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人の移動は常に道路と共にある。
道路をきっかけに都市と都市とが接続し、その結果として新たな文化やビジネスの形態が生まれるということは珍しくない。愛知県名古屋市と豊橋市をつなぐ「名豊道路」の全線開通は、その沿線地域のみならず東西に位置する地域にも経済的インパクトを与えると期待されている。
何と、100kmに及ぶ「無信号道路」が現代日本に爆誕するのだ。
静岡県民とバイパス道路
東京と名古屋の間には、読者の皆様もご存じの通り2本の東名高速道路が通っている。
この高速道路を使わない陸路、いわゆる「下道通り」を使って東西を行き来する手段も、もちろんある。筆者のように静岡県に住んでいると、そのような機会が頻繁に出てくる。静岡市葵区から清水区(旧清水市)へ行くには、高速道路ではなく静清バイパスを選ぶのが一般的だ。人にもよるが、住まいが静岡県中部であれば片道100km以内の距離は高速道路を使わずとも、下道で快適に往復できる……という発想になっていく。
それはもちろん、高速道路の利用料金との兼ね合いもある。多少の我慢を強いられたとしても、この物価高の時代である。タダで移動できるに越したことはない。
そんな静岡市民、そして静岡県民にとっても名豊道路全面開通は朗報である。
約100kmの「無信号バイパス」が!
全線約73kmの名豊道路は、3月8日に控える蒲郡バイパスの蒲郡IC~豊川為当IC間約9kmの開通をもって全面開通となる。
これにより、名古屋~豊橋間の無料道路での移動時間が1時間50分から1時間に短縮されるだけでなく、何と名古屋~浜松間の約100kmに渡る無信号バイパスが誕生するのだ。この間の移動時間はそれまで3時間かかっていたのが、僅か1時間40分になるという。
これはもちろん、現地の物流に多大な影響を与えるはずだ。
太平洋ベルトの一画を成す中京工業地帯、そして東海工業地帯は「物流の安定性」に支えられている地域でもある。工場で組み立てられた自動車を三河港に運んで、そこから船で遥か太平洋の向こうのアメリカまで持っていく。その流れをより効率的に行うとしたら、工場から三河港までの道路の整備は必要不可欠である。
が、名豊道路の経済効果はそれだけではないだろうと筆者は考える。
人流の活性化
名豊道路の全線開通の影響がより伝わるのは、産業用車両ではなく一般の自家用車ではないかと思う。
静岡県中部の住民は「今度の日曜日に名古屋へ足を延ばしてみるか」ということを考えやすくなるだろうし、名古屋市民も「今度の日曜日に静岡へ行ってみるか」ということになっていくはずだ。こうした具合に自家用車の移動が活発になると、バイパス沿線地域にはより多くの来訪者受け入れ施設が求められるようになる。言い換えれば、そこに投資の余地が生まれるということだ。
静岡市民の筆者の視点から見れば、今後は我が静岡市に西からの地域物産が大量に輸送されていくだろうと推測する。もちろん、その逆もあり得る。そこに人流も伴えば、静岡中部と中京地域が経済的に大合併するイベントが発生するのではないか。
道路がもたらす経済効果
道路が1本開通するだけで、驚くべき経済効果が見込まれる。
20年前であれば、このようなことを記事に書いたら炎上していた可能性がある。2000年代の日本のトレンドは「日本は道路を作り過ぎている。無駄を減らそう!」ということが叫ばれ、道路の新設を唱える声は容赦なく叩かれていた。
しかし、たとえば中部横断自動車道は静岡市から山梨県南部を接続して移動を容易にしただけでなく、それまで日本海側から海産物を仕入れていた都市のスーパーマーケットに太平洋側の海産物を供給するという役割を果たしている。東名道や新東名道が何かしらの理由で通行止めになった場合の迂回路としても、その役割は非常に大きい。
そこに地元の地銀や信用金庫といった金融機関が何らかの形の投資を行えば、高確率で沿線地域は活性化する。
ネットが列島の隅々まで行き渡った現代、だからこそ人流と物流が以前よりも活発になり、それに応じて道路の重要性がかつてよりも増していると言えよう。
「スタートアップの成功」に欠かせない道路になる⁉
さて、この記事を執筆している最中にこんな話題が舞い込んできた。
静岡県の鈴木康友知事が、新年度の当初予算案を発表した。その中の一般会計は過去最大規模の1兆3,723億円に上るという。
鈴木氏は、去年の静岡県知事選挙において「スタートアップの育成」を掲げて当選した人物。その公約通り、スタートアップ支援に6億8,000万円を充てるそうだ。
各地に所在する優秀な人材を、特定の場所に速やかに移動させる。スタートアップの成功にはそうした「効率的な人流」が欠かせない。モノづくり関連の企業であればなおさらで、大量の部品や製品を低コストで輸送できる道路がそこになければならない。
そうした意味で、鈴木氏は実に絶妙なタイミングで知事に就任した人物と言える。名豊道路の全面開通をきっかけに、その周辺自治体にある種の「産業革命」が起こる可能性も十分に考えられるのだ。
【参考】
国道23号名豊道路-国土交通省名四国道事務所
国道23号名豊道路 全線開通の効果-国土交通省名四国道事務所
文/澤田真一
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