタルジア広告は、今後の体験を想像することで旅行計画がより鮮明で実現可能に感じられるため、人々に近い将来の旅行を予約させるのに特に効果的であることも明らかになった。少し先の旅行計画においてフォレスタルジア広告が特に効果を発揮しているのである。

 研究チームによれば、旅行好きな人々は未来に焦点を当てたメッセージに好意的に反応しており、フォレスタルジアマーケティングは将来を理想化するという人間の自然な傾向を利用しているということだ。

 特に旅行が趣味というわけではない者は、久しぶりの旅の行先としてかつて訪れた旅先を懐かしみながら「そうだ○○、行こう」ということになるかもしれないが、旅行が好きな人々は初めて訪れる場所に思いを馳せながら次の旅先を選んでいる“未来志向”の実態が見えてくるのかもしれない。そして供給側からしてみれば“未来志向”の人々にアプローチしたほうがより大きなマーケットが取れることにもなるだろう。

フォレスタルジアマーケティングが狙う未開拓のブルーオーシャン

 ノスタルジアマーケティングについてはかねてから広く研究され旅行業界にも長らく適用されてきたが、フォレスタルジアがマーケティング分野で扱われるようになったのは2023年からであるという。

 ノスタルジアマーケティングに比較すると研究はまだまだ初期の段階にあるフォレスタルジアマーケティングだが、今回の研究結果から理想の未来への憧れを表現するこの未来志向のアプローチは、観光マーケティングにおいて大きな可能性を秘めていることが示唆されている。

 ノスタルジアには懐かしさもあればほろ苦さもあり、過去の経験は往々にして肯定的な記憶と否定的な記憶が混在している。ほろ苦い思い出であっても「バラ色の回顧(rosy retrospection)」の認知バイアスが示すように、よほど酷いことでなければ「今となってはそれもいい思い出」だと再解釈する傾向も我々にはあるのだが、過去の体験そのものをなくすことはできない。その意味でノスタルジアには楽しさと後悔の両方を含む複雑な記憶がつきまとうことになる。

 その一方でフォレスタルジアはこれから起きる物事への期待であり、旅行者は将来に起こる可能性のみに焦点を当てることができる。人間は未来を理想化する傾向があり、近くに控えている旅に期待しているだけでよいのだ。

 今回の研究では時間的距離 (旅行日までの主観的時間) が広告の効果をどう左右するかについても調査しており、フォレスタルジアに焦点を当てた広告は1年以内の旅行を宣伝するときに最も効果的であった。

 研究チームよれば、近々旅に出る状態にある者は具体的な計画を立てる可能性が高くなり、たとえばフライトの予約、宿泊施設の確保、アクティビティの計画を立てることを通じて、来るべき旅行がより自由でエキサイティングなものに感じられるようになるという。

 これまでの観光キャンペーンではノスタルジアマーケティングに頼るケースが多かったが、今回の研究はフォレスタルジアマーケティングが狙うことのできる未開拓の“ブルーオーシャン”を浮き彫りにしたともいえる。

 ノスタルジックな“夢よもう一度”という方向性もいいのだが、“待ち受ける新たな体験”をアピールすることで、確かにこれまでは取りこぼしていた需要を獲得できるかもしれない。そして旅行者においても、近く訪れる“旅立ちの日”に期待しながら過ごす日々は単調であったとしても充実してきそうである。

※研究論文
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/10963480241305764

※参考記事
https://news.wsu.edu/press-release/2025/01/22/wsu-study-shows-travelers-are-dreaming-forward-not-looking-back/

文/仲田しんじ

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