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SNSのビューティーフィルターがメンタルにもたらす「自己客体化の闇」

2025.02.22

 見た目の良し悪しでひとまずその人物を評価してしまうルッキキズムは広い意味での認知バイアスである。人の数だけ容姿は違うことから無意識に比較し評価してしまうのは仕方ないともいえるが、SNS全盛時代を迎えた今日、そこに新たな現象が生まれている。容姿を他者と比較するのではなく、美容加工フィルターで加工された自分と比較してしまう現象である。

美容加工フィルターの使用でメンタルヘルスが悪化

 インスタグラムをはじめとするSNSでは決して少なくないユーザーがいわゆる美容加工フィルターで修正した自分の写真を投稿している。これらのフィルターはご存知のように自分自身をより社会的に好ましいと思われる容姿に修正するものである。

 こうした美容加工フィルターの登場で、人々は自分の容姿を他者と比較することに加えて、加工された自分と比較するという新たな認知的負荷が課されることになったのだ。この新たな認知的負荷はメンタルにどのような影響を及ぼすのだろうか。

 米ミズーリ大学コロンビア校の研究チームが2024年11月に「Computers in Human Behavior」で発表した研究では、美容加工フィルターを使用する者は、自分の容姿を加工修正したイメージと比較することで、身体醜形障害の傾向が強まり、減量したいという欲求が高まることを報告している。

 これまでの社会的比較理論(social comparison theory)は、他者と比較することで自分自身を評価するメカニズムを説明してきたのだが、美容加工フィルターの登場によって自分の実際の外見を理想化されたバージョンと比較するという新たな力学が導入されたのだと研究チームは説明している。社会的自己比較(social self comparison)と呼ばれるこの現象は、SNSの使用に関連したメンタルへのネガティブな影響を増幅させる可能性があるという。

 主に19歳から66歳、平均年齢36歳の187人の女性が参加したオンラインの調査で参加者は3つのグループに分けられた。

 Aグループは自分の写真を実際に美容加工フィルターで加工修正した。その際、より魅力的な容姿に加工修正することが求められた。

 Bグループは美容加工フィルターを使って自撮り画像を加工修正している他者を観察した。

 Cグループはコントロールグループで、自分の写真の色合いを変えられるフィルターを使ってみる体験をした。

 その後、参加者は身体醜形障害の程度、自己客体化の程度、減量欲求の程度、アンチ肥満の程度、実際の外見よりもフィルタリングされたイメージを好むかどうかを測定する質問に回答した。

 収集した回答を分析した結果、美容加工フィルターを使用したAグループは、BグループやCグループと比較して、身体醜形障害の考えが強くなる傾向があり、減量に対する強い願望を抱く傾向もまた高まることが浮き彫りになった。

 これらの傾向が高まることは、自分の外見に対する歪んだ認識を反映しており、実際の外見に対する不満とそれを変えたいという願望に基づいている。そして現在の自分の容姿と理想の容姿のギャップが大きいと報告しており、美容加工フィルターの使用が、実際の自分の外見に対する不満を悪化させていることも明らかになった。つまり美容加工フィルターの使用がメンタルヘルスを悪化させているのである。

美容加工フィルターの使用で強まる自己客体化

 今回の研究のもう1つの重要な発見は、美容加工フィルターを使用した参加者の自己客体化(self objectification)の傾向が強まっていたことだ。自己客体化は個人が主に外見に基づいて自分自身を評価する場合に発生するもので、つまり自分の肉体の“モノ化”である。

 美容加工フィルターのユーザーは、体重や魅力などの外見に関連する特性を外見以外の特性よりも自分のアイデンティティの中心として位置付けていることが示されることになった。

 美容加工フィルターの使用で強まる自己客体化の傾向は、メンタルだけでなく拒食症やその反動による過食症などで肉体にも悪影響を及ぼす可能性がある。

 そして自己客体化の傾向が高い者は自分だけでなく他者に対しても厳しくなっている。

 自己客体化の傾向が高い者は肥満に対してより強く軽蔑しており、痩せていることを美しさや成功と同一視する社会的圧力に加担しているといえる。さらに美容加工フィルターで痩身に加工している他者についてもより強く軽蔑していることも明らかになった。

 美容加工フィルターをよく利用している者の多くは、実際の無修正写真よりも加工修正した写真のほうを好んでいるのだが、それは当人の自尊心に対する認識を変え得るものであり、素顔の自分が魅力に欠ける存在であると認めることにもなる。SNSを介さないリアルな対面交流において自信を損なうことにもなるだろう。

 SNS全盛時代において過度に加工を施したセレブやインフルエンサーの写真を目にすることも少なくないのだが、英紙「Daily Mail」によると英企業「ID Crypt Global」が778人を対象に行った昨年の調査で、18~25歳の3分の1が自分の写真を投稿する前に加工していることが報告されている。美容加工フィルターは考えられているよりも一般に普及しているのである。

 自分も含めて目に入る人々の容姿についての評価はある意味で本能的に行われるため完全に払拭することはできそうもない。進化の過程において人間は周囲の他者の能力をその外見から正確に察知する能力を高めてきており、特に生殖戦略的には容姿もまた重要な評価ポイントである。

 その意味ではルッキズムはきわめて根深い人物評価の傾向なのだが、もちろん外見からはうかがい知れないその人物の内面もいろいろあるはずだ。

 パートナーや親友などの深い関係を築く相手を容姿だけで選ぶことはまずないと思われるが、あえて関係を深めなくてもよい“緩い”交流ではルッキズムに流されやすくなるのかもしれない。そしてそれはSNSでの交流でも多く見られるものだろう。“緩い”交流での安易なルッキズムが問題を根深くしている可能性は大いにありそうで自覚が求められるところだ。

※研究論文
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S074756322400387X

※参考記事
https://www.psypost.org/social-self-comparison-the-darker-side-of-augmented-reality-beauty-filters/

文/仲田しんじ

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